地球真拳カミカゼ ~ま、まさか!?→そのまさかよ!!~
関 涼太郎
第一話『開幕!地球ファイト!』
1 唸れ地球真拳! 神風トオル対ドン・ナポリタン!(前編)
――
それは地球由来のアレやコレやの超天然エネルギー、地球パワーを自在に操るスゴイ拳法!
地球パワーを纏った者の身体能力は一般庶民のそれを遥かに凌駕する!
地球真拳を極めし者は戦艦の艦砲射撃に耐え、拳の威力は核ミサイルのごとし!
あまりにも悪魔的な力を発揮するゆえその継承は秘伝中の秘伝!
誰も見たことのない秘拳として人々に親しまれている!
だが! 時は戦国乱世の時代!
地球真拳は再び人々の前に姿を現す……!
……幼くして両親を失った男、神風トオル。
地球真拳の継承者である彼もまた地獄のごとき悪魔的な戦いへと身を投じることとなる。
父と母の命を奪った男への――復讐を果たすために!
おお、見よ! 神風トオルの命を狙わんとする悪魔が……すぐそこに迫っているではないか!
◆◆◆
栃木県北部、早朝。
悪魔的オーラを放つ黒塗りのマフィアカーが五台。
死神的隊列をなして田んぼ道を走る。
山林と田畑が支配的なこの土地において、車と言えば軽トラックかリヤカー。
この光景は異常である。
そして――死神とは比喩ではない。
それぞれのマフィアカーには世にも恐ろしい殺し屋が乗っているのだ!
「申し訳ありません、ボス。
運転手のアホが道を間違えちまいまして」
先頭を走るマフィアカーの後部座席。
悪魔的殺気を放つ男が携帯電話越しに謝罪する。
彼こそはイタリア最大のマフィア組織、ケチャッピーネ・ファミリーの殺し屋。
ペペーペッペ・ロンチーノ。好物はペペロンチーノ。
彼らの標的は――そう! 地球真拳継承者、
「――はい、予定時間にはちょいと遅れますがね。
十分以内には到着しますので。
すいませんが先に始めててくだせえ」
後ろから聞こえる会話内容に冷汗を流すドライバー。
前任者は右折と左折を間違えたがために……哀れなひき肉ミンチと化した。
何が何でも十分以内に目的地に着かなければならない。
一秒でも遅れれば彼も同じ運命をたどることとなる。
マフィアの世界はキビシイ。
ブラック中のブラック、デビルも逃げ出す暗黒待遇なのだ。
ハンドルを強く握り、アクセルをさらに踏み込む。
――直後!
ドスン!!!
ボンネットに悪魔的衝撃!
ギャルギャルギャルギャル!!!
蛇行運転状態と化すマフィアカー!
タイヤがアスファルトに削られ唸りをあげる!
「な、なにごとじゃいいいい!!??」
「あわわ! あわわ! あわわのわ!」
血相を変えてうろたえるドライバー!
野生のタヌキやイノシシ、あるいはクマでも跳ね飛ばしたのであろうか!?
――否!
ボンネットに乗っていたのは――片膝立ちの……人間!
「何いぃぃぃ!?」
思わず身を乗り出すペペーペッペ!
それもそのはず! 目の前に居るのはただの人間ではない!
パールピンクの装甲で全身を覆い、こちらに手のひらを向けている!
手首から指先までの各装甲が展開し、内部が強力に発光!
キュイイイイイイン!!!
光る粒子が集束、こぶし大の光球が形成され――発射される!
「「ギャーッ!!!」」
チュドーン!!!
直撃! マフィアカーが爆発!
木っ端みじんとなる!
後続車両が急ブレーキ!
中から銃を構えたマフィアンズが一斉に飛び出す!
行く手を阻むように道路の中央に直立する装甲人間。
銃口を向けられてなお動じる様子はない。
光弾を発射した手は排熱動作により白煙がくゆる。
「この野郎、よくも! やっちまえい!」
マフィアンズが発砲! 三三七拍子のリズムで!
BANG! BANG! BANG!
チュイン! チュイン! チュイン!
BANG! BANG! BANG!
チュイン! チュイン! チュイン!
BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG!
チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン!
おお、見よ! 殺人的弾丸が全て弾かれていく!
流線型のパールピンク装甲には傷一つつかない!
銃が通用せずひるむマフィアンズ。
こいつはヤバイ! 本能的に誰もが感じた――その時!
「……やってくれるじゃねえか」
炎の中から現れたるはペペーペッペ・ロンチーノ。
マフィアカーの爆発に巻き込まれるも生存。
さすがは恐るべき殺し屋である。
焼け焦げたマフィアジャケットを脱ぎ捨て、謎の装甲人間の前に進み出る!
「……」
無言で対峙する装甲人間。
だが、殺し屋は一人ではない!
「いきなり仕掛けてくるとは……失礼な方ですね」
「ねえねえ! こいつは僕にやらせてよ!」
「ダメダ! コイツ、コロス、オレのシゴト!」
「見かけぬ顔……。お前ら油断するなよ」
そう! ペペーペッペの他に四人!
後続車両から殺気を放ちながら登場!
五人の殺し屋! つまり一対五!
加えてその他マフィアンズ! 多勢に無勢だ!
「俺はなあ……素手でプロレスラーを百人以上絞め殺しているのだ!
今は時間をかけていられん! 瞬殺させてもらうぞ!」
リーダー格であるペペーペッペが指をボキボキと鳴らす!
「……」
腰を沈め手刀の構えをとる装甲人間。
パールピンクの装甲、そのスリット部分が白く発光し――!
――戦闘が開始される!!!
◆◆◆
「兄上! 朝ッ! 朝だよッ!」
「ええい! もう食えんぞ! ムニヤムニヤ!」
「寝ぼけていないで! 起きてたもれ!」
――栃木県北部に位置する地方都市、
のどかな住宅街にある塀に囲まれし庭園付き日本家屋。
いわゆる一般庶民的武家屋敷。
その二階の一室に仲睦まじき男女の姿。
チュイイイイイン!!! ジョリジョリジョリ!!!
「誰だ! 勝手に俺のヒゲを剃っている野郎は!?」
女に電動シェーバーでヒゲを剃られ、男がたまらず飛び起きる!
「やっと起きたわね! 地球はすでに朝! 目覚めの時よ!」
「貴様は! 妹のルリ!」
「兄上! ご自分の名前、言えまするか!?」
「俺の名は神風トオル! 21歳の独身! フリーのフリーター!」
「さすがは兄上! 目覚めて間もないのに意識明瞭!
なれば改めて……私の名は!?」
「神風ルリ! 17歳の現役女子高生! しかもかわいい!」
「ザッツライト! パーフェクト! おはよう兄上! ようこそ現世へ!」
――彼らには幼いころから両親がいない。
兄妹二人暮らしである。
武闘家であった父、神風アキラはある日突然行方不明。
母、神風サクラは父が消えて間もなく……病気で他界。
神風トオル――その時弱冠五歳!
両親を失うには……あまりにも早い!
(それでも! 俺は妹を守るため……毎日必死に働いた!
五歳児で土木作業現場はつらすぎた!
だが! そのおかげで俺は強くなった!
妹を守るためなら……どんなことでもできる!)
そう! 神風トオルにとって……妹は唯一のオンリー肉親!
誰よりも愛しき存在なのである!
「起きて早々申し訳ございませぬが! 兄上に客人でございまするよ!」
「客人とな!? よし、すぐに着替える!」
常軌を逸した速度で身支度を整え、ガラガラと玄関戸を開ける神風トオル。
「あいや失礼! お待たせいたし――」
「神風殿! 郵便で……ゴフウッ!!!」
神風トオルを訪ねてきたのは郵便屋さんであった!
その郵便屋さんがいきなり吐血! 実にその量1リットル!
倒れかかる郵便屋さんを受け止める神風トオル!
「おい、大丈夫か!? 撃たれてるじゃないか!?」
「神風トオル殿……ソレガシはあなたに地球ファイトの召集令状を届けに参ったのです」
「地球ファイト!? 地球の支配者を決める格闘大会と言われる……あの地球ファイトか!?」
「お気をつけください……すでに他国のファイターがそこまで……!」
「フハハハハハハハハ!!」
外から聞こえる笑い声!
郵便屋さんをルリに任せ飛び出すトオル!
すると――目の前にいたのは黒ハット黒スーツのイタリアンマフィア集団!
三十を超える数の悪党が神風家の敷地に侵入していた!
その中に一人、他とは異なるイデタチの男!
不敵に笑うその男がまとうは白いマフィアスーツ。
手にはドラム式弾倉のついたマフィアマシンガン。
そしてハットのごとく頭に被っているのは――なんと皿に盛られたナポリタンスパゲッティ!
おお、なんという最先端イタリアンファッションか!
「ややっ! 奇怪なカブキモノ! 何奴ッ!!」
「ミーはイタリア代表地球ファイター! ドン・ナポリタン!」
「イカリヤだと!? うちは神風! イカリヤさんではない!」
「ノー・イカリヤ! ミーはイタリア!
神風トオル! お前にはここで死んでもらうぞ!!」
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