【警告】以下のファイルは、管理者により最高機密に分類されています。

SCP-001-JP『AiliceHersheyの提言-惟鯨』って、結局何なの?


              飲み込まれてしまえ。


はいどうも、今回の解説役は中嶌です。今回は、SCP-001-JP……所謂【提言枠】であるこのSCPのタイトルは『AiliceHersheyの提言-惟鯨ゆいげい』(以下、AiHe氏と表記)。SCP財団サイトメンバーのAiHe氏によって執筆されましたが、このAiHe氏は現在SCP財団のサイトから退会しているので、元記事を読もうとしてもアーカイブしか残ってません。そこは悪しからず。


☆OCと取り扱い方


取り扱い方? 特別収容プロトコルじゃなくて? そう思った人もいると思いますが、アーカイブには取り扱い方と書かれています。

OCは財団の切り札であるThaumielですが、取り扱い方が結構特殊になっています。まず最初に、元記事には『財団はSCP-001-JPを利用せざるを得ない状況にいます』と書かれています。Thaumielというのは『SCPが深刻な重要違反を起こした際に対抗し得る手段だと判断された』オブジェクトに割り振られますよね? この書き方なら、財団がシブシブ利用しているものだと思われてしまいます。

まあそれもそうで、どうやらこのSCPは相当デカいらしく、天下の財団でさえ物理的な問題から収容が『不可能』だと言い切っています。

『え、じゃあどれぐらいの大きさ? 40000kmぐらい?』

そう言う声も聞こえるかもしれませんが、このSCPは何と。ちなみに、俺たちはこのSCPの胃の辺りにいるらしいです。もし、そのSCPに関する情報を一般人が見てしまったらどうなるかというと……記憶処理だけで済むらしいです。即死亡よりかはマシ。

なので、このSCPは特定の人物……具体的に、サイト-178の特定職員、並びにSC4(調べてもよく分からなかったですが、多分偉い人達です)以上、外宇宙支部所属職員(そのまま。宇宙の外にもSCP財団はあるんですね)の一部職員のみしか伝えられていません。


☆概要


じゃあこのSCPの見た目は何なのかと言うと、タイトルから分かるように『鯨』です。それもでっかい。

もちろん、ただ大きいだけじゃなく。このSCPが住んでいる所(以下、超外宇宙と記載)は常にミーム因子がひしめき合っていて、その際に行われる概念が生まれたり消えたりしています。つまり、超外宇宙のミーム因子は俺たちの宇宙よりも濃いです。大体7000倍ぐらい。『こんなモノ見たら脳がブットんじまう!』みたいな事も書いてあります。

そして何故、このSCPがThaumiel指定されているのかと言うと、こいつは一か月に一回程度超外宇宙で生まれた概念をパクパクしてるんです。そして、それが俺たちの宇宙になんらミーム因子的影響(脳がブットんだり)を与えていないから、Thaumielになった訳です。なんだイイ奴じゃん。

このSCPが何もパクパクしていない間はというと、ずっと寝ています。どうやら何かしらの音声(地球の何かしらの音声)を発しているのが記録されていますが、この音声が目的としているのか後述します。


☆発見経緯


このSCPは、外宇宙支部が1952年以降に発生した██,████兆光年(!)より先の地点全てで██度に渡って観測していた、原理不明の振動現象を調査していた時に『何かでっかいの居そうじゃね?』と予想されていました。1952年にそれが分かってる財団の科学力たるや。

その後、外宇宙支部のキリカワ博士がもっと調べていった結果、『謎の振動とボイジャーのゴールデンレコード(2013年現在、海王星あたりにある人工物。主に宇宙人に向けて地球の音とかが入ってる)含まれている音が合致しとるやんけ!』と発見。このSCPの調査班が発足されました。

調査班の報告により、当時捕縛されていたAWCYAre We Cool Yet?所属の、コードネーム : アメフラシが、『鯨が宇宙の外に居るんだってばー!』と騒いでいました。以下は、キリカワ博士のアメフラシに対するインタビューです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2002年12月5日(宇宙の外からどうやってインタビューしたんでしょう……?)


[省略]


キリカワ博士:

では、本当に私たちの宇宙の外側には、そんなにも大きいクジラが存在するというのかね?


アメフラシ:

俺はそれを50年前から言ってるよ。


【初めてSCP-001-JPが観測された年ですね】


キリカワ博士:

信じることができない。何か肯定的な証拠は?


アメフラシ:

あんたらなら俺らの施設にあった観測所と同程度の施設を作る技術があるよ。最も、俺の研究職のポスト、あといくつか異常なもんを借りる事にはなるけどな?


【あなた、もしかして寝返ろうとしてません?】


キリカワ博士:

それはすぐさま肯定する事はできない。


アメフラシ:

それならそれで構わない。どうせ放置した所で、俺たちにとってクールじゃない事は起きないからな。あんたらにとっては許容しがたい事が起きるかもしれないけど。


キリカワ博士:

許容しがたい事?


アメフラシ:

気まぐれな世界の滅亡さ。


【えっ。それは聞いてない。SCP-001-JPは、ただミーム因子を食べている食っちゃ寝鯨じゃないんですか?】


キリカワ博士:

説明を求める。


アメフラシ:

まず初めに、恐らくだが、俺達は「カー・オン」だなんて親しみを込めて呼んじゃいるが、あれはクジラなんてちゃちなもんじゃない。高次生命体? 神的存在? それよりも遥か原初の存在だ。


【カー・オンとは、ベトナム語で『魚伯爵』とか、そんな意味です。敬意を示します】


アメフラシ:

俺達はアイディアを求めた。だから、宇宙の外側へ行こうとした。この宇宙ではそれに限界があると感じたからだ。そして宇宙の外を観測した。そこには、俺らの想像通り、無数のアイディアと、想定外なクールが鎮座してた。カー・オンだ。


アメフラシ:

暫くして、カー・オンがアイディアを食い始めた。流石の食事量だ。俺達が求めていたアイディアを貪り食うようなその姿には体が震えたね。ただ、その過程でうねから零れ落ちていく無数のアイディアを見て感じた。それは、クールじゃない。


キリカワ博士:

クールではない?


アメフラシ:

カー・オンが零したアイディアは、実に興味深くなかった。ただ首を折るだけの彫像、死なないだけの爬虫類、思わせぶりなことを騙る全能者。全くつまらない。


アメフラシ:

だが、カー・オンが捕食したアイディアの中には素晴らしいものがあった。ただ首を折るだけではない、目を離したら首を折りにくる彫像。あまりにも凶暴で手のつけられない不死の爬虫類、どこまでも安全な全能者。それらは零したアイディアと紙一重の存在だけど、ユニークさ、クールさが確かそこにあった。


【何だか、全部どこかで聞いた事ありますねぇ……】


キリカワ博士:

それはたまたまではないのか? クジラは食料を選ぶ事はない。選ぶにしても、何故だ?


アメフラシ:

そんなもん決まってんだろ。誰だってアイディアはより良い方がいい。


アメフラシ:

アイディアは確かにどこにでもあって、存在し続けてる。その中からよりクールなもんを選び取りたいのは俺達だって変わりゃしねぇ。最初に俺達が宇宙の外を求めた事と一緒さ。


【いいアイディアの方が美味しいんでしょうか? なら、俺も食べてみたいものです】


アメフラシ:

そんで? ここで質問だ。俺達はよりクールになれるか?


キリカワ博士:

クールになる事に意味があるのか?


アメフラシ:

もちろんさ。言っただろう。アイディアはより良い方がいい。では今ある物より、より良いアイディアが見つかった時はどうする? 簡単だ。今ある物を切り捨てる。


アメフラシ:

博士、ここは腹ん中だ。忘れるなよ。いつだって俺達はカー・オンのより良いアイディアを捕食するためのエネルギーになるんだぜ?


アメフラシ:

だからいつだってあいつに問い続けろよ。「Are We Cool Yet?」ってな。他のとこも必死だぜ。


 

書き起こし終了

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あーあ。どうやらこの鯨、ただ単にミーム因子……AWCYの言う【アイディア】を食べていたわけではなかったですね。まあ、ウラがあるのがSCPオブジェクト。そう簡単に事が上手く運ぶ訳がありません。

つまり、この鯨が食べていたアイディアの1つ1つが、財団世界で『SCP』と呼ばれるモノになったんです。2019年3月15日に世界が終わるウソをばら撒いたり、異様な財団職員が雇用されていたり、有用なのか危険なのか分からない付箋だったり、笑われたら忘れられたり、自分の身長・体重を維持したコウモリになれたり……全部、この鯨が食べた【アイディア】だった、という事です。しかし、もう一つ懸念が残っています。

もし、

この鯨は、クールなアイディア……美味しい【アイディア】を食べて生きている訳です。誰だって、美味しくない料理……つまらない【アイディア】を食べたいとは思いませんよね? SCP-2999-JPでも解説したように、AWCYはアート系の集団です。つまり、彼らには鯨が食べたい美味しい【アイディア】が何たるかを分かっている、という事です。もし、彼らの作るSCPに【アイディア】が無ければ……次に待っているより良い【アイディア】の為の燃料となってしまいます。少しでも状況が変われば文句無しでKeterどころかApollyon(Keterの上位互換)です。

ちなみに、インタビューでも示唆していた通り、アメフラシは無事(?)財団に寝返りました。そこでは『アーノルド博士』として、SCP-001-JP把握に多大な貢献をしました。例えば、鯨が何を消化したか、財団が収容してから性質が変わったオブジェクトもあります。以下がその一例です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

強力な現実改変能力を有した、頭部が消失した死体。完全なる凍結によって一時的に無力化する事が可能であった。

                ↓

強力な現実改変能力をかつて有していたボノボ(Pan paniscus)の個体。自身の能力によってボノボと身体を置換した現実改変者の末路。


女性に対し性行為を誘発させる蝉。その影響下において性行為を行うと、女性は必ず妊娠するが、少なくとも1年以上胎児は子宮内で成長を続ける。

                ↓

女性に対し性行為を誘発させる蝉。その影響下において性行為を行うと、女性は必ず妊娠する。また、その性行為のパートナーとなった男性の海綿体組織ちんちんが同等の蝉へと変質する。


戸田恵子氏の音声が録音されている自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator、以下AED)。使用者は特定の楽曲のリズムに則って胸骨圧迫を行うようなる。また、胸骨圧迫を受けている対象は楽曲がAEDから流れている間のみ、非破壊性を有し、楽曲終了と共に心臓破裂により死亡する。 更に周囲の人間は強い高揚感を覚え、楽曲に合わせて歌う、手拍子を行う等の動きを見せる。

                ↓

様々な楽曲が録音された自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator、以下AED)。使用者は楽曲のリズムに則って胸骨圧迫を行うようなる。また、胸骨圧迫を受けている対象は楽曲がAEDから流れている間のみ、非破壊性を有し、楽曲終了と共に心臓破裂により死亡する。 更に周囲の人間は強い高揚感を覚え、楽曲に合わせて応援する、手拍子を行う等の動きを見せる。現在実験中であり、終了予定時刻は2656/11/05。


人間に視認されていない状態であると移動を行うクッション。様々なメーカーのクッションに混入しており、全物品の回収は困難。奇形児、知的障害児を材料としているとされ、一定の自己認識能力を持っていると推測される。

                ↓

人間に視認されていない状態であると移動を行うクッション。Dクラスを用いた実験、並びに個体が発見された施設にて同時に発見された書類群からの情報により、奇形児、知的障害児を材料としている事が判明。収容プロトコルとオブジェクトクラスが変更された。


起源不明のティーンズ小説。周辺の文書を本来の内容をオマージュしたティーンズ小説に改変する。なお、改変された文書の元々の内容の想起は不可能となる。自身が異常性の影響を受け無力化。

                ↓

小説と、主人公と、空間。完結させられた物語の中でもがき苦しむ怪物と、その悪あがきを殺し続ける少女。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どうやら、これ等が変化する前の報告書もあるらしく、これ等がどうやって変化したのかは不明となっています。





















      自動アルゴリズム-COにより、一件のメールを受信します。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Subject : (無題)


Sender : O5-1


Body : Key.dat


これは私達の意志ではない。

これは上位ミームの意志でもない。

これは誰の意志でもない。


完全な悪にただ立ち向かうのは陳腐だ。

便利な物品をただ使うのでは単調だ。

異常な物品を作り出すだけでは趣がない。


だから確保する。

だから収容する。

だから保護する。


私達の世界は常に変化する。

私達の財団は常に変化する。

それはまさしく、あの変質したアイディア達のように。


だからこそ、全てを確保・収容・保護とは言わない。

常に新奇的であれ。


私は数多のアイディアの中から、ただ濾されぬように自分の意志でここにいる。

他の者もそうだ。


これを読んだのなら、あとは君で選んでくれ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


☆考察


はい、ここからは考察タイムです。

今回は、SCPの【アイディア】を美味しく頂いてたデッカイ鯨の話でしたが、どうでしょう、どこかであなたも

とある作品に対して『これは面白い! 高い評価を付けよう』とか、『この作品は……うーん……』となった事、あると思います。面白い記事は生き残り、つまらない記事は、言ってしまえば殺されます。

……そうです。この鯨そっくりですよね。

食べた【アイディア】は面白く、うねから零れた【アイディア】はつまらなく。これは、普段から何か―――ここで言えばSCPの記事―――を評価している私たちを、上手にSCP-001-JPという形に落とし込んだものです。

そして、このオブジェクトがThaumielである理由。それは、O5-1のメールからヒントを得られるように、ただ異常なだけ……デマで世界が終わり、笑われたら忘れられる事を悪用し、付箋から安全な人が出てきて、異常者が雇用され続け、コウモリが狂暴化して虐殺しまわり、不思議な占いが広まり、銃が人を殺め、地球が反撃する……ああ、それでは何の意味もありません!

何故なら、これ等はナンセンスだから。

物事には、クールが必要。ただ、それだけです。

財団が【クール】を追い求め、鯨も【アイディア】を食べ続ける。これこそが、鯨がThaumielたる理由です。

しかも、先ほど挙げた『変化したSCP』、あれも現実世界の『カー・オン』である私たちの評価によって、『削除圏内にあったSCPを、改稿して大幅に評価を上げた』のです。

現実改変能力を持ったボノボの愉快な結末SCP-019-JP『普通のボノボ』良からぬ考えを持つ男たちに下る天罰SCP-497-JP『催淫蝉』鳴り止まないAEDの音楽に乗せて踊る苦悩SCP-1601-JP『あの曲が助けてくれる』その実人間入りの動くクッションSCP-1974-JP『ぐねぐねクッション』、終わらない結末に翻弄され続ける登場人物達の計り知れない思い(ルビが入り切らないほど長い、SCP-1989-JP『この愉快な世界を食おうとしたら、登場人物に逆襲された僕の顛末についてと今後の展望』)。

これ等に続く作品をより良く、より面白く、よりクールにする為に、今日も私たちの中の『カー・オン』は【アイディア】を食べ続けます。

……何を言ってるか分からない? だって、こう言うじゃないですか―――




        SCP-001-JP『AiliceHersheyの提言-惟鯨』




身体の中のってね。 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

CCクリエイティブコモンズライセンスに準拠します。

SCP-001-JP AiHeの提言 - 惟鯨

by AiliceHershey

http://ja.scp-wiki.net/aihe-s-proposal(ただし元記事削除済み)

アーカイブはこちら→http://ukwhatn-tp.wikidot.com/archives-aihe:aihe-s-proposal



SCP-019-JP 普通のボノボ

by tokage-otoko

http://ja.scp-wiki.net/scp-019-jp


SCP-497-JP 催淫蝉

by count number

http://ja.scp-wiki.net/scp-497-jp


SCP-1601-JP あの曲が助けてくれる

by Hasuma_S

http://ja.scp-wiki.net/scp-1601-jp


SCP-1974-JP ぐねぐねクッション

by Hare_the_Midair

http://ja.scp-wiki.net/scp-1974-jp


SCP-1989-JP 『この愉快な世界を食おうとしたら、登場人物に逆襲された僕の顛末について』

by kyougoku08

http://ja.scp-wiki.net/scp-1989-jp

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