SCP-3519『静かなる日々』って、結局何なの?

            これで、楽園の出来上がりだ。



どうも、復活の中嶌です。今回は僕の大好きな、SCP-3519『These Quiet Days』、日本語訳で『静かなる日々』を解説していきます。

それでは、行きましょう。


☆OCと特別収容プロトコル


最初に言っておきますが、SCP財団はこのSCPにしました。財団の理念である確保、収容、保護を遂行出来なかったのです。解説の初っ端から負けてるんかい! と思った人もいるかもしれませんが、OCは収容が極めて難しい、堂々のKeterです。特別収容プロトコル(各SCPに向けた対処法)は必要ありません。

敗北したってどういうこと? 特別収容プロトコルがいらないってどういうこと? そう思われた人もいるかもしれません。ただ、SCP財団の報告書にはこう書かれています。


『SCP-3519への感受性を有する人物が生き残っていないことから、これ以上の収容は必要とされません。感染は無力化したと見做されます』


……そういう事です。つまり、殆どの人間が死滅しました。少し難しく書くと、XKクラスシナリオ『世界終焉シナリオ読んで字の如く』が起こってしまった、ということです。


☆SCP-3999の内容


そんなSCPに対して天下無双のSCP財団が敗北した理由は、SCP-3519の超強力であり超厄介な能力によって、です。それは、新聞、TV、ラジオ、何のメディアでも、そのSCPが伝えられてしまったら『2019年3月5日に世界が終わってしまう』という即効性のあるミーム汚染がばらまかれます。それだけでなく、『そのXdayが来てしまう前に自殺したほうがマシ』という情報まで植えつけられます。

このミーム汚染が起こる条件も非常に緩く、例えばテレビで『何だか知らんけど2019年3月15日に世界終わりそう』と報じられただけでも、2019年3月5日に世界が終末を迎えてしまう、となってしまいます。この場合、証拠や確証が無くても、それを固く信じ込みます。但し、終わり方は個人によってまちまちで、『キリスト・仏陀等の神が表れて我々を【救済】してくれる』『隕石が降ってくる』『核爆弾の雨が降る』などなどです。そして、このミーム汚染に曝露された人は大体40日で例外なく自殺します。

そして、今日付を確認したあなた。もちろん、本当に2019年3月5日に世界が終わるわけではありません。1999年にも似たようなことがありましたよね? それと同じです。まあ、こっちの方が何倍も強力ですが。


☆補遺


このSCPについての報告書には色々書かれていますが、以下の文章は、まだこのSCPがそんなに広まっていない時のとあるTVのコメンテーター達の会話です。

(前略)

『カレラ大司教: 我々は最近、アステカ司祭の秘密結社が現代社会においてマヤの予言に取り組み続けていたという証拠を明らかにしました。それらの予言は、終末を来年の3月5日に再計算したという事でした。我々はこれが聖ヨハネの予言と一致しているのではないかと感じているのです。』


『コンウェイ: そうです、教会も我々の情報ソースの一つでした。テノチティトラン亡命政府の特使も同様でして、貴方も今朝のTwitterでご覧になったように、大統領と連絡を取り合っています。


画面には当日の朝の大統領のツイートが表示される。“アステカの特使から3/5に世界が終わると聞かされた。何と怖ろしい!”』


もう既に、大統領もコンウェイ氏も、カレラ大司教もSCP-3519に感染してしまってます。ちなみに、テノチティトラン亡命政府もまた別のSCPなんですが、普通にSCPがTVに出てる時点でアウトです。

他にも、2019年2月12日には『終末前の乱交パーティー招待状』が届いていたり、愛する人に贈るメールの内容も『終末を生き延びてもどうすることもできない。その後どうするんだ?』などなど、終末一色です。

ここまで来ると分かった人もいるかもしれませんが、このSCP、【終末論に関することなら何でもミーム汚染で災害を拡大させ続けます】。なので、何気ない会話、SNS上のやりとり、壁の落書きでもなんでもSCP-3519として猛威を振るい続けます。

更には、そういうものに騙されやすい人ほどミーム汚染の抵抗力が弱まり、それが更に被害者を増やす……こんなもの、たとえ全人類を記憶処理しても間に合いません。

そして、最初に観測された2018年12月5日のラジオ番組の記録がされています。

『MTF ψ-10によるメディアの定期監視が、ジョージア州ボガートから発信されているAMラジオ放送 “フィフティ・デイズ”に最初のSCP-3519実例を検知する。

当初、これは一般的な黙示録の信念、並びに福音派の宗教放送における終末論的な予言との類似性によって無視された。』


流石に、最初は『1999年のアレかよ……』と思われたらしいです。しかし、それが後に大災害を引き起こすのは、誰も予想出来ませんでした。しかし、そこから徐々に感染者=自殺者が増え続け、SCP財団もこれはおかしいと思い始めました(フィフティ・デイズもまた、要注意団体【第五教会】の関連団体です)。


『ボガートでの死者のニュース報道は、国際的なメディアを通じて取り上げられている。財団のミーム分析は、類似するカルト宗教団体の自殺に関する報告と比較して異常なほど同情的な報道に着目する』


と推論を建てました。中々筋がいいのですが、問題はそこではありません。先ほど僕は、【終末論に関することは全てSCP-3519となる】と書きました。そして、このニュースは。……つまりどういう事かって?

時は2019年1月2日。


『関連する自殺は17ヶ国で2600人以上に拡散している。感染がSCP-3519に指定される。ワタナベ・ノリ博士が主任研究員に着任。』


はい、マジの大災害が起きてしまいました。ここでようやくSCP指定され、ちゃんと研究員もついたらしいですね。そして、最初の頃のプロトコルは機動部隊を各地に派遣してSCP-3519の感染者又はTVメディア等を確保・規制する事にしました。

しかし、それすらも遅すぎたのです。

2019年1月11日。恐れていた事が起き始めました。


『MTF η-10の日報がSCP-3519の兆候を示す。機動部隊司令部はMTF η-10の隊員らの任務を解き、Eクラス隔離下に置くよう指示した。』


とうとう財団の人にも感染し始めたらしく、その人たちを急いで解雇するももう間に合いません。

財団もこれについて急いで対処、プロトコルを改訂しました。


『機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519感染の拡散マッピング任務が割り当てられます。機動部隊ウプシロン-4(“シュガー・ピル”)は、最重要緊急案件として対抗ミーム治療(ミーム汚染に対抗するためのミームです。毒を以て毒を制するって訳です)の開発に取り組みます。対抗策が開発された場合は即時配備し、以下の優先順位で配布を行います。


1.MTF U-4の隊員

2.重要ミーム学部門の職員

3.O5評議会

4.世界オカルト連合 (要注意団体。SCP絶対破壊するマン)

5.世界保健機関(WHO)

6.残りの重要な財団職員

7.一般人口』


とりあえずなんとかしようと対抗策を出しましたが、それはほぼ何も出来ないという事です。しかし、こうするしか無かったのだから、仕方ありません。

2019年1月17日、この時点で自殺率は世界人口の1%に到達。もうそろそろ感染者も何かおかしいと気づきそうなものですが。いや、1%自殺している時点で注意喚起をする人も感染していますね。

さらに28日には自殺率がいきなり30%も増加。その間僅か1週間と4日。そして多くの宗教家の間にSCP-3519のようなミームの存在が確認されていました。いわゆる便乗ですが、確かに宗教のほとんどは『死後救済』を唱えているわけだから、終末論との相性は良いといえば良いんです。

2019年1月30日、なんとか対抗ミームが完成しようとさせていたら、なんとローマ法王が自殺者に対する教皇特免(いわゆる恩赦)の付与を計画していたことが発覚しました。しかし、実行寸前に財団エージェントによって阻止され、これを受けてプロトコルが二度目の改定。


(前略)

『1.MTF U-4の隊員

2.残りの重要な財団職員

3.一般人口』


O5(財団で一番偉い人たち)とWHO等の主要機関が対抗ミーム接種対象から外されました。それでも一般人口を生きながらえさせようとしているのは、せめてもの矜持でしょうか。しかし、感染者となった世界オカルト連合の野郎が、先ほどの教皇特免を報道陣にリークさせ、世界人口の自殺率が2%にまであがってしまいました。

これに際し、少年犯罪・大量死が多分に起き、公衆衛生や社会にまで影響が及ぼされ始めました。怪我をして病院に行っても医者が死んでるのだったら意味はありません。まあ、怪我人もその内自殺してしまうのですが。

ただ、もう財団職員の1割が自殺してしまいましたし、このままだとSCPが深刻な収容違反を引き起こす可能性もあります。それでもSCP財団は、諦めませんでした。

そしてまたもプロトコルを改訂。


『機動部隊ウプシロン-4(“シュガー・ピル”)に、SCP-3519対抗ミームの継続的な緊急配備任務が割り当てられます。グリーフ・カウンセリングおよび自殺の予防を、全ての生き残っている財団職員が利用できる状態にしなければいけません。』


とうとう一般人口を切り捨て、『財団』として生き残れるように手配をしました。

そうこうしている間にも世界の崩壊は続き、2019年2月19日。


『1000 UTC頃、イスラエルとイランの間で。加えてイスラエルの兵器は幾つかの他の湾岸諸国も標的とした。死者の総計は不明。国連の緊急措置によって世界的核戦争は回避され、GOC関係者は結果を確実にするために異常な強制手段を用いたと伝えられる。』


核戦争をおっぱじめやがりました。GOCがなんとか食い止めたみたいですが、正直世界が終わるって信じてるときにドンパチやっても意味ないと思います。

そして2019年2月20日。


『ワタナベ博士の死に続き、マリレッツ・カーク博士がSCP-3519プロジェクト主任に昇進する。

対抗ミームは一体どこで何をしてるんだ?』


主任だったワタナベ氏が曝露・自殺してしまい、別の博士に変わりましたが、この人も長くはないでしょう。対抗ミームはそろそろ出来上がるはずですが、全くもってメールが来ません。そして、ようやくRAISA(記録情報セキュリティ管理室)から一通のメールが来ました。


『なんでも“”したそうだ。u-4は兵器化版のミームに取り掛かっているはずだが、私たちのメールに返事をよこさない。彼らには急いでもらわないと、適切な媒介メディアが残らなくなってしまう。』


当初、この対抗ミームはSCP-3519の感染媒介である主要メディアを利用して、電波に乗せて拡散することが予定されていましたが、そもそもメディアが全滅しているため不可能であることが今判明するという最悪の事態が発生。

いや、そもそも一番重要な場面でそれが判明するということ自体あり得ません。恐らく機動部隊も曝露したのでしょう。

そして、収容プロトコルはまたしても改訂されました。


『グリーフ・カウンセリングおよび自殺の予防を、全ての生き残っている財団職員が利用できる状態にしなければいけません。自殺用カプセルを要請に応じて利用可能にします。可能であれば、全ての生存しているKeterクラス異常存在の無力化命令が実行に移されます。財団施設は、所属スタッフ数が30%を切った時点で、もしくは施設管理官の裁量で、施設放棄プロトコルに個々に従ってください。』


ついにSCP-3519を収容しようという試みがされなくなり、残りの財団職員にKeterクラスの鎮圧と施設放棄を計画させます。しかもプロトコルの中に自殺の予防と自殺用のカプセルを提供しているので、財団も段々と機能しなくなっているのでしょう。

2019月2月26日。


『世界的メディアの大部分が沈黙している。財団サイトからの報告は矛盾している。エリア-055の職員数名は、自殺遺書でSCP-3519に感染してないと主張し、進行中のK-クラスシナリオを自己実現型の預言だとしている。収容下の知的アノマリーが。SCP-3519割当の者は誰一人、これを確証・否定するクリアランスを持っていない。』


SCPが何匹か自殺し始めたらしく、メディアも報道する人がほとんどいなくなったのか全く機能していません。しかし、これらは噂に過ぎません。逆に言うと、その噂は誰も否定出来ません。人はバタバタと死に、SCPさえ自殺し始めているという事が全く起こっていないと言うには、状況が悪くなりすぎました。

2019年2月28日、マリレッツ博士も自殺してしまい、次席研究員のローリー・ジョーンズ博士がSCP-3519の担当主任に昇進しましたが、それもすぐに変わり、3月1日には、主任になったばかりのジョーンズ博士がO5-6に昇進しました。O5でさえ、もう生きている人はいないんでしょう。


2019年3月4日、Xデー前日。


『サイト-42のデサイ博士とのコンタクトが途絶。他には誰も応答しない。』


もうお分かりでしょう。最初に言ったとおり、SCP。たった一つのSCPに、ここまで翻弄されたのです。もう生き残っている人はローリー・ジョーンズ博士ただ1人。

そして、これが最後の特別収容プロトコル。


『SCP-3519への感受性を有する人物が生き残っていないことから、これ以上の収容は必要とされません。感染は無力化したと見做されます。世界的メディアのかなりの割合が感染を媒介すると思われ、その収容は現時点の財団に可能な域を越えています。しかしながら、感染した記録媒体の ― 全てではないにせよ ― 大部分は更なる伝達が起こる前に劣化してゆくことが予想されます。』

正しい証拠や確認がとれないので、OCはKeterのままですが、SCP-3519は無力化したと言っていいでしょう。

もう、世界に人類は1人を除き誰もいません。


そして、Xデーとされる35日2019年。

タイムラインには何も書かれていません。

Xデーの翌日である2019年3月6日。メッセージは、ただ一言だけ、確認されました。


『いい天気だ。』


SCP-3519は、『2019年3月5日に世界が滅びてしまうから、その前に死んでしまおう』というミーム汚染です。しかし、2019年3月5日を過ぎたら? それはただの誇大妄想に過ぎません。

ローリー・ジョーンズ博士は生き残ったのでしょう。

しかし、今後どうするのでしょうか?

何もかもが、消えた世界で。

生きているかもしれません。

死んでいるかもしれません。

しかし、僕はこう思います。

博士はのでしょう。きっと、―――






          SCP-3519『These静か Quietなる Days日々






―――きっと、『いつの日か起こる』希望を待ち続けながら。



☆余談


ちなみに、このSCPは日本産のJokeオブジェクト、つまりはおふざけオブジェクトもあります。その名も、SCP-3519-JP-J『 (ある意味)静かなる日々』。このオブジェクトは人類みんながねむたくn、ああもうむりてつやつづきなんだもんちょっとねるぐらいならいいよね……zzz……zzz……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お久しぶりです、中嶌です。いやマジで。ていうか年越しちゃいましたね。あけおめことよろ。ましでとしもしく。

何してたんだと言われても困りますけどね。あえて言うならば、まあエンダーマンTT作ったり、ガチアサリX行かせたりですかね。

本編も待ってる方いると思いますが、もうちょっとだけかかります。次はわりかし大事な回だかんな! 見過ごしたらいけないかんな! ……えー、あー、木を削るやつ。それはかーんなっつって●===




『クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス』に従います。

SCP-3519 - These Quiet Days

by sirpudding

scp-wiki.net/scp-3519

ja.scp-wiki.net/scp-3519



SCP-3519-JP-J‐(ある意味)静かなる日々

by roune10121

http://ja.scp-wiki.net/scp-3519-jp-j


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