第2章 妻の裏切り

第26話 裏切りの始まり

 電話で義父に頼み、一度、妻を実家に連れて帰ってもらった。

 私が怒鳴られたり叩かれたりしたのは、「妻の性格だから仕方がない」「自分が選んだ人だから」と何とか我慢できたが、まだ幼い娘に手を出すのはどうしても許せなかった。

 こういう事態になるのが怖くて、時々キレる妻を支えながら、必死で娘の世話をしてきた。

 世間一般の家庭は逆じゃないかと思う。

 同じ会社の女性社員から同情されたりもした。日中の会社勤めと夜中の育児のために目まいで倒れたりもした。それでも妻ができない以上は、父親の自分がするしかなかった。何か言えば、妻が逆上して、トラブルになるだけだった。

 結局、自分の我慢だけでは、解決できる問題ではなかった。


 五月三日、妻と義父が私の実家に謝罪に訪れた。

 娘は私のそばを離れず、「おかあさん」と呼びかけることもなかった。

 その夜、再び義父が来た。

「娘が死にたいって言っているんです。崇司さんに叱ってもらえばいいから、帰りたいと言っているので、どうか戻してください」

 玄関で土下座して詫びた。

 翌日、妻から「五月五日は、こどもの日だから、三人で出かけたい」というメールが届く。

 次の日、水族館に行く。三人で魚に餌をやった記憶が今も残っている。

 帰りの車の中、

「一緒に暮らさないと、私が変わったことが分からないじゃない。反省した自分を信頼して、これからの姿を見て、判断してほしい」

 そう頼む妻に、私にしか娘が懐かなくなってきているから、少しずつ母親の役割を増やしていくようにお願いした。

 再度、妻と私と互いの両親が集まった。

 私の父は、

「家の中を円満にして仲良くやっていってもらいたいし、孫がもっと懐くように母親としてもっと世話をしてやってよ」

 と妻に頼んだ。


 これで、すべてうまくいくものと信じていた。

 ただ、こういう人は一筋縄ではいかない。こういう人を育てた親も同種の人間だ。普通に生きているとなかなか分からないかもしれないけれど、こういうふうに謝罪や反省の意を示しながら、平然と裏切る人間が世の中には存在する。

 十分に注意してほしい。こういう相手と結婚して、何か問題が起きた時に、その両親を頼っても実はどうにもならないどころか、逆に問題が大きくなること場合がある。犯罪者じゃないという程度の人間で、心の中では何を考えているか分からない。

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