第14話 のっぺらぼうの能力

 時刻は午後五時。世間では一応定時だとか何とか言われてる時間。


「……でっっ、かい……」


 目の前にそびえる高層ビルを見上げ、ウチは思わず溜め息を漏らした。まさか、月夜野つきよの物産がこんなに大きい会社だったとは……。


「何をボーッとしてるんだ? さっさと行くぞ」


 呆然とするウチに、隣に立つ中年男性が話しかける。白髪混じりの髪にくたびれたスーツ姿。いかにもドラマ辺りでモブやってる冴えない中年、といった感じだ。

 そんな中年男性を、ウチは、キッと睨み付けた。


「正直言ってその変わりよう、気持ち悪いです。白川さん・・・・


 ウチがそう言うと、中年男性――白川さんは、ニヤリと不敵に笑ってみせた。


 白川さんは、『のっぺらぼう』。自分の顔を持たない代わりに、好きな顔を自在に作れる。

 そう話には聞いていた。それだけでも便利そうだなと、初めてキチンと説明された時はぼんやり思った。

 けどまさか、骨格や背丈まで変える事が出来るとは。それもう、完全に反則じゃない?

 正直目の前でゴキゴキと白川さんの体型が変わっていくのは、ちょっとしたホラーだったけど……。改めて白川さんは人間じゃないんだなぁって、そう実感した。


「それにしても、何でその姿なんですか。いつもの似非イケメンでも別にええやないですか」

「こういう大きな企業は、若造は信用しねえんだ。かと言ってこんな小さな案件に、いかにもエリートっぽい奴が来るのも不自然だろ」

「成る程……って口調まで変えられると、本当に白川さんなのか不安になってくるんですけど」

「んっとに文句が多いな。他に誰もいなくなるまで我慢しろ」

「はーい……」


 話をしながら、どちらからともなくウチらは歩き出す。ウチらはこれから、守衛室にお邪魔する事になっている。

 そこで監視カメラを見ながら清掃業者の絵を描いて……。その中に狼男がいれば、すぐに向かって確保しようという算段である。

 ウチとしてはもう帰ってゆっくり寝てしまいたいんだけど、一度引き受けた以上、途中で投げ出すのも何と無く気持ちが悪い。つくづく、白川さんに踊らされてるなぁ、ウチ……。


「ま、全部終わったら、何でも好きなモン奢ってやるよ」

「白川さん、ウチ、目一杯頑張ります!」


 ……訂正。ウチがチョロすぎるだけかも。

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