◇186◇浮けないマントを探して

 僕達は、街に着くとそのままマドラーユさんを訪ねた。


 「どうぞ、ちょうど君達を探していたところだったのよ!」


 探していた? 何で?

 僕達は、顔を見合わせた。


 「ねえ、クテュールくん。彼女が持っていたマジックアイテム持ってるよね?」


 「え?」


 もしかしてミサンガの事を言っている?

 そうだった。マドラーユさんもここに住んでいるんだから、成り行きを知っている。ルイユが、僕達が着けているミサンガを作ったと思ったんだ。


 「マントよ! マント!」


 「え? マント?」


 そうだと、うんうんとマドラーユさんは頷く。

 どうやらミサンガではなく、ルイユがマジックアイテムのマントで浮いている様に見せる為につけていたやつの様だ。


 「あぁ、捨てた……」


 「捨てたぁ!? なんで!」


 「なんでって……」


 あるとは言えない。見せる訳にはいかないから。

 一応マジックアイテムだけど、浮ける・・・機能はついてない。それがばれたら大変だ。

 マドラーユさんは、錬金術師だから鑑定とかなくても、ある程度何かわかるかもしれない。


 「はぁ……。何で捨てちゃうかな。浮くアイテム作るのって大変な事なのに」


 マドラーユさんは、大きなため息をついた。


 「そうなんだ。騎士団の馬に使ってるからそうでもないのかと……」


 「何を言っているのよ! あれは、製作されてまだ数年よ。騎士団で囲っている錬金術師達が作ったの。って、あれを作る為に引き抜いたみたいなものね」


 僕が言うと、興奮したようにマドラーユさんは返す。


 「え? じゃ、飛べるのって騎士団だけなの?」


 「当たり前じゃない。偶然に出来るものでもないし、出資してくれるバックがいなければ、出来る訳ないでしょ?」


 そう言うもんなんだ。

 それじゃ、アベガルさんもルイユを追う訳だよ。

 きっと研究には、お金と時間を掛けたに違いない。

 それを個人で行った事になるんだもんね。


 「あぁ、もう! なんで捨てちゃうかな!」


 これ、協力を頼んだら協力してくれるだろうか……。

 さてどうしよう。どうやって切りだそうかな。


 「あの、お願いがあるのですが……」


 悩んでいたらイラーノが言ってくれた。


 「お願いとは?」


 「実は、アベガルさんに俺達追われているんです。今のを聞いてやっと理由がわかりました。ルイユが死んでないと思って追って来ているんだと思うんです」


 「なるほどね~。あれを作れるくらいならマジックアイテムを使って、何か工作したと思っても不思議じゃないわね。で、何を作って欲しいの?」


 「作って欲しいんじゃなくて、クテュールのフリをして欲しいんです」


 イラーノにそう言われたマドラーユさんは、僕を見た。


 「いや、バレると思うけど?」


 「あ、僕が着ているこの外套を着てフードを被って、このリスを抱っこしてイラーノと一緒に歩けば、僕だと思ってくれると思います」


 「で? あなたはどうするの?」


 「少しだけ自由になる時間が欲しいんです。僕は、マドラーユさんに変装してここを出て、また戻ってきます」


 「うーん。そこまでしてどこに行くのかしら? 私にメリットも何もないのだからそれぐらい教えてくれるわよね?」


 「エルフの所です」


 「え!?」


 マドラーユさんは、凄く驚いた。たぶん、彼女もルイユに会いに行くと思っていたに違いない。ルイユは生きていると。


 「何故、そんな所に?」


 「父さんの事を聞きに……。見張られていたら行けないから」


 「いや、無理でしょう。森自体も見張られていると思うけど?」


 そんな事は知っている。

 でも、彼らの所に行かないと、僕達もどこにも行けないのだから。


 「「お願いします!」」


 「わかったわ。その代わりに、イラーノくん。数日ぐらいは、お手伝いしてよね!」


 思ったより簡単に引き受けてくれた。


 「え? ……はい。わかりました。ありがとうございます」


 「ありがとうございます」


 何とかなった!

 僕は、外套をマドラーユさんに渡し、ルイユを渡した。


 「いいなぁ……」


 ボソッとイラーノがぼやく。

 これが作戦でなければ、ルイユは大人しくマドラーユさんの腕の中にはいない。

 イラーノも抱っこしたいのだろう。

 相手は、凄いモンスターなんだけどね。


 「では、行きましょうか。マドラーユさん」


 「もしばれたら、二人で逃避行ね!」


 「え!?」


 「冗談よ。うふふ」


 何か冗談に聞こえないから怖いんですけど。ワザとばらさないでよ。


 《主様、また後で。気を付けて下さいね》


 僕は、小さく頷く。


 二人が出て行った後、僕も用意していた外套を着てフードを被る。

 マドラーユさんが、協力してくれて助かった。

 イラーノに感謝だな。

 僕は、堂々と建物から外へと出た。

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