第115話 料理対決 完成

 俺のお手製の銅板の為、鉄板に穴は八つしかない。

 しかもそのうちの一つは、残念ながら形が崩れてしまった。──くそ、流石にこれを審査に出すわけにはいかない!


 料理で勝負している以上、ある程度の数が出来ないと格好もつかない。これ以上の失敗が許されない状況だ……。


「カナデさん、向こうは何かとんでもないことしてますよ? これって料理の対決なんですよね~?」


 ハーモニーが言う事はもっともだ。剣で切ったり、魔法で調理したり、異世界の料理風景……とんでもないな?


「何か、向こうに勝てるような奥の手はないんですか~?」


 目を潤ませながら、俺に期待するような眼差しを向けるハーモニー。──料理の完成間近で奥の手と言われても……。


  諦めるな、考えろ! 俺だって負けたくはない。

 折角ハーモニーと協力してここまでやって来たんだ、簡単に諦めることなど出来ない!

 何か手はないか……。そうだ、あれを使うしかない!


「──力動眼! 対象、たこ焼き!」


 俺の声が会場に木霊こだました。


 対戦相手のトゥナとティア、観客達も、俺が何かすることに気付き、息を飲んだ。


──しかし、何も起こらなかった。


「カ、カナデさん……一体何が起きてるんですか~?」


 ハーモニーの質問と同時に、たこ焼きを90度ほどひっくり返す。──狙い通り! 見事な焼き加減だ!!


「カ、カナデさん?」


 何の返事もなく、不安に思ったのだろう。ハーモニーは心配そうな顔で俺を覗き込んできた。


「──これは……俺が身につけたばかりの新スキルだ。このスキルは力の流れや、熱の力、風力を、色として認識出来るスキルだ」


 ハーモニーだけではない、この戦いを見ているすべての人が息を飲んだ……気がした。新スキルに、さぞかし驚いているだろう!


「つ、つまり?」


 俺はニヒルな笑顔をハーモニーに向け、決め台詞を口にした。


「もう俺は、二度と焼き加減では失敗しない。外はカリカリ、中はトロトロの絶妙な火の通り具合を実現できるって事だよ!」


 説明をしながら、さらにひっくり返した。するとそこには、この世のものとは思えない程の、丸々とした綺麗な焼き加減のたこ焼きが生まれたのだ。──ってそれは言い過ぎか?


 俺の説明を聞き、多くの者は意味さえ理解出来なかったのだろう。誰一人として声を上げる事無く、会場は静まり返ったままだった……。


 しかし──その時だ! 対戦相手であるトゥナがパンッっと手を叩き、とても良い笑顔で「良く分からないけど、カナデ君凄いのね」と、声を上げた。


「「「うおおおぉぉぉぉぉ!」」」


 俺に向けた歓声が、その場を支配した。たこ焼きにうっすらと油を塗り、歓声に答えるかのようにタコを回して見せる。──お前達のその乗り、大好きだ!


 歓声を聞いてだろうか? ティアがその場に崩れ落ちた。そして「ま、まだ勝負は決まってませんよ……食べてからが勝負です」と、ボソリと呟いた。──ふっ、負け惜しみだな! まぁ、間違ってはないけど。


「──ティアさん、奥の手とはこうやって使うんですよ?」


 俺は勝ち誇った態度で、先ほどの仕返しの発言をした。流石のティアも、それにはとても悔しそうだ。


 謎の達成感の中、俺は服の袖を引っ張られた。


 見下ろすと、直ぐ隣にハーモニーが来ていた。そして、俺だけに聞こえるように彼女の口から一言。


「カナデさん。つまりそれって、上手に焼いただけですよね~?」


──か、確信をついた言葉だった。まさか、味方サイドから突っ込みが入るとは。ハーモニー、恐ろしい子!


 絶妙な焼き加減で、たこ焼きを皿の上に乗せた。その後、鰹節かつおぶしを上から振って……。


──か、完成だ……鰹節も嬉しくて踊っているかのようだ!


 マヨネーズとソースが無いのが悔やまれるが、スキルを使った機転により、見事な焼き加減で完成した。


「制限時間終了だ! 各チーム、料理を出してほしい!」


 船長の声とともに、俺達の間にテーブルが置かれる。

 出来たばかりのたこ焼きを持ち、俺とハーモニーはテーブルへと向かった。


「これが俺達が作った【たこ焼き】です!」


 そう言いながら、先ほどの焼き上がったばかりの六個のたこ焼きをテーブルに乗せた。


 シンプルな醤油ダシによる味付け、綺麗な焼き色のついた球体。その上からかけられた鰹節が、まるでタコ踊りをしてるかの様だ。──今出来るなかで、最高のできだ! それなのに何だろう、何かが足りない気がする……。


 一歩遅れるように、トゥナとティアもテーブルに着く。

 そして、彼女たちもテーブルにひとつのグラスを置いた。──い、いったいなにを作ったんだ?


「──私達が作ったのは、これよ!」


 俺は、トゥナが置いたグラスを覗きこんだ。


「──おいおい……なんだよこれ!」


 驚きもするだろう。グラスの中を覗くと、そこにはなんとも言えない色の、謎の液体がのだ。


「カナデ様がご存知無いのも、仕方のないことです。これは私達の、オリジナル料理ですので」


 全身の毛が逆立った。これ本当にうまいのか? いや、俺の本能が危険信号を出している!


「気になります? 気になりますよね、カナデ様!」


 気にしたくも無いのに、目が離せない。なんだ、この存在感は!


 何故か得意気なティアが「良いでしょう! 教えて差し上げます」と、自信ありげに大きな胸を張った。


 この後、俺はこの料理の正体に驚かされることになったのだ……。


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