第80話 ローナの能力! 彼女?


 行きの倍の時間を掛けて研究施設へと帰還する。



 ここで情報部研究施設の紹介。

 この施設の外観は「土星型惑星」に似ている。

 直径五km程の惑星にあたる巨大な球体と、それを囲んでいる直径四百m程で太い

 球体と輪の表面は隠蔽迷彩が施されており、全方向からやってくる各種電磁波の進行方向を変えることなく「素通り」させる加工がなされているためその姿を捉えるのは容易ではない。

 また内側からの電磁波も完全にシャットアウトする処置が施されているので、接触でもしない限りは発見するのはまず不可能。


 次に輪に当たる部分。ここには宇宙港や各倉庫、電源炉や資源加工・処理場などが収められており、主にアンドロイド達が作業を担当。

 その輪から中央の球体へと等間隔で「チューブ」にて繋がっており、そのチューブを通して人や物のやり取りを行っている。

 そして中央部の球体にこの施設で働いている職員がおり、大まかに「居住区」「研究施設区」「福利厚生区」「その他情報部関連区」と区切られており、そこで二千人程度が各々の任務に就いている。


 外への玄関口となるドックは「輪」の部分のあり「惑星ラング」の宇宙港ドックと同じく横並びで設けられておりその数は計十隻分と少ない。

 その後、紆余曲折を経て探索者となった「潜入諜報員の二名」の受け入れも考慮し、役目を終えた輸送艦や資源採掘船と引き換えに「特殊な宇宙船」である探索艦が問題なく入れるように拡張工事を行った。

 その後新たに情報部由来の「秘蔵っ子」である探索者が二名候補生入りし、先を見据えてその者達にもドックを用意しようとしたが、ローナに「これ以上は不要」と言われたので改築は行われなかった。


 不要な理由として、探索艦は外的要因では壊れないし、内部の機器も故障は起こさないと「完成」された逸品。

推進装置や圧縮倉庫といった部品は「いざ」に備えて予備として艦内部に圧縮保管してあるので、簡単な整備は(動力部の交換に時間は掛かるが)自前で出来るし、機密に該当する重要部品である外装を構成している物資や艦AIは探索部本部でないと修理は出来ないし部品も手に入らないのだから専用の施設は要らないと。

さらに「ペアが二人揃ってここに来るのはリスクがあり過ぎる」と言われ「ここは「いち拠点」であり、研究者でもない自分達には用がない。ましてや四人揃ってくるとかあり得ないので増やすだけ無駄」と正論を言われたら計画を取り下げるしかなかった。


 事実ローナもそしてラーナも、呼び出さない限りは宣言通り寄らなかった。

 逆に施設を利用するのは専らミアノアで「《環境が良い》から研究が進む」と喜んで使っていた。


 そういう経緯で探索艦船用ドックは二個所しかない。だが今回は計六艦の探索艦が寄港している。

 各ドックには番号が割り振られており一番ドックはローナ用で二番ドックはラーナ用。この二つが探索艦専用ドック。

 但し今回はラーナが不在なのでミアが利用。


 残りの者達は三番以降を使うのだがそのままでは使えない。

 何が問題かといえばドックの形状と用途の問題。

 このドックは元々輸送艦や資源採掘船の利用を考慮した「長立方体」をしており、直径が倍以上ある「球状」の探索艦では入れない。

 なので利用する際には艦がドックに合わせ形状を変えてから入港しなければならない。


 そしてもう一つ。

 探索艦は「有人」という点。

 輸送艦や資源採掘船は無人であり、資源や物資のやり取りが目的。なので一部を除き、ドック内に人が出入りする機能は備えていない。


 だがその問題も探索艦にとっては大した問題ではない。

 探索艦はどの位置にも自由に出入口が作れる。

なので可動式の密閉型タラップをドック内に設置しそこに艦の一部を接触させて乗降に利用する。

これはローナ姉妹のドックで実践済みなので直ぐに用意出来た。


 因みに転送装置ではなくタラップを使う理由は「機密保持」が目的。



 三人が遊び訓練から帰還する。

 艦を収めるドックの順番は基本早着順で番号の若い方から利用するのが決まり。

 一番ドックはローナが「逗留とうりゅう」しているので今はミアが二番。

 リンやシェリーは「賓客ひんきゃく扱い」なので三番以降。

 その上で今回開いたハッチは二と四と五。

 三番が開かなかったのは「使用中」か、訳あって使えないのかどちらか。なのでリンが四でシェリーが五に収まった。


 ここドックも探索部基地同様、無重力となっている。違うのは人の侵入は考慮していないので常に真空状態。

 そして横並びの各ドックは探索部基地のような「個室」ではなく壁といった仕切りはない。あるのは機器の移動や固定等に使われる柱が仕切りの役割を兼ねて整然と並んでいるだけの吹き抜け状態。

そのため隣の艦が丸見え。

 なので入れば誰がいるのか一目瞭然。


ミアが真っ先にドックの中へ。

 てっきり帰ってきていると思っていたが、両脇はからだった。

疑問に思いながらも下艦するため球体モニターの映像を切る。


 ハッチが閉じられるとドック内の明かりが一斉に灯る。すると隠蔽迷彩状態の漆黒色から白色へと戻った。

 規程の位置に収まった艦に対し密閉型タラップが伸びてきて艦に僅かに突き刺さる。

 通路が開通したので宇宙服を着たままマイペースで下艦してゆく。

 密閉型タラップにはエアで満たされているが無重力。飛ぶ方向を若干修正しタラップを進むと点在している小窓の外が暗くなった。

 気になったので小窓からドック内を見ると、丁度ローナ艦が入ってきたところだった。



 ──タッチの差、かも?



 折角なので合流しようと待機室へと急ぐ。

 待機室手前の通路で澄まし顔? のシェリーと合流。そのまま一緒に待機室に向かった。

 待機室につくとチャイナ服に着替え終えたリンがの転送装置から消える瞬間を目撃。

 床には桜色に近いピンクの宇宙服が無造作に脱ぎ捨てられている。

 どうやら脱衣スペースではなく、また着替えをしたらしい。


 やれやれと思いながらも拾おうと近づいたところ、後ろから来たシェリーに先を越されランドリーボックスへと入れられてしまう。

 その思いもよらなかった行為をその場で只々見つめる。



 (いつものシェリーであればその様な事はせず、本人を呼び出した上で目の前で片付けさせるのだが……雰囲気も以前までの如何にも「武人」といった雰囲気が、帰って来てからは何というか……仕草も含めてほんの少しだが「女性らしさ」が感じられるようになった気がする。Cエリアで何かあったのかも。やはり艦AIの記録を確認しといた方が良いかな?)



 と思ったが、



 (……まあ年頃の娘でもあるしプライバシーにも係わることだからやめとくかね)



 と上から目線で落ち着く。

 まあその手の感情の考察はローナならお手の物。マイナスと感じたら調べろって言ってくるだろうし、それからでも良い気がするかなと。


 との結論に達したところで考えるのを止め、シェリーに続き、探索部基地とソックリな脱衣ブースにて着替えを始めた。


 もう少しで着替え終えるところに真っ黒な宇宙服を着たローナと空色の宇宙服を着たマリがやってきた。

 横並びの二人は恵まれた体型をしており、歩く度に山脈がぶるぶると地震を起こしている。

 その震度三の揺れに隣で着替えていたシェリーが視線が向ける。


 ここでもシェリーの様子にも違和感を感じた。

 普段なら気配? で誰だかを判別しているらしく、作業を止めてまで注意を払うことなど今まで無かった。ましてや他人の体型に興味を抱くこともなく、今みたく山脈をマジマジ見るなど今まで一度も無かった。



 余談だが皆が着ている探索者専用宇宙服は「現代の技術」ではあり得ない程の優れ物で、外部からの衝撃等は完ぺきに吸収緩和し、さらに専用の器具でなければ引き裂いたり穴を開けることすら不可能な程の強靭を有しているにも拘らず、伸縮自在で体型や体の動きを阻害しない。

 さらに見れば一目瞭然で、生理現象に対応する箇所以外は凹凸に合わせてピッタリフィット。なので着用者のな部分がと丸分かりになってしまうという特徴も兼ねている。

 因みにこの特徴には賛否両論があり一部の者達から異論が出ているが、大半の探索者は「趣旨」を理解しているので素直に受け入れている。



 マリは昨日に続き晴れ晴れとした笑顔だがローナは何故か浮かない顔をしていた。ただシェリーの顔を見た途端、いつもの表情に戻った。

 なので普段通りに声を掛ける。


「……お疲れ〜、だぞ」

「はいは~い、お疲れ様♩」

「おう! 今帰ったど~!」

「……おやじ臭い言い方だな、っと」

「へへへ、そうか〜? ってシェリーがいるやん! いつ戻ったん?」

「一時間程前だな」

「そうか。しかし少し見ん間に随分と色気レベルが上がったんでない?」


「…………」


 恍けた表情でマリの問いには答えず顔を背けるシェリー。


「し、シェリーや、どないしたん? ウチ、気に触ること言うたかい?」


 慌ててオロオロし出すマリ。

 一方のシェリーは問いに答える気はなさそう。


「……シェリー貴方……」


 二人のやり取りを横目で見ていたローナが一言呟いてからシェリーに観察するような眼差しを向けてくる。


 その呟きはシェリーの耳に届いた。

だがミアだけでなくマリにまで気付かれ気まずくなり、この上ローナにまで揶揄われたくないとの思いから聞こえないフリを決めこもうとした。

とは言えローナを無視する訳にもいかない。なので気持ちを切り替えてから普段の冷静且つ優雅さにてローナに向き直る。


 見つめ合う二人。

 この時の心情だが二人とも相手への『興味』と一致していた。


 ローナは情報部という立場上、正規ルートを経て探索者まで上り詰めた者達の「素性」は把握している。

 だからこそその素性がシェリー姉妹の伸び悩みの「原因」であると見抜いていた。

 ただ分かってはいても法の下で活動している情報部自分達は「政府機関の一員」であり「家庭の事情」には手を貸してあげれない。

 だが「探索者の立場」では可愛い後輩。だからこそ助言くらいはしてあげたい。

 ただ今の「使命感」に縛られた発想では言うだけで無駄に終わるだろう。


 今回Cエリアの救援にシェリーを選んだもう一つの理由は正にそれ。

「壁を越えるキッカケになれば」と副次的効果も期待して送り出した。

 それがどう成長したのか、どの様な「成果」になったのか『興味』を惹かれたのだ。


 そしてシェリー。

「長女」であり「嫡子」でもある彼女は厳格な教育を受け大切に育てられた。

 名実ともに「お嬢様」である彼女と妹は「ある目的」を達成する手段として探索者の道を選んだ。

 だがその道も期待通りとはいかなかった。


 過ぎ去る時。

 妹と共にひたすら鍛錬に励む日々。

 次第に心の中で焦りが生まれる。だが妹の手前、表に出す訳にはいかない。

 そんな中、事態が動いた。

 初めは何が起きたか分からず混乱したが、現状と妹の無事を聞かされ冷静になれた。



 ──これはまたとない好機。



 不謹慎だが転機が訪れたと内心喜んだ。

 だが期待通りには進まなかった。

 朝のイベントに次いで二度の醜態を味わう。

 だがそのお陰で何かが吹っ切れ心が軽くなる。

視点が変わったからか、今まで気にならなかった「他人の考え」が気になりだした。


 その影響だろう、ローナの目を見た瞬間、心の底から今まで抱いていた絶対的な強者への「挑戦心」がふつふつと沸き起こる。



 ──一度この者に挑んで見たい……強さの根源が知りたい、と。



 ローナが真顔に変わる。これはシェリーの意気込みに対してではなく心を「無」にして集中するため。つまり「能力」を使い始めたのだ。


 その雰囲気に気圧けおされまいと体に力を入れるシェリー。

初めての「異能」を身に受け、反射的に「威圧」を放ちながら無言で見つめ合う。


 その異様な光景を目の当たりにし、慌てて転びそうになりながらもマリが後退る。

 ミアも冷や汗を流しながら二人散り散りに部屋の隅へと逃げて行く。


 避難が間に合い、二人揃って物陰から覗き込む。

 すると息荒く全身汗だくで明らかに余裕が無くなったシェリーが見えた。


気力が薄れ立っているのも辛いシェリー。

 その時、Cエリアで味わった出来事が頭の中をよぎる。



 ──この雰囲気……そうだ、一瞬で気を失ったあの時に感じた「ドス黒いオーラ」に似ている。



 あちらは「暴」の力。殺気の塊。

 圧倒的な「憤怒の力」で誰構わず情け無用で意識を刈り取ってくる。


 こちらを一言で表すなら「虚」だ。

 ローナのあの目の奥底には何もなく真っ暗でまるで奈落の底を覗いている感覚になり、そこから伸びてくる「闇」が、心底で眠っていた「恐怖」を呼び覚まし解き放とうとする。

それに気付いた時には既に手遅れ。全身の支配権を奪われ後は意識を手放すことになるだろう。

 しかも「暴」よりも遥かにタチが悪い。

あちらは一瞬で気を失うが、こちらはジワジワと侵食されるので、消える事のない記憶として心に残ってしまう。



 ──これが皆がローナ殿を畏怖する理由か……我とは次元が違う。



 と遅きに失した感があるが理解することが出来た。


 予感通り精も根も尽き果て、意識が薄れ足から崩れ落ちる。だが自分よりも非力で小柄なローナが支えてくれたので倒れずに済んだ。

 だが並みの体力しかないローナでは、自分よりも大きく筋肉質のシェリーを支えるのが精一杯。


「……お、終わった……かな?」


 物陰で怯えながら覗いていたミア。予想通りの結果に落ち着いたタイミングで声を掛けた。


「ちょっと時間が掛かったわね♩」


「しぇしぇしぇしぇシェリーは無事か⁈」


 反対側のソファーの陰からマリの声が聞こえた。


「大丈夫~ちゃんと生きているわよ~♪ だから二人とも見てないで手伝ってくれる~?」

「「お、おう!」」


 素早く駆け寄り協力してソファーに座らせた。


「す、すまない。無謀な挑戦であったな」


 息絶え絶えに謝るシェリー。その表情には悲壮感は微塵も感じられない。


「全く強情なんだから~♪ みたいに素直になればこんな目に合わなくて済むのに~♪ ホントおバカさんなんだから~♪」


 出来の悪い我が子を慈しんでいる様にシェリーの頬をそっと優しく撫でながら叱って? いる。


「あ、ああ、次からはそうする……かな……」


 手の温もりを感じると乱れていた呼吸が何故か落ち着く。言われた通りその温もりに身を任せてみると、本当に気分が楽になった。



 ──なるほど。



 と納得したところでゆっくりと目を瞑る。


 今日は人生初となる出来事ばかり。

 以前までの自分なら暫くは自己嫌悪と悲壮感に陥っていただろう。

 だがあの時、あの人の胸に抱かれた「あの瞬間」から世界が変わった。

 今までどんなに努力しても決して得られなかった充実感。

 それを手にした今ではどんな些細なことでもポジティブに受け入れられるようになった。

 心が満たされていくのが手に取るように分かった。


「フフフ。理想の状態ね♪」


「へ? 理想? そうなん?」


 シェリーの手を握っているマリが聞いてきた。


「そう、マリもね♪」


「へへ、そうか?」


 何を誉められたのか、理解しているかは微妙なところ。だがそこがマリの魅力の一つでもあり妹を除きツッコみを入れるといった野暮な真似をする者はいない。


「ところで貴方の心をそこまで良い方向へと変えてくれたのは誰?」

「……エマ殿だ」

「へ~♪ あの子は元気だった?」

「ああ。以前と比べれば別人、覇気ともう一つ何か……得体の知れぬ力を身に着けたようだった」


「あらあら♪ 他に変わったところは?」


 楽しそうに聞くローナ。


「羨ましいほど仲間が増えていた」

「貴方はその仲間に加わりたい?」

「……そうだな。今なら是非に、そう思える」

「フフ、あの子も合格ね♪」

「「?」」


「では次の作戦を終えたら基地ホームに帰還するとしますかね♪」


「ホンマか⁈」


 目を輝かせながらもの凄い勢いでローナの手を取る。


「貴方ね~何回同じこと言わせる気~?」


 むくれて見せるローナ。


「ミア! やっと帰れるぞーー!」


 自分の世界に入ってしまったらしく、ミアの両手を握り心の底から嬉しそうに飛び跳ねている。


「……えがった、の~。やっとマキに会える、かもかも?」


 マリに合わせて飛び跳ねるミア。


「はは……それとローナ殿へ伝言を預かった」

「あらな~に~?」

「エマ殿が「エリー殿をくれぐれもよろしく」と」

「そんなの言われなくても分かってるわよー♪」


 ほっぺを膨らまさせてむくれた。


「はははは、確かにお伝えした。それともう一つ、我らの主任が整合部に連れていかれた」

「いつ?」

「昨夜」

「あらあら思ってたよりも早いわね♩ でもちょうどいいかも♪」

「そうなん?」

「ええ、サラや、どちらにとっても良い展開♪ それとラーナと一緒に基地ホームに戻った子はいた?」

「我が妹が」

「よしよし、これも想定通り♪ 後はラーナあの子基地ホームに帰った意味を菜緒が理解してくれれば最悪の事態は防げるかしらね♪」


 目を瞑り嬉しそうに人差し指を指揮棒の様に軽やかに振りながら独り言を言う。


「「?」」


「ミア、準備は済んだ?」


 突然目を開けミアに聞く。


「……は準備かんりょ~、かも…かも?」

「了解♪ で、何が問題?」

「……流石ローちゃん。あのね、リンが『目標』をロストしてる、かも」

「……それはほんのちょっとだけ、いや大きな問題♩」


 ロストだけで通じてしまう間柄。


「……どう、する?」


 作戦の決行を遅らせる? と聞いている。


「大丈夫♪ そのためのなんでしょ?」

「……そうなんだが、な」


 こちらよりもあちらの方がリスクが高い。だからこその悪巧み。

 だがに物事が進むとは限らない。


「心配なのは分かる♩ だけど『目標』がこちら側に来ようともあちら側に向かおうとも、そう思わない?」

「……そう、だけど」


 仮にこちら側に現れたら……


「「椿」にとっては私達の行動もな筈だから引き際さえ間違わなければ大丈夫♩ それよりもどういう立ち位置になるのか分からない「彼女」の方を警戒しとかないと、ね♩」

「……本当にいる、の?」

「間違いなく♩ でないと説明がつかないもの♩」

「……そういうもの、か」


 ローナの言う通り、確かに説明がつかない。


「そして「彼女」は間違いなくAエリアであの子達が来るのを待っている♩」


「なんの話や?」


 二人の会話にマリが割り込む。見れば立ち上がれるまでに回復したシェリーに肩を貸し立ちながらこちらを見ていた。


「エマ達の話よ♪」

「向こうは大丈夫なん?」


「マリ、あちらの心配はしなくていい」


 今度はシェリーが割り込む。


「なんでやねん?」

「あの仲間達パーティーなら何が起ころうとも自分達で乗り越えられる。それより我々は姉として妹達の期待に応え、さらに恥ずかしくない結果を残すのだけを考えよう」

「そ、そやな!」

「そうその意気。マリ、お前はヒーローになった姿をマキに見せつけてやるのだろう?」

「そや‼︎」


「はい、上手く纏まったところで今日は解散♪ 明日八時に私の部屋に集合♪」


「「「了解!」」」




 翌朝八時。ローナの部屋にマリ・シェリー・ミアの順にやってきた。


「みんな揃ったわね♪ ところでリンは?」

「……朝食一緒に食べ終えた時に「見~つけた~」って目、輝かせて出て行った、ぞ」

「今日は平常運転やん」

「……調子は良さそうだった、ぞ。夕食やお風呂の時も「リリーまた遊んでくれないかな〜」と何度も騒いでた、ぜ」

「よしよし♪ シェリーのお陰ね」

「それならいいが。それで今回の我の役目は攪乱でよいのか?」

「そう、目一杯暴れ回る♪ マリが帰還するまで遊んでて構わないし全滅には拘らない♩ 但し「退路の確保」だけは常に意識していて♪」

「承知した」

「それと間違いなくがいるから捕縛出来そうならついでにお願い♪」

「そちらの件も承知」

「絶対に殺しちゃダメよ♩」

「努力する」


「私の大切なを私の許可もなく散々触りまくっていたあいつら兄弟にはをしてあげないとね~♪♪」


 珍しく小声でブツブツと喋りながら薄目笑いを浮かべるローナ。

 ミアは雰囲気を察しローナから速攻背を向けるが、他の二人は何気なく見てしまったため背筋が凍りついてしまう。


「ミアは研究所の情報の抜き取りと潜入情報部員の撤収サポート♪ 完了次第撤収~♪」


 一瞬で元に戻り話を続ける。


「……りょ、りょうか~い」

「最後に私はマリのね♪」

「マリ。ミアから例のブツは受け取っているな?」

「おう! これのことやろ?」


 マリは腰の小物入れの中から言われた物を取り出し全員に見せた。その小物とは「ある物」を参考にノアとミアが作成した物。


「OK♪ それとガンは?」


 その問いに右手首を上に向け皆に見せると小さなガンがくっ付いているのが見えた。


「身の危険を感じたら迷わず使う♩」

「任せとき!」


「エリー殿の宇宙服は持っているな?」


 再度シェリーが揶揄うように聞いてきた。


「大丈夫やて! 遠足に行く子供やないんやで!」


 小物入れを叩きながら言い返す。


「中はどうなっているか分からない♩ 私と連絡が取れなくなったりその場で判断に迷ったら自分のに従いなさい♪」

「おう!」

「大事な事だから復唱してみて♪」

「何で?」

「いいから♩」

「判断に迷うたら直感に従う……」


 棒読みで答えた。


「……念仏だな、まるで」

「はいよく出来ました♪ それじゃ忘れ物ない? シェリーとマリ、貴方達二人はここには二度と来れないわよ?」


「承知!」「了解や!」


「撤収先は?」


「「Bエリア基地ホーム!」」


「私とミアは寄り道するから先に帰っててね♪ では出発♪」





 母星がある天の川銀河外縁から少しだけ離れた宙域ある一つの星系。

 周りには恒星も星雲もダークマターすら何もない。有るのは主星となる恒星と幾つかの惑星のみ。

 その惑星も二重惑星が一組だけ。

このどこにでもあるありきたりな、人類の生活圏とは無縁な所に、あの椿の研究所があった。


 そこから約三光秒と離れた宙域に四人は隠蔽迷彩&有線状態にて手を繋いで漂っていた。


『こんな近くにあったとは……しかしエライごっついな』


 確かに大きい。


『……総本部に遊びに行った時に上手~く擬装されてた輸送ルートのデータを見つけて、な。気になったのでそこに遊びに行ったらビンゴだった、のだ』

『灯台下暗しとはこのことだな』

『……考えるのはどこも一緒と言うこと、だ』

「はいはいお喋りはお終い♪ 全員周辺探査は終わった?」


『……へい。理想の状態、だぞ』


 空間モニターを見ながら真顔で答えた。


『リン様々やて。こっちも異常なし』


 マリはウキウキ顔。


『…………』


 シェリーは既に集中モードに突入。


「ロイズが……見当たらないわね♩」

『……エマがいれば簡単におびき出せるんだが、な』

『?』

「仕方ない……ミア「ハンゾウ君」スタンバイ♪」

『……今出す、の?』

「質量兵器に混ぜ込んで♪」

『……りょうか~い。因みに「ハンゾウ君」はが大層お気に入りで借してくれなかったんで、な。代わりに「コタロウちゃん」をコッソリ強奪してきたんだ、な』

「性能は?」

『……単ニ×二個から単一×二個に……』

「そうじゃなーーい♩」


『はははははは!』


 何故かシェリーが受けまくっていた、ってシッカリ聞いてたのね。


『……探知能力は同じだが、移動速度足の速さは半端ないっす!』

「ならば良し♪ では先ずは戦力の把握から♪」


『『『了解!』』』


 掛け声と同時にシェリー艦はローナ艦に触れていた手を離しその場から離脱を開始する、と同時にシェリー艦は二十五機、残りの三艦は二十機ずつ計八十五機を放出。その制御権を一時的にシェリーに預けた。

 さらに三艦は追加で一機ずつ(ミアからは「コタロウちゃん」を内包した質量兵器)放出し自艦傍に留めた。


 放出し終えると隠蔽迷彩状態からシェリー艦だけ迷彩解除。そのまま目の前の調に対しと近づいていく。


 残りの三艦は隠蔽迷彩状態で手を繋いだまま、質量兵器三機と共にその場で待機。




 シェリーと敵とはまだ約三光秒の距離。

 敵となる調査艦は研究所の周囲を囲む様に展開していたが、質量兵器を認識した後は約一割となる三万艦をシェリーに向け進撃を開始。

 シェリーは敵艦を避けるように大きく迂回をしながら「ゆっくり」近づく。

 敵艦は散開しながらシェリーに釣られる形で進路変更、シェリー艦の倍の速度で猛然と突撃していく。


 お互いの距離が約五千kmまで近づいたところで突然、敵艦の一部からシェリー艦に向け「何か」が高速で発射された。

 そのを展開させていた質量兵器で全弾弾く。


「今のは何ですの?」


 シェリーが自艦AIに尋ねた。


「どうやら敵側の新兵器の類いのようだな」


 シェリー艦AIである「ジン」が渋い声で答えた。


「新兵器、ですか?」

「そうだ。何か嫌な予感がする。常に相手から注意を逸らすな!」

「はいコーチ!」


 シェリーの目に炎が宿った。




「…………」

『思っとったよりも釣られへな』

『……まだ忍び込む隙間がない、な』


 研究所を囲んでいる敵艦は変わらず隙間なく配置されている。

 あれではリンでもない限り気付かれずに近づくことは不可能だ。


『……それよりもシェリーが受けた攻撃、ちょっと厄介、かも』

『どんな風にや?』

『……ビリビリする、かも?』

『ビリビリ? 何やそれ?』

『……ウイルス弾、だな』

『ヤバいんちゃう?』

『……あれに触れてはならーーん! かも』

『流石に簡単にはいかないわね♩ それよりもミア〜次よ♩』

『……あいあい、さ〜! さ~て出番です、よ~〈ゴショク君〉!』


 アシ1号艦に向け自艦傍に待機させていた質量兵器が近づき両者が接触するとアシ1号から質量兵器内部へと何かが入り込んでいく。


 受け渡しが終わると質量兵器は光速度の三倍の速さで研究所傍で待機している敵艦向けて突撃して行った。


『なんやエライとばしとるの』

『……いやいや、とばし過ぎぐらいがね、ちょーどいいんです、よ』

『……は? と、ところで「ゴショク君」ってなん?』

『……ノアの臨時ヘルプアシスタントで、な。彼ののお蔭で校正さんからちょくちょく小言を言われるの、だ』

『…………そんで?』

『……先ずは艦をあそこから引き離すぞ、っと』

『どうやるん?』

『……まあ見てなさい、って』


「ゴショク君」が防衛陣から0.5光秒の距離まで近づくとそれ以上は近づかずに速度そのままで距離を保ちながら研究所の周囲を東西南北へと各一周してから急停止した。


『……そんじゃ、ポチッと、な!』


 ミアが空間モニターに表示された赤いボタンを気合いを入れて押す? と、研究所を覆い尽くしていた全ての敵艦が「ゴショク君」からの誤命令に従い、一斉にシェリーがいる方向へと移動を開始した。


『……み、ミア、あんたスゲ〜な!』

『……ふっ、当たり前のこと言われても嬉しくなんかない、ぜ〜』

『いやいや、ホンマ凄いわ! 敵艦全てシェリーになすりつけるなんてホンマ鬼畜やわ〜。ウチには絶対出来ん芸当やわ』

『……そっちかい、な!』

「それでいいの♪ 私達三人が戦闘に参加してもシェリーの邪魔になるだけ♪」

『そ、そうか? しかしミアや、ごっつネーミングやん』

『……部品一つに至るまで全てイカした名をつけてあるだで、よ〜。今のところ名前付いてない部品はマリくらいのもんだ、な〜』

『ウチは部品扱い……』

「ほれ、遊んでないでサッサと行くわよ♩」

『了解』

『……りょうか……お! ロイズ発見、かもかも?』


 三人の前に空間モニターが現れ「コタロウちゃん」が見つけた調査艦の一つが映し出された。


「これが?」

『……消去法でワイズと認定だ、ぞっと』

間違いないわね?」

『……うい、っす』

『シェリーに知らせんでええの?』

『……シェリーにも情報届けてあるぞ、っと』

「よし、このまま突入♪」


 三艦は隠蔽迷彩状態で手を繋いだまま質量兵器二機を引き連れて敵艦から距離をとり迂回して研究所へと接近して行く。


『ミアや。あれがロイズちゅー根拠は?』

『……リンがここにいないからアレに乗ってるのは「椿」ではない、よね? あと「彼女」ならこちら側に来る理由が全く、ない。なので残るはロイズだけでしょ、っと』

『……ところで「彼女」って誰やねん?』

『……知りたい、か? 正体言うとマリの性格なら多分、いやいや必ず後悔する、けど?』

『ま……さかマキか⁈』

『……はい? …………もうそれでいい、や』


 どこから取り出したのか銀色のサジを投げるミア。


『な、なんや! ちゃうの⁈」


逆にマリは何故にマキと思った?


「はいはい天然はそこまで〜♩ マリ、準備は出来てる?」

『ん? お? いつでも行けるで!』

「ミケちゃんの位置は判明してる?」

『……おう! も一つ見つけたよ〜、っと』

「あそこね、それでは作戦開始♪」

『……皆の者、討ち入り、じゃ〜!』

『み、ミア! マキちゃうよなーー!』


 三艦は迷彩状態のまま、ドックがある場所へと急行した。

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