第15話 三人でドライブ
妻が暴走した秋の話。
三人で隣の県までドライブに出かけた時、サービスエリアで妻に娘を預けて、トイレに行こうとすると、娘が嫌がって泣くため、娘を抱っこしたままトイレに入った.
しっかりと片手で娘を抱えたまま、用を足すという至難の業。
いつか娘が大きくなって、この一文を見た時、「何してんの、お父さん」と思うかもしれないけど、それぐらい、お母さんに懐かなくなっていて、どうしようもなかった。放っておけないくらい、大事な娘だったから。
いつもと違って、高速道路では、私が運転し、妻が後ろに座った。
チャイルドシートで娘が泣くと、妻はあやし方が分からない様子で、泣きっぱなしにしておくだけだった。こういう時の妻の気持ちはどんなだったろう。「うるさいな」とか「めんどうくさいな」なのだろうか。ミラーに映る表情は、ただ静かに固まっているだけだった。
一般道路なら後ろに手を伸ばしてあやすこともできるけど、山の中をカーブしていく道で、しっかりとハンドルを握る手では、そんな芸当もできない。
幼児番組のCDをかけて、一緒に歌ってあげるぐらいしかできなかった。
「ぐるぐる~、ドカーン♪」
後ろの席からは見えないかもしれないけど、お父さんは、ちゃんと見てるよ。
「ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる♪」
ほら、ちゃんと声も聞こえるでしょう。
帰り道、暗闇の中で、たまに高速道路の照明に照らされる妻の顔は、無言のまま白く冷たく凍っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます