第1話――おっさん動き出す

 初めての踏破は、望みの食糧資源ではなく終わった後に少々の問題は起きもしたが、ローガスのお陰で無事に片付いた。

 たった40階層で大事になると分かったので、おっさんは当分一般ダンジョンの踏破はしない事を心に決めていた……そもそもお金は山ほど有しているのである――30階層で踏破失敗して、その時も大事になりけた事などすっかり忘れていたのは、いつものヌケているおっさんなので仕方がない。


 リビングでおっさんと新木、ローガスの3人はふぅと息をつきつつお茶を飲んでいた。


「あれ?アルは?」

「さて……朝保様たちがお出かけになった後直ぐに散歩に行かれましたが……」

「そうなの?っていうか最近アルが大人しい気がするんだよね」

「アルちゃんは女の子なんだから、大人しくてもいいんじゃない?」

「いや、なんかおかしいんだよな〜」


 おっさんの疑問は確かに合っていた。

 食事の時はいつも通り揃っているし、部屋付きダンジョンに潜る時もいるのは変わりない。

 だが違うのは、これまでは食後ダラダラとリビングにいた後、部屋に行ったりガインミルカの自宅……隣の家に行ったりしていたのだが、ここ最近は食後に少々の料理を夜食と称してガインミルカの家に持って行くのだ。しかも部屋付きダンジョンに潜らない日は、これまではデートと言っていち早く外に出かけて行く事が多かったのに対し、今はみんなを見送る事が多い。


「何だろう……こう、違和感というか。ローガスは何か知らない?」

「いえ、私も若干そのように感じてはおりましたが、それが何なのかはわかりませぬ」

「そうかなー?最近は特にご機嫌だから、彼氏と上手くいっているのかな?位しか思い浮かばないな」

「新木さんは彼氏見た事あるの?」

「うん、あるよーアルちゃんと同じ真っ白なオス猫で、私の部屋に連れてきてくれた」

「……それって野良?飼い猫?」

「首輪はついてなかったよ」

「んっ!?……もしや……いや、まさか」


 アルの彼氏?彼猫はどこかの飼い猫という線は薄くなったようである。危うく猫泥棒の泥棒猫と訴えられるところだったと、ほっと胸を撫で下ろすおっさんである。

 その会話を黙って聞いていたローガスが何やら気が付いたようだった。


「ローガス何?なんか分かった?」

「いえ……確証はないのですが……もしやアル様「ただいまにゃー」」


 ローガスの推理を言おうとした所で、噂のアルが帰ってきた。


「アルも喉乾いたにゃ、クタクタにゃ」


 そう言いながら席に着いた事で、アルへの疑惑は有耶無耶となった……

 だがローガスは1人、じっとアルの挙動を見つめていた。


 翌日、世間が昨日のダンジョン踏破の事で大騒ぎになっている事に気付いたのは、やはりローガスだった。

 日課としている朝のネットサーフィンで、トップニュースがそればかりな事であり、似顔絵や風体がSNSやニュースで出回っていたのを見つけたのである。そしてそれは日本ばかりではなく、世界中のあらゆる言語で語られ騒ぎになっていた。


 出来る執事も目撃者が多い事から、それなりに騒ぎにはなるだろうとは予測していたのだが、現代のSNS文化への理解度が未だ甘かったのだろう、想定外のスピードに顔を顰める事となっていた。

 そして直ぐに世界の国々上層部が考える事を予測する――それは以前いた異世界でも起こりえた事柄だったのだ。圧倒的な力を持つ弊害……力を恐れながらも利用しようと企む権力者たちのとの構図である。


 直ぐに全員を集め話し合う事となった。

 予測されうる最悪の事態、それは家族を人質に取られる事である。

 それを聞いたおっさんと新木はと言うと……当初は「人の噂も……」なんて軽く笑っていたが、事態はそれほど簡単なものでは無い事を説明されればされるほど、顔を青くし震えていた。


「そこでです、いくつかの解決方法がございます」

「な、何!?」

「1つ目は、この世界全てを征服致します。歯向かう者は全て地へと還しましょう」

「いやいやいや、世界征服はまずいでしょ」

「保様がその圧倒的な力で統一し、王となるのも一興かと思われますが」

「……世界の王……いや、却下で」


 頭の中に浮かんだのは、宝石を散らばめた王冠を被り、颯爽とマントを翻し玉座に座る姿……ちょっといいななんて思ってしまうおっさんであった――でっぷりとした派手な装飾を着けた王……どう考えても異世界ファンタジーでいう所の愚王だが、そんな事には気付いてもいない。


「2つ目は、各国の上層部を襲撃し、邪な心を持たぬように釘を刺します」

「それって世界征服とどう違うの?」

「あくまでも釘を刺すだけであり、支配は致しません」

「うーん……」


 未だ人間相手に力を奮う事に拒否感があるおっさんは首を捻る。


「最後ですが、これはとても消極的であり、守る一方になるのでオススメは致しませんが……保様ヒロコ様お二人の親族に護衛をお付けします。」

「護衛っていうとSPとかを雇うの?」

「いえ、それでは権力者共にすぐ嗅ぎつけられますし、何より欲を抱く者が現れたり、その者たちが買収されたり人質を取られたりとのいたちごっことなるでしょう。ですので……部屋付きダンジョンですが、以前の階層をそのままに種族が変わったり進化していると思われる事から、私が以前居た階層にヴァンパイア系統がいるようでしたら、それらを契約して護衛につかせようと思います」

「そんなに数いるかな?」

「そこは行ってみないと何とも……」

「それでお願い出来るかな?新木さんもそれでいい?」

「あっ、はい……家族に伝えなきゃですね」

「あっ……うん」


 人を殺すことのない、護衛案に納得したおっさんだったが、家族に説明しなければ……と考えて顔をまた青くした。

 無職の件は、まぁ今は探索者として大金を稼いでいるということで納得させればいいとしても、その他の説明を考えると、何を言われるかわかったもんじゃないと。


「早めに説明をして頂き、正確な護衛人数を把握下さいませ。その間に私は単騎にて契約に参りますので」

「いや、それは申し訳ないよ。相手も強くなっている可能性あるから一緒に行くよ?」

「では……アル様お願い出来ますか?」

「いいにゃよ、一大事にゃ」

「ではそのように……本日から早速動くことに致しましょう」


 それぞれが世界に合わせて動き出した。




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https://kakuyomu.jp/works/1177354054891810408


新しく始めました。

もし宜しければ御一読下さいませ┏○ペコッ


『憧れのあの子はダンジョンシーカー〜僕はあの子を追いかける?〜』

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