第193話 灯心

 叫びを上げた俺は、鞘から無銘を引き抜く。そして、眩き輝く刃を横一直線に大きく振り抜いた。

 その抜刀の一撃は、横並びに歩いていた三体のゾンビ達の胴体を瞬く間に分断する。


 その後、俺は他のゾンビの追撃を避けながら光る無銘を納刀し、更にもう一振りで二体のゾンビを倒した。


 これだけ見ていると、ただ無銘で斬っているだけにも見えるかもしれない……。


 しかし、その後ろから倒れた屍を乗り越え、止まることを知らないゾンビ達が、しばらくすると──何故か同じように胴体と足で真っ二つになっていく。

 斬れている部位は一体一体違うが、次々と倒れていくゾンビ達──。


「──凄い……。斬った跡が空中に残ってるの?」


 本当にトゥナは目がいいな……もう気づいたの

 か。あのミイラが密集している中、良く見えたものだ。


 この技、灯心とうしん 濤乱とうらんとは、即ち空間に残る斬撃だ。

 俺が抜刀した無銘の軌跡に、光の斬撃を置く魔法。


 俺が振るう無銘【指揮】を見て、ミコが俺の魔力を使い、最大五枚まで置くことが出来る、空間設置型の斬撃。


 過去の勇者が使ってであろう、強大で巨大な、無慈悲な一撃は俺には出来ない……。


 しかしそれを小規模に、俺らしい使い方で再現できないか? それをコンセプトに編み出したのだ。

 自身の立ち回りの幅を広げ、寄せては返す波のように、緩急をつけたものにする新技だ!


「と、とてもすごいのに、何か罠を張ってる様で……何となく卑怯臭いわね」


 ──トゥナ、聞こえてるから!


 実際、残る斬撃と言うだけあって視覚化している。普通の相手ならまず、警戒して自ら当たりに来ることはないだろう。

 俺も誘導や威嚇目的に編み出した技なので、敵が自らズッパズパ斬られにこられると、とっても得した気分だ。


 後方に下がりながらも、三枚、四枚と灯心 濤乱をくうに措いていく。


 ゾンビは次々に光る斬撃に突っ込み、縦に横にと斬れて死体の山を築き上げていく。


 広い場所で下がりながら戦えた為か、ゾンビの動きの規則性が何となく読めてきたぞ!?

 どうやら一番近くにいる生きている人間に、真っ直ぐ向かって動き、襲いかかるよう出来ているみたいだ。


 そして、今みたいに肉片が積み重なって乗り越えられないほど道を塞ぐと、それを迂回しながら最短距離で一番近くの対象に向かう。

 

 斬撃は置いてから三十秒しか持続しないが、灯心 濤乱を効率良く巧みに配置することで、恐怖心を持たず進んで来るゾンビは次々と動けない肉の塊へと変貌していく。


『カナデ、五枚使ったカナ──!』


 剣技をまじえながら灯心 濤乱を五枚使い、消え終わる前までには、なんとかゾンビの大半を倒すことが出来た。


 先ほどまで輝いていた無銘は光を失い、いつもの状態に戻ってしまった。


「──使いきったか!」


 しかし敵の数を減らしたことで、ゾンビの最後尾で隠れていたシンシの姿を発見することが出来た。


『シンシ、見つけたシ! 魔力の使いすぎで、かなり疲れてるみたいカナ!』


 ゾンビと一緒に攻めてこなかったのは、自分が疲弊していた為か!?

 確かに、遠目でみても足取りは重く、肩で息をしているのがわかる。──そう言うことなら、今が反撃のチャンスだ。


「なぁ、トゥナ。この数、任せても大丈夫そうか?」


「シンシ君のところに行くのよね? そんなの無理なんて言えるわけ無いじゃない」


 口では渋々だが、彼女はレーヴァテインを引き抜き、その顔はすでに目の前のゾンビ達を見据えている。


「トゥナ残党を頼む。俺はこのまま少し大回りをして、ミコと二人でシンシを止めてくる!!」


 ゾンビはまだ三十体以上いる。それでも拓けた場所であれば、トゥナなら何とかしてくれると思う。


「分かったわ! あいつらは私が引き付ける」


「あぁ、頼りにしてるよ。トゥナ」


 さぁ、最終局面だ、シンシ……今止めてやるからな!?



 

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