空の青と海の碧

紫光なる輝きの幸せを

 ある日、ふと思い出した。

 空は青くて、海は碧かったと言うことを。


 コンコン、と病室の扉がたたかれる。

 誰だろう。死期の近い僕に会いに来る人などいただろうか。

 それとも叶わないと思った願いが叶ったのだろうか。

「どうぞ」

「失礼致します」

 残念ながら、僕の願いとは違った。

 入って来たのは、花を抱えて――と言うよりも花に抱えられていると表現した方が良さそうな綺麗な黒い長い髪のブレザーを着た目の大きな可愛い小さな女の子だったからだ。

 年は取りたくないものだ。

 色々な人を、事柄を見てきた僕には、ほんの僅かに小さな女の子が病室に入るのを躊躇ったことが分かってしまう。

「無理に入らなくて良いよ。死向臭が臭いだろう?」

 小さな女の子の大きな目が、さらに大きくなった。

「驚かせてすまないね。昔、教えてくれた人がいてね。君は“神崎”なのかい?」

 病室の入り口で小さな女の子は首を横に振った。

「いいえ、わたくしは…無能なので……」

 余計なことを言ってしまったな。

「図々しいことを言って申し訳ないが、もし臭いが我慢できるなら持って来てくれた花をいただいても良いかな。花の良い匂いは心が和む」

「はい」

 病室に入って来た小さな女の子は洗面台に花束を置くと、ただ置かれていただけの花瓶を洗い出した。

「そのままで良いから年寄りの独り言に付き合ってくれるかい」

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