死への恋路
森唄 鶴人
第1章 告白
「付き合ってください!!」
2015年9月、16歳になった誕生日から数日経ったある日あまり冴えないタイプの高校生である坂野裕太は、綺麗に真っ黄色に染まった、いちょうの木々に囲まれた公園で告白をした。この公園は小学校の低学年の頃に沢山遊んだ思い出の公園である。そんな場所を告白の地に選んだのは我ながらセンスがいいと坂野は思っていた。
「告白」というものは小学6年生の時、周りが遊んでいるのを尻目に必死に勉強して(親に勉強させられて?)入った男子のみの山奥の進学校に通っていた坂野にとっては、それはもう一世一代と言っても過言ではない大イベントだった。なんで男子校に入ってから3年以上も経った頃に、小学校の時の学年のマドンナ的な存在であった土屋春奈に告白したのか。それは些細なきっかけだった。坂野が中学3年から高校1年になる春休み、小学校の6年3組で同窓会をしたのだ。坂野は中高一貫の男子校に通っていたが、中学に入るにあたり受験をせず公立の中学校に行った小学校の同級生たちにとって高校受験は大行事であったらしく、それを終えたのでお疲れ様会としてみんなで会おう、という話になったのだ。今でこそ冴えないが、当時は運動会で騎馬戦の騎手やリレーの選手をする感じのクラスの人気者タイプだったので坂野は呼ばれたのだ。そこで小学1年生の時からずっと好きだった春奈にLINEを聞いて今までずっと連絡し合ってきたのである。その中で坂野と同じく中学受験し女子高に通う春奈には彼氏がいないことも掴んでいた。だからこそ坂野には絶対的な確信があった。
(勝った……!)
ここでの「勝ち」には2つの意味がある。
ひとつは告白に成功し、憧れの春奈と付き合うことが出来るということ。同窓会でラインを交換してから昼も夜もLINEをし合っていた。それこそ送った瞬間に「既読」という表示が出たりして、LINEしてる間に暗かった夜がいつも間にか明けてしまうこともあった。そんな時も寝る前には「おやすみ」という言葉を送りあってその後お互いにスタンプを送るものだから、さらに時間がかかるということもあった。しかしそんなどうでもいい、客観的に見たら無駄なことがとても幸せに感じるのだ。これらの事実が告白の不安な気持ちを自信に変えていた。
もうひとつの意味は、中学に入ってできた1番の友達、松野稜斗との勝負である。松野とは4月1日の入学式の日に山奥の学校まで通うために駅から毎日出ているスクールバスの中で出会った。坂野がバスに乗り込んだ時、自分よりひとまわりもふたまわりも背が大きく怖い先輩たちがいるバスの中での立ち振る舞いがわからないからか、松野は凄まじくおどおどしていたのですぐに1年生だとわかった。その日の入学式で背の順に並んだ時も松野、坂野の順になったので一気に心の距離が縮まりそれから16歳にいたるまでずっと仲良くしてきた。
ある日彼に
「どっちが先にセックス出来るか勝負しようぜ」と持ちかけられたのだ。男子校の会話なんてまあそんなもんである。しかし彼らのむさ苦しい男子校生活で彼女の「か」の字もないのにセックスもへったくれもないと思った坂野は
「いやいや、、、俺ら彼女もいねぇじゃん…。じゃあ彼女にしよーぜ。先に彼女できた方の勝ちで。でも勝ったらなんか特典あるん?」
「んー。じゃあベタだけど1個だけ願いをなんでも聞くとか?」
「そうだな……できる範囲の願いをなんでも聞く!これにしよう!」
と勝負内容を変えたのである。
絶対的な確信と自信を持って告白し、(稜斗に何してもらおうかな)なんて考えていた坂野に土屋春奈はその大きな目をぱちくりさせて、少し涙を流しはじめた。坂野は(これマンガとかドラマで見たことあるやつだ!このあと告白をOKする流れのはず……)
「ごめんなさい。もっといい人が裕太にはいるよ。」
「えへぇ!?」
思わぬ返事に坂野は非常に素っ頓狂な声を出してしまった。(え?だって今日まで毎日のようにLINEしてきたし、おやすみとおはようはお互いに欠かしてなかったし、ご飯だって数回食べに行ったし、カラオケでだって似たような選曲してたし、春奈だってそれっぽい思わせぶりなことも言ってたし、「彼氏欲しい」的なこと言ってきたこともあるし、それにそれに……)
そんなことを一瞬のうちに頭を巡った坂野が泣きそうになりながらふっと顔を上げて春奈の方を見ると、坂野が顔を上げると同時に春奈は振り返って家の方向に歩き始めてしまった。
「?」
坂野は人生で初めての告白が失敗に終わり、今にも泣きそうになりながらも春奈の様子を少し不審に思った。
(今、めちゃくちゃ悲しそうな顔してた……?)
春奈が振り返る瞬間、一瞬だけ目が合ったのだが、とても悲しそうな表情を浮かべていたように見えたのだ。坂野を振ったのは春奈なのにまるで自分が振られたみたいな顔をしていたのだ。
「まぁどうでもいいや、はぁ、帰ろう…」
と呟き、坂野はとぼとぼと家路に着いた。
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