第3話 商店街のルール
結局ウチは遥の忠告を無視して、商店街を新天地に定める事にした。駅前で幾ら頑張ってももう頭打ちなのは解ってたし、他に目ぼしい場所も思い浮かばなかったからだ。
この駅から少し離れた所にある商店街は、世間で商店街の過疎化が叫ばれる昨今において、なかなか人通りが多い。イベントやキャンペーンを積極的に行い宣伝も大々的なのが、きっと功を奏しているんだと思う。
それにここを訪れるのは買い物客、つまり急いで帰ろうとかしてない人達ばかりだし、人自体は駅前より少ないけどかなり集客も期待出来るんじゃないかと思う。ま、これは希望的観測だけどね。
……大丈夫。だって髪切り魔の狙うのは綺麗な髪の女の子だけだって話だし。ウチのこのボサボサの剛毛じゃ相手にされないよ。……多分。
さて、場所は……と。お店の人の邪魔にならない所にしないとね。
あ、あのシャッター前なんか良さそう。うちはシャッターの降りた店舗の前に座ると、荷物を拡げて開店の準備を始めた。
けれど。
「お嬢ちゃん、ちょっとちょっと」
黙々と設営を進めてると、不意に声をかけられる。手を止めて顔を上げると、エプロン姿に丸眼鏡の人の良さそうなおじさんがウチを見下ろしていた。
「はい、何ですか?」
「君、ここで何しようとしてるの?」
「えっと……似顔絵描きですけど……」
ウチの返事を聞いて、おじさんは困ったように頭を掻いた。そして、申し訳無さそうに言う。
「あのね、お嬢ちゃん。悪いけどうちの商店街にも一応ルールってものがあってね、例え似顔絵描きでも勝手に商売を始められるのは困るんだよ」
「う……」
ドの付く正論に、ぐうの音も出ない。確かに、言われてみたらその通りだよね……。
でも! ウチはここで描く事を簡単に諦めたくない!
「あの、許可ってどうしたら貰えますか!?」
「え? そうだなぁ、商店街の役員会に相談ってとこかなぁ」
「ウチ、どうしてもここで似顔絵描きたいんです! 役員さん達と話をさせて下さい!」
「……うーん……」
必死に食い下がるウチに、おじさんは腕を組んで少し考え込む素振りを見せる。そのまま返事を待っていると、おじさんは小さな笑みを浮かべて言った。
「それじゃあ、試しに私の似顔絵でも描いてくれないかい。お金は支払えないけど……その出来次第で、一緒に役員に掛け合ってあげるよ」
「ホンマですか!?」
自分でも、自分の表情がパアッと明るくなったのが解る。この商店街の公認の似顔絵描きになれれば……もしかしたら、宣伝なんかも手伝って貰えたりするかも!
「ウ、ウチ、頑張ります! やらせて下さい!」
「それじゃあひとまず私の店においで。ここじゃ迷惑になるからね」
「はい!」
おじさんの言葉に従い、ウチは荷物をバッグにしまい直すとおじさんの後についていった。
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