異世界へ突入!
第3話 初めての出会い
次に俺が目覚めたのはどこかの庭らしき場所だった。
周りに目をやれば綺麗な花畑が広がっている。
「転生……というより転移したのはいいけど、ここはどこだ?」
ラノベやアニメなら勇者様とか冒険者になるんだろうが、そんな雰囲気もメインヒロインの存在もない。さて、どうするかと思った時だった。
ワオォォォーーーン!
どこからともなく狼のような雄たけびが聞こえ始めた。
しかも、その声はますます、近づいて来る。
「まさか……なぁ?」
しかし、その嫌な予感は当たってしまった。
闇の中から赤い目がこちらに向けて迫ってくる。
「ゲッ、マジかよ……! 転生早々、
俺の心が『逃げろ』と警鐘を鳴らす。そうしているうちに一気にドーベルマン並みに大きい犬が闇夜より這い出て、肉薄してくる。俺は横っ飛びで何とか回避し、慌てて立ち上がる。
「あぶねぇ!! ったく、俺なんか食ってもおいしくねぇーぞ!」
俺は踵を返して走りだした。とにかく逃げる。逃げなければ殺される。妹を探して会うどころじゃない。だが、その強犬は素早く俺の逃げ道をどんどん塞いでいく。
しかし、その動きは統制されていて、明らかにどこかに誘導されている。
「ハァ、ハァハァ……ちくしょう!! なんでこっちに来てすぐこうなるんだ!」
全力で走って疲れ果て、犬に食らいつかれそうなった時、開けた通路に出た。
その瞬間、非常に重く乾いた銃声がその場に鳴り響いた。
「動くな! 次に動けば頭をぶち抜きます! 投降するなら手を上げなさい! これは脅しではありませんよ!」
どこからともなく女性の声が響く。しかし、見渡す限り人影は一切、見当たらない。相手がこっちを視認している以上、逃げる事はできないだろう。俺はゆっくりと両手が見えるように手を頭の上まで上げて叫んだ。
「投降する! だから撃つな!」
「よし、次は手を頭の後ろで組んで膝をつけ! その上で右足の上に左足を組め!」
おいおい、言う事が完全にアメリカの警官じゃないかと思いながらもその指示に従うと背後から固い何かが後頭部に突きつけられたのを感じた。
「一様、助言しておきますが、この状態から逃げようとしたり自爆系の魔術を起動しようものなら……分かりますよね?」
ゴツンと殴られる。大よそ、銃の銃口だろう。
「ああ、分かってる。抵抗なんてするつもりなんてない」
「そうですか。懸命な判断です。じっとしていてください」
女はそう言うと俺の体を前に倒して紐で縛った。そして、俺はされるがまま縛られて豪勢な屋敷の中に銃口を突きつけられたまま連れて行かれ、玄関ホールで座らせられた。しばらくすると二階からこちらに声をかける女性の声が聞こえた。
「アリス、賊は捕まえた?」
「はい。こいつです」
2階に居た女性はゆっくりと降りてくる。
その容姿はアクアブルーの瞳と水色のショートヘアーが清楚さを匂わせ、白く整った肌と抜群のスタイルが女性の魅力をかもし出していた。
「その男が賊……? 丸腰でしかも、私の『ブラック・インサイト』を破って侵入したっていうの?」
「……はい。ですが、この男がウィルダート家の秘儀を破ったとは到底、思えません」
「そうね。それだけの実力があるとしたら……あなた、レボネスの密偵?」
その問いに対して俺は首を横に振った。
「俺は密偵じゃなくて、転生者だ」
「テンセイシャ? えっーと……それは何?」
拍子抜けするほど清々しい顔で問い返された。今の反応で察するに『転生者』という概念が存在していない可能性が高そうだ。とりあえず、俺の存在が無害である事、敵意がないことを伝えなければどうなるか分からない。
「転生者っていうのはこの世界ではない別の世界で死んだ人間が、違う世界に飛ばされた時に使われる総称だ。つまり、生まれ変わった人間のことだよ」
「うーんと……つまり君は一回、別の世界で死んでこの世界に生まれ変わったと?」
「そう! 目覚めたら、この屋敷の庭に居て訳が分からないまま犬に襲われて今に至るというわけなんだ!」
「そうなのね……」
「納得してもらえたか?」
「まさか……よくできた話ではあるけれどそんな事があるわけないわ」
「じゃあ、どうすれば信じてもらえる?」
「そうねぇ~……。なら、その前世の話をしてもらえるかしら? 本当に一度、死んでるなら話せるでしょ?」
「ああ……なるほど。お安い御用だ」
俺はそれから日本について、その文化や生活について話をした。その提案を出した女、エミリーは相槌を打ちながらしばらく話を聞いていたが、ボロの出ない話に痺れを切らした。
「ああ! もう! わかったわよ! そこまで言えればひとまず、信じてあげる。でもね、あなたへの疑いが晴れたわけじゃないわ。だからしばらく牢獄にぶちこんでおいてあげるわ」
鋭い眼光が俺に向けられる。その目は完全に敵視している目だった。
このままでは俺は賊として捕らわれ、どうなるか分からない。
ならば、俺の最大で最強の『感情論』というカードを切るしかない。
「エミリーさん。最後に、最後に一つだけ聞いてくれ!」
「……? いいわ、聞いてあげる」
「俺はこの世界のどこかにいる妹を探しに来たんだ! 妹は俺と同じように一度、死んだ後、この世界に来ているんだ! だから頼む! 俺を解放してくれ!」
だが、エミリーの目が鋭さを増した。
「この屋敷内に許可なく足を踏み入れておきながらよくもまぁ、ぬけぬけとそんな事がいえたものね。あなた……全然、理解していないわ。仮にあなたの話が本当だとしてもこの屋敷の中に居たこと自体が問題なのよ。申し訳ないけど釈放はできないわ」
エミリーは蔑むような目を向けつつ、どこか悲しそうにそう言った。
「そんな……! 頼む! 頼むから!」
ひたすらエミリーに訴えるが、それには何も答えず奥へと姿を消した。
エミリーの姿が見えなくなるとカチャッという撃鉄を下げる音が鳴ると共に後ろから銃口をグッと押し付けられた。
「さぁ、歩いてください!」
その冷たい銃口の感触は、もう弁明することも逃げることも叶わないということを告げていた。
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