第87話 更に戦う少年達
惨劇の悪夢を終えてからというもの、特にこれといった出来事はなかった。今日も部屋では俺と先輩が珈琲片手にゲームに勤しんでいる。しかし、ゲームといえどもこうも休みが長いとやることもなくなってくる。たまには動画でも見て暇でも潰そうか。
そう思っていた矢先のことであった。リンゴンッリンゴンッと喧しい音が携帯から鳴り響いて、危うく携帯を落としかけた。
「プフッ……」
「……いつのまに人の着信音変えたんですか」
「いや、暇だったから……」
先輩が口元を抑えて笑っているのを睨みつけながら、どんな連絡が来たのかを確認する。誰から来たのかも見ずに、文面だけを見てスパムの類いだと眉をひそめた。私と一緒にゲームをしよう、と丁寧に女の子の画像でURL付きのメッセージを送ってきたからだ。
「スパムってなくならないんすかね」
「こんな手に今どきの誰が引っかかるっていうんだかなぁ」
「ですよね……」
アホらし。とっととブロックしてメッセージを削除しよう。そう思って携帯のメッセージ一覧を見ると……。
『マイノグーラさんが携帯番号でお友達に追加しました』
………。
「先輩携帯に神話生物がッ!?」
「あぁん、なんで?」
「もう終わりだぁ!」
「……ウッソだろお前。笑っちゃうぜ」
口では言うものの、先輩の目は全く笑っていなかった。画像をよく見てみれば、グラマラスなその姿の背後に蝙蝠の羽のようなものが映り込んでいる。間違いない、マイノグーラだ。あの神話生物とうとう人の携帯にメッセージ送ってきやがった。現代文化に毒され過ぎだろうが。
「……なんて言ってた?」
「いや、一緒にゲームをしようって」
「……そのURLのゲームなら、俺もやってるな」
互いに頭を抑えながらどうしてこうなったと喚いていると、更に喧しくリンゴンリンゴンリンゴンリンゴンッと連続でメッセージを送ってきやがった。
「鬱陶しいッ!! 誰だ
「アンタだよ!!」
「そうだったな!!」
部屋の中に頭が痛くなるほどリンゴンリンゴン鳴り響いている。不幸せな鐘の音の大合唱だよまったくもう。携帯をマナーモードにして再び送られてきたメッセージを確認する。どことなく現代っ子のような文章で彼女は送ってきていた。
『やっほ。腕の傷は癒えたかな? まぁ、今はそんなことはどうでもいいんだけどね。最近暇で仕方ないからさ、ちょっと面白いことをしてみようかなって。このゲームでこれからレイドイベントがあるんだけど、私の今日の獲得討伐ポイントを上回ったら君の勝ちっていうゲームをしよう。私が勝てばそこら辺にいた一般通過男性の生気を奪う。君が勝てれば人の命を救える。そっちの参加者は何人でもいいよ。ただし拒否権はキャンセルだ』
「はぇー、すっごい……。自然な語録使い、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」
「いや語録どうこうより人食われかけてるんですが」
「精気食われるならまぁ……いやもしかしたら性器を口にくわえられる可能性も……?」
「ないです。どうするんですかこれ」
「……やるしかないだろ」
現実逃避気味になっていた先輩もようやく事態に真面目に取り組むことになったようだ。とりあえずゲームを起動して、マイノグーラの作ったらしいギルドに入る。メンバーはまだ俺達含めた三人だけのようだ。
一応あと少ししたら始まるイベントのおさらいをしておく。とはいっても、普通のレイドイベントだ。ボスキャラを倒して討伐ポイントを稼ぎ、競い合うタイプのものだ。ただ、討伐ポイントは今回のイベント限定のレアガチャから排出される武器のレア度に応じて戦闘後の獲得ポイントに倍率ボーナスがつく。
先輩と俺がガチャを引いてみたが、残念ながら最高レアの武器は出てこなかった。
「……一応やり込んでいるはずですが、総合戦闘力5万いってないですね」
「俺も5万ちょっとだ。んでマイさんの戦闘力は……14万ッ!? うせやろ!?」
「俺と先輩合わせても10万程度……」
「いや待て。マイさんは一人。俺達は二人。倒す時間が短くとも獲得ポイントは俺達の半分だ。俺たちが全力でいけば、あるいは……」
「せめて、もう一人助っ人が欲しいところですけど……」
「誰かこのゲームやってねぇかな……」
イベントの開始まであと数分。その数分で誰か助っ人を呼べればいいが……。
いや無理だろう。諦めかけていたその時、ちょうど誰かが部屋の扉をノックしてきた。こんな焦ってる時に藪雨の奴が来やがったらタダじゃおかねぇ。心の中で半ば呪詛を吐きながら、入っていいと伝えると……扉を開けたのは、オールバック眼鏡インテリツンデレヤクザこと、西条さんだった。
「どうせ部屋にいると思っていたが……やはりゲームか。何をしている? 俺も同行する」
「課金院ッ……!!」
「誰が課金院だ。そんな課金厨みたいな不名誉な名で呼ぶな」
「いや、これってもしかして、もしかするかもしれませんよ?」
「課金ブースタを持つ西条なら……!!」
「そこまで金をかけてる訳じゃないんだがな……」
「よし、とりあえずこっちに来い。そんでコイツを見ろ」
西条さんが定位置と化した椅子に座ると、俺はマイノグーラとのトーク履歴を見せた。内容を見た西条さんは鋭い目つきを更に鋭くし、眉間に皺を寄せ始めた。刀を持っていたら刀の鍔を弄り始めていたことだろう。
「……やはりアイツはあの時仕留めておくべきだったか」
「いやどう足掻いたって全滅不可避なので。今はともかくマイノグーラ相手にゲームで勝つために力を貸してください」
「……まぁよかろう。そのゲームなら鈴華に勧められて少しはやっていたからな」
そう言った西条さんのデータを見てみると……総合戦闘力7万。先輩より強いんですがそれは。よく見たら装備が全部最高レアで強化も終わっている。
……しかしここまでやってもマイノグーラには勝てないのか。
「なんでマイさんこんな戦闘力高ぇの?」
「おそらく装備の限界突破まで全て終わらせているのだろう。俺は強化までだがな。あとは……レベル差だ。このゲームはレベルによって補正がかかる。少なくともマイノグーラのレベルは俺達よりも数段上だ」
「やり込みスギィッ!!」
戦う前からわかる。マイノグーラの強さは本物だ。あれはあまりに永すぎる暇な時間を費やして完成させられたデータ……。改竄の可能性もない。強い。この上なく強い。合計総合戦闘力でならこちらが上。しかし相手は神話生物だ。三対一だとしても……全力で挑まなければならない。
時計の針がもうすぐ開始時刻になる。嫌な感じが身体を駆け抜け、心臓が暴れだして治まらない。
……人の命がかかった一度きりのゲーム。負けるわけにはいかない。
携帯が震え、マイノグーラのメッセージが浮き出てきた。開始の合図だ。
『はい、よーいスタート』
「回せ、回転数が全てだッ!!」
「スタミナ回復アイテムを惜しみなく使わなければ……」
「……ゲームくらい落ち着いてやれ、お前ら」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
イベントが始まってしばらく経つ。全力で使えるものを使ってボスを何度も何度も繰り返し倒していく。獲得ポイントを見るが……ダメだ。どうしてもマイノグーラの獲得ポイントに三人を合わせても適わない。一体どうなってやがる。焦りを感じる中でとうとう先輩が発狂し始めた。
「なんで……どうして追いつけない!?」
「……よく見ろ鈴華。マイノグーラの装備は全て、今回のガチャ限定最高レア装備だ」
「全補正かよクソがッ!! 西条が課金ブースタならマイさんは課金廃ブースタ持ちかよ!!」
「一回のポイント獲得料が桁違いだ……。三人合わせても勝てないって、コイツすげぇ変態だぜ?」
「馬鹿野郎お前三人に勝てるわけないだろッ!!」
「口を動かすより手を動かせ。負ければ会ったこともない赤の他人でどうせ生きていても代わりはいくらでもいる一般通過男性が死ぬぞ」
「お前もお前で助ける気あるの!? それと、代わりなんかいねぇからなぁ!?」
「ブラック企業の常套句はNG。かといって、人助けをやめるって訳にもいきませんよ。負けてたまるかってんだ」
そこまで広いとはいえない空間に男が三人集まって携帯に充電コードを差しながらゲームをするその様は、世間から見たら一体どう見えることだろうか。これが当事者でないなら、アホくさ、やめたらとでも言えるだろうが……俺達はそんなこと言える立場じゃない。
「クッソ……そろそろ集中力というか同じことの繰り返しで飽きがきてる……」
「片手間にPCでもやってれば暇は潰せるぞ」
「とうとうゲームの片手間にPCゲームをするとかいうアホみたいなことやり出しちゃったよこの人……」
「ゲームじゃない。最近はミ=ゴミ=ゴ動画も見ている。あの廃人軍団は……見ていて心が踊るな」
「あぁ、もう西条さんが手の届かないところに……」
片手で携帯ゲーム。片手でPC操作。これでキモオタだったらともかくインテリヤクザでイケメンときた。まったくなんだってんだ。終わりの見えないゲームのせいか俺もフラストレーションが溜まってきている。先輩にデスソースでも投げて発散しなきゃ……。
「……おい、ロードに入ったらちょっとこっちに来てみろ」
「なに、どしたん?」
西条さんが何かを見つけたらしい。一応ゲームの方もちょうど区切りが良かったので、向かってみるとミ=ゴミ=ゴ動画の生放送一覧のページが開かれていた。今放送されているもので他と比べてやけに人気なものがある。それを西条さんは指さしていた。
「……この生放送の主、マイノグーラだ。アイツ生放送でゲーム実況してるぞ」
「嘘ォッ!?」
「なにやってんだアイツ……」
マイノグーラの放送している動画をクリックして、大画面に表示する。その画面の半分を埋めているのは、蝙蝠の羽が生えた女性で、もう片方は今やっているゲーム画面だった。
間違いない。声だってまんまマイノグーラのものだ。せめて背中の羽くらい隠せ。というか、生放送しながら俺達に勝ってるのかよ。ふざけてやがる。
「……コスプレ系でしかも美人だと評判がいいらしい。24chでも色々と書き込まれているな。愛称でマイちゃんと呼ばれている」
「あぁ、普通の人って羽見てもコスプレとしか思わねぇのか……」
「いや結構バサバサ動いてるんだから誰か疑問を持てよちくしょう」
「氷兎の精神が徐々に磨り減ってきてるな……」
画面に釘つけになりながらもゲームを進める手は止めない。未だにマイノグーラとの差は縮まらず、完全なイタチごっこと化してきた。レイドの時間はまだまだある。終わる頃には携帯が熱で悲鳴をあげているに違いない。
『いやぁ、三対一でもなんとかなるものなんだね。これは私の圧勝かなぁ?』
「画面の向こうでなんか言ってるぞおい」
「もっと神話生物っぽくしろよな……」
生放送最中のマイノグーラは暇なのかしらないが口笛を吹いて余裕たっぷりそうだ。その行動がいちいち癪に障る。完全に舐められているな、俺達。
『負けちゃったらちょっとアレなことしちゃおうかなって思ったけど、参加者君達は残念だなぁ』
「ん? 今なんでもするって」
「言ってないです。どうせロクなことじゃないので期待しない方がいいですよ」
「鈴華、手が止まってるぞ」
「わーってるよ」
先輩も疲労と飽きがきている。かくいう俺もそろそろ集中力の限界だ。何か、革新的なことが起きないとこれ以上の続行が厳しい。マイノグーラのいる場所に隕石でも落ちてこないかな。
そう思っていると、突然PCから焦ったような声が聞こえてきた。マイノグーラが何かドタバタと忙しなく動いている。
『……ゲームは程々にしろって言わなかった? なぁ、飯の時間だって言ってんのに来ないってどういうことだおい』
『ま、待って今行くから! ごめんね視聴者さん、ちょっと従弟が……ちょっと、お願いだからその棚の中身捨てようとしないで!』
男性の怒るような声が聞こえたかと思えば、画面は生放送の終了を告げる文字が浮かび上がってくる。まさかの親フラというか兄弟フラ。しかも従弟……ん? 従弟?
確かマイノグーラってナイアの従姉妹で、つまり今いたのってナイアの夫ってこと……?
「……まぁいいや」
なんかもう面倒くさいから思考放棄した。今はそれよりも重要なことがあるのだから。
「マイさんが消えた……今がチャンスだ。全力で回せ!」
「ここで突き放さなければ、俺達の負けは確定するな」
「やる気が出たようで何よりですよ」
先輩のやる気は回復したようだ。マイノグーラが戻ってくる前にポイントを荒稼ぎしなければならない。
しかし……この状況は長くは続かなかった。俺も先輩も、とうとうスタミナ回復アイテムが尽きたのだ。絶望感に打ちひしがれながら、ひとまず休憩として珈琲を淹れた。
「……資材が底をついた。まずいぞ……」
「俺ももうスタミナ回復アイテムないっすよ。現状は課金ブースタで戦闘続行してる西条さんだけですが……」
「俺にそんなスキルはないと何度言わせればわかる」
いや、困った。非常に困った。まだマイノグーラが帰ってきていないとはいえ、このまま西条さんの稼ぎだけに頼るのは負ける可能性が高い。
……目の前にいる先輩を見れば、その面構えは確かな意志を感じさせるものだった。何か、今まで我慢していたものを解き放つような、強い意志を感じる。
両手を組み合わせて俯いていた先輩だったが……ゆっくりとその顔を上げた。
「……魔法のカードを、解禁するしかない」
「ッ……無課金を、やめるんですか?」
「よく考えろ。課金じゃない。俺達は魔法のカードを使って人の命を救うんだ。これは課金じゃない……寄付だ」
「……いや課金には変わりないと」
「課金じゃないんだよ! ここまで来て無課金やめられるかってんだ! たかが何万金を払うだけで、人の命を救えるんだ! ここで払わないで……どうするってんだよ!」
まるで、雷が落ちてきたかと思うような衝撃を受けた。今まで無課金を貫いてきた俺達だが……そう、課金じゃない。偉い人は言っていた。課金は家賃まで。課金は、食事と同じだと。俺達のこれは食事じゃない。これは……人の命を救う戦いだ。
「……買いましょう。ここまで来たら、引けないっ……!」
「よう言った。それでこそ男や」
「今から買いに行くのか? その時間を討伐に当てた方が効率的だ。誰かパシリを呼ぶのがいいだろう」
「しかし、今ここでパシリに使える奴なんて……」
そう思っていたその時だ。コンコンココンッと刻みよくノックがされた。このノックの仕方は……間違いない。アイツだ。先輩の顔が嬉嬉として明るくなっていくのが目に見えてわかる。
「いたよ! パシリだ!」
「でかした。藪雨、入ってきていいぞ」
扉を開けていつもの作られたような笑顔で入ってきた藪雨は……部屋の中の惨状を見て一瞬立ち止まった。
「ゲームも程々にするとか、せんぱい方しないんですか。それと、そちらの方は……」
「いや、それは今度紹介する。今はお前に任務を頼みたいんだ。お前にしかできないことなんだよ!」
「え、えぇ!?」
先輩と俺で出し合ったお金を藪雨に渡した。本人はきょとんとした顔で俺達を見ていたが、先輩の言った言葉に顔を歪めて怒りだした。
「藪雨、これでiTunesカードを買ってこい。今すぐにだ!」
「後輩をパシリに使うとか何考えてるんですか!? 嫌ですよ私!!」
「頼む! これで人が助けられるんだよ!」
「そんな馬鹿な話がどこにあるって言うんですかぁ!?」
「事実目の前で起きてんだよなぁ……」
やり取りを見ていてボソリと呟いた。仕方がない。俺は財布から更に諭吉さんを一枚取り出して藪雨に手渡し、肩を軽く叩いてから言った。
「これで好きな物を買いなさい。だから至急速やかに、迅速にカードを買ってくるんだ。いいね?」
「……しょうがないですねぇ。まぁ、私こんなにも素晴らしい優しさのある後輩ですしぃ? 尊敬するせんぱいに頼まれたら使いっ走りくらいはしてもいいですよ?」
「そういう現金なところ、今だけは好きだよ」
「告白ですかぁ? やめてくださいよぉ私まだ死にたくないので」
後半なんだかマジっぽい言動になりかけていたが、藪雨は臨時収入に喜んで飛びつき、部屋から走り去っていった。扱いやすい後輩で良かった、本当に。財布には少し痛かったが。
「よくやった氷兎」
「……あの喧しいのは友人か?」
「あぁ、西条にも今度紹介するよ」
果たして藪雨と西条さんを引き合わせていいのだろうか。なんか藪雨が喧嘩売りにいった挙句負ける未来しか見えないんだが。俺はよした方が……いや、この部屋にいたらどのみち嫌でもエンカウントすることになるか。
憂いが増えて嫌になる。俺はバレないようにそっとため息をついた。
「そういや西条は平気か? そろそろお前もスタミナ回復アイテムが切れるだろ」
「……いや、俺としてはそんな原始的な方法で課金をしているお前達に驚いたがな」
「……なんだって?」
「知らんのか? 最近の課金は仮想通貨が楽だぞ。どこに行っても使える世の中だ。現金よりも使い勝手がいい。外国でも使えるのだから、俺が使わない筈がなかろうよ」
「ワァオー、随分と未来的。いや、俺達が時代の波に乗れてないのか……?」
「仮想通貨も、随分とまぁ流行ったものですね」
「技術革新の賜物とも言える。科学技術だけじゃない。その裏では情報技術も確かに発達しているのだからな。コイツもその恩恵を受けている」
人差し指で眼鏡をクイッと上げる西条さん。そういえば西条さんの眼鏡はEye phoneだったな。なるほど確かに地味ではあるが色々と便利だ。俺達の持つ携帯端末も、随分と進化を遂げてきたしな。
「うっし。もう休憩は十分だ。再開するとしよう」
「……なんかマイノグーラのポイント上がってきてますね。アイツ飯食って帰ってきましたよ」
「手を抜くなよ。計算上、残り時間的にはこのまま逃げきれるのだからな」
「よし、じゃあ俺の金ぶち込んでやるぜ!」
「財布が痛いですね、これは痛い……」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
部屋の中にいるのは、ぐったりとしたまま動かなくなっている男三人。時刻は今日のイベントの終了時刻を指し示している。充電を続けながら使用を続けた彼らの携帯は既に熱で悲鳴を上げている。触り続けていたら本人が悲鳴を上げるほどには酷い状態だった。
「……なぁ、勝ったか」
「……ギリギリ、勝ってますね」
「流石の俺も、こんなに長時間の単調作業は精神的にくるな……」
「誰かUNICORN流して……」
「辛勝した淫夢くんUCの動画でも流すか?」
「いややっぱいいや」
長時間のゲーム画面の見過ぎによって、彼らの眼は疲労を訴えていた。疲れただろ。今日はもう休もうぜと頭の中で猫が話しかけてくる錯覚を覚えていた氷兎だったが、突然携帯が震え始めた。メッセージを受信したらしい。確認してみれば、送り主はマイノグーラからであった。
『はぁ、もう……彼が来なかったら私の勝ちだったのに。まぁいいや、三人でよく頑張ったね。勝ちは勝ちだし、約束は守るよ。それと、ご褒美もあげなくちゃね』
そう送られてきて少しすると、今度は画像が送信されてきた。身体のラインを強調し、脇や胸元が開いて見え、更にはへそも見えるという黒い布一枚の格好、いわゆるサキュバスチックな衣装を着たマイノグーラの写真が送られてきていた。
それを見ていた三人のうち、鈴華が氷兎と顔を合わせて懇願し始めた。
「氷兎、その画像送ってくれ。オカズになる」
「いや、消しますよ。なんか持ってたら呪われそうじゃないですか」
「おま、戦利品だぞ!? 年上のグラマラスなお姉さんだぞ!?」
「年齢はBBAな上に神話生物だってことわかってます?」
「見た目若いだろ! なら問題ねぇ!」
「……まぁいいや」
鈴華に写真を送りつけてから、トーク履歴を消した氷兎。あれだけ疲れていた鈴華はまさかの戦利品にガッツポーズをし、眼精疲労一歩手前まで来ていた氷兎と西条は静かに休むことにした。もう今日は携帯ゲームはいい。ゲーム好きがそう思える程までに疲弊した一日であった。
To be continued……
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