161話 余裕
「
義清が大声で声を張り上げて言った。
「三つ首竜っ!!」
黒母衣衆の全員が大声で答えた。
「我らのすべきことはっ?」
「手向かわぬことっ!!」
「手向かう者はっ?」
「死あるのみっ!!」
「よろしい、そのまま待機せよ。臆病にかられるなよ!!」
義清は黒母衣衆に待機を命じて考える。
(ふー、わかっていても待つ時間は長い。もう少しかかるようなら今一度やっておくか)
義清は先程の黒母衣衆とのやり取りを3回も行っている。
義清はベアトリスとの説得交渉に失敗すると黒母衣衆と合流した。
黒母衣衆がいくら竜のことを知っているといっても、そうそう遭遇する機会があるわけではない。
そのため義清は黒母衣衆に竜に抵抗しないことを徹底させるために、このような掛け声を出させているのだ。
それにはなにより黒母衣衆が恐怖にかられないことが重要だ。
勝てない相手が間近に迫るのを、ただじっとして待っているのは誰でも怖い。
その恐怖を打ち消すために攻撃するのだ。
既に黒母衣衆は全員武装解除させて武器を一箇所に集積させている。
万一恐怖に負けて竜に攻撃しようとする者が現れても、素手なら思いとどまるだろう。
義清は黒母衣衆を集めた広場の一角に山と積まれた、手槍や刀や弓の塊を見た。
急いで黒母衣衆の武装解除を命じたため乱雑に積まれている。
(どうせあの内の何割かは噴出するのだ。1人が2本も3本もどさくさ紛れに持っていってしまう。半分が元の持ち主の元に戻れば上々だろう。そして、紛失した者の武器を再び作ってやる金をワシが払うしかない。また、余計な出費がかさむぞ)
義清は黒母衣衆を再び武装させた時のことを思ってため息をついた。
義清直轄の兵である黒母衣衆の待遇の良し悪しは義清自身が決めている。
黒母衣衆の待遇が気に入らなければ彼らはヴァラヴォルフ族かボア族の元へといくだろう。
そうさせないためにも、義清は黒母衣衆が再武装した際に武器を紛失した者がいたなら、それを補填する金を出さなければならない。
今回の騒動の発端のベアトリスは義清の家臣であり黒母衣衆には関わりのないことだ。
そんな関係ない騒動で武器を失ったのでは、黒母衣衆としてはたまったものではない。
たとえそれが同じ黒母衣衆に武器を奪われたとしても、それはその騒動を起こした人間の責任と彼らは考えるだろう。
そしてそれは建前だ。
黒母衣衆は自分の武器を奪った相手を探し出して武器を奪い返すより、義清に金をたかった方がはやいと思っているから、義清に金をせがむ。
黒母衣衆は自前で武器も鎧も揃えている。
それを失った騒動の発端の人間に請求して何が悪いというわけだ。
彼らは強者そろいの実力集団だ。
その実力はヴァラヴォルフとボアの両部族どちらでも歓迎される。
確かな実力があるからこそ徒党を組んで義清に堂々と金をたかれるのだ。
義清も素直に払わずに多少はゴネるが結局は払うだろう。
これが彼のお人好しな部分であり、これがあるから黒母衣衆に限らずヴァラヴォルフ族もボア族も義清しか国主は務まらないと思っている。
彼らは全員が知っているわけではないが、雰囲気で共有できている。
義清が決してお人好しなだけで国主をしているのではなく、日夜配下を食わせるために走り回っていることを彼らは肌で感じているのだ。
義清は武器の山から視線を外したが思わず口元が緩んだ。
(今から強大な存在と対峙しようというのに、その先のことを考えているとわ。ワシも案外余裕を持っているようだ)
配下を傷つけずに竜をやり過ごさなければないというのに、金の心配をしている自分に気づいて義清は思わず自分で自分を笑った。
その時、義清と黒母衣衆がいる城の
ボア族とヴァラヴォルフ族が近衛師団を相手に突撃を仕掛けたのだ。
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