第358話 ラクリマに向けて

 俺は家に帰るなり、今後の予定をハーモニー、ティア、ルーム、キサラギさんに伝えた──。


「なるほど。ギルドへ依頼と言う訳ですね。内容は、鍛冶師のガイア様を探して欲しい……で間違いないでしょうか?」


「あぁ。あの人が居れば、聖剣の製造法を覚えてるかもしれない。ただ、俺が出会ったのはグローリア大陸なんだよな……」


 もし、あのままクルム村に居たなら、グローリアが落とされた現在、ガイアのおっさんは無事かどうか。

 そして、誰より心配しているのは娘であるルームのはず……。


「すまないルーム。グローリアが落ちたって聞いた時に、おっさんの事気付いてやれなくて……。ずっと心配してたよな?」


「…………せ、せやな。でも大丈夫や。おかんと仲直りして戻る言うてたし、きっとこっちの大陸に戻っとると思うで?」


「──おい。今、間があったぞ。もしかして、忘れてたんじゃないだろうな?」


 俺の追求に、ルームは露骨に視線をはずす。


「そ、そんな事あるかいな。覚えてた、バッチリ覚えてたで?」


 驚いた、人間……いや、ドワーフだけど。こんなに分かりやすく目が泳ぐのな?

 ガイアのおっさん、可哀想に。


「じゃぁ、こんな時で忙しいかもしれないが、そっちはギルドに任せよう。各町村にはギルドもある、有名人らしいし、目立つからすぐ見つかるだろう。すまないがティア頼むよ。そして俺は──ラクリマに向かう!」


「ラクリマですか!?」


 余程驚いたのだろう。囲んでいたちゃぶ台越しに、ティアが飛び出して──って、ティア!? 近い、近いから! 

 後ハーモニー。いい子だから、そう睨むな……な?


「おほん! あそこの地下に、ミスリルの製法があるかもしれないんだ。無いとしても、シンシの聖剣作りのヒントになる書物は、確実に存在する!」


 俺も心配だから捜索に参加したい……ただ、ガイアのおっさんが確実に見るかる保証も無い以上、俺は俺でやるべきことをやらなければ──。


「それで、ティアはここのギルドがあるだろ? 今回は、ハーモニーを同行者で連れて行こうとおも……」


「──二人でですねぇ~!!」

「──二人でですか!?」


 なんて迫力だ……。

 ハーモニーとティア、内容は同じなのにニュアンスが全然違う。

 

「あ、あぁ……訳あって、彼女の力が必要なんだ。それに、村人達は難民受け入れの準備で忙しいだろ? 少しでも人手は必要なはずだ。だから、少数精鋭で……」


「──駄目です、容認出来ません!」


 普段、聞き分けの良いティアが……あれ、そうでもないか?

 でも、今回は理に適っているはず。なのになんで、こんなにも強く否定を──。


「な、なんでだよ? ティアはシンシと、また会いたくないのか?」


「──駄目なものは駄目なんです! シンシ様とはまた会いたいと思っております。しかし、二人きりでラクリマに行くとか言っておいて、ハーモニー様と新たな住人でも増やされたら……」


「じゅ、住人?」 

「住人ですかぁ~!?」


「何を言って……。それにミコも居るし、ミスリンは置いて行くけど、正式には三人だ。それなら心配は……」


「──ミコ様は買収が用意なので、今回みたいなケースでは信用性が低いです!!」


 ミコ、ひどい言われようだな。全く否定が出来ないが。


「なんでそこまで拒むんだよ。二人じゃダメな、理由でも……」


「──ティアよ、それは杞憂と言うものじゃ。このへっぴり腰の孫と、ちんちくりんな娘じゃぞ? しっぽりなど、できんできん」


「いや、しませんよ? しっぽりしませんからね!?」


 分かってた……うっすら分かってたけど言葉に出さなかったのに!

 だからハーモニー? 頼むから俯いて「しっぽり」連呼しながら拳を握りしめるの、やめような?


 それにしても、ティアの言う新たな住人って、やっぱり子供の事か……。

 つまり、俺とハーモニーの間に間違いがあるかもしれないと言いたいのだろう。


 俺にそんな度胸があるはず──あ、でもハーモニーに押し倒されるようなことがあれば、抵抗できないかもぉぉ……。


「分かりました。どうしても行かれると言うのでしたら、ルーム様も同行させてください。それなら目を瞑ります!」


「お、それは良いアイデアだな!」


 ルームなら、ハーモニーと一緒に地下にも入れるはず。

 別に嫌な訳ではないが、俺の貞操も守られそうだしな。


「え~、ルームさんも来るんです──!?」


「何でウチも行くことになっとんね──!?」


 ティアが睨み付けると二人が黙った。随分逞しくなった……まるでトゥナみたいだ。


「あ~それと、帰りがけにリベラティオにもよってくるよ。上手く交渉できればトゥナを連れ変える事が出来るかもしれない」


「本当ですか!? ってでもカナデ様。それは帰りじゃ無く、行きじゃ駄目なんですか? やっぱり邪をいだいて!」


「違うって! ほ、ほら。移動は結構な体力を使うだろ? だから、帰りの方が負担が少ないかなって……」


 ティアからは疑いの眼差し、ハーモニーからは謎の期待の視線。

 ルームは目を閉じ、何かを諦めた様子で、そしてキサラギさんの笑いは止まらない……。


 まったく、本当に賑やかになったものだ。

 後は、トゥナの呆れた表情を残すのみかな?


 そんな事を考えながらも、ティアとの落としどころを見つけるべく、俺はしばらくの間、必死に弁解する事になるのであった──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る