◇184◇夜更けの訪問
「ねえ、あの渋いおじさんと知り合いなの?」
立ち上がって、去っていくアベガルを見つめつつリゼタが聞いた。
「別に。知っている人って程度」
「え? そうは見えなかったけど? 追いかけて来たんじゃないの?」
ロドリゴさんとの会話を聞いているんだった。
「行った先の街の騎士団の人みたいだよ」
イラーノが答える。
あ、そう言えばさっき、イラーノがお父さんって叫んでいたけどリゼタは気づいていないみたいだ。
見た目も全然違うし、夢中になって見ていたら声なんて聞いてないか。
「ふーん」
「リゼタ、奴には近づくなよ」
「え?」
ロドリゴさんの言葉にリゼタは驚く。
「じゃ、訓練終わり」
僕達は、部屋に戻る事になった。
「ねえ、クテュール。一緒にお昼食べに行こうね」
「……行かない。僕は夕方まで寝るから」
「えー! 勿体ないよ」
「俺も寝ようっと」
「もう! 早起きした意味がないじゃない!」
ぶーぶーとリゼタが文句を言っているが無視だ。
疲れたし凄く眠い。
僕達は、布団に入るとぐっすりだった――。
◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆
夜も更けた頃、二人がフードを深々と被り外灯が少ない薄暗い場所を小走りで走り抜ける。その後ろを二人……もう一人? 合わせて三人がつけて行く。
フードを被った二人は、囮のルイユとイラーノだ。
僕が、キュイの所に行きたいと言うと、イラーノが協力してくれた。
辺りを確認して、反対方向に駆け出す。
外灯が届かない真っ暗な場所でルイユを待つ。
暫くすると二人は、ギルドに戻る予定だ。そして、元の姿に戻ったルイユだけが、僕の元へ来るはず。
しかし、なぜ三人なんだろう?
三人目は、離れていた。別に僕達を監視している人がいるの? それともアベガルさんの方をつけている人がいるのだろうか?
どっちにしてもばれずにキュイの所に行ければ僕はいい。
暫くすると、ルイユがやってきた。
《お待たせしました。行きましょう》
そう言うと、ポンと僕の胸に飛び込んで来る。ルイユを抱きしめると、フワッと浮き上がる。
って、ドンドン上がってるんだけど!
「ちょっと、ルイユ。そこまで浮上する事ないと思うんだけど!」
僕は、小声で抗議する。さすがに怖い。
森の頂上ぐらいの高さまで、浮き上がっている。
街の明かりが綺麗だ。森は、闇に包まれている。
『低く飛んで、見つかったら困るでしょう? それにキュイは、山のてっぺんにいるとか。行きましょう』
確かにそうだけどさ。
これならマントにまたがった方が怖くなかったかもしれない。
『で、どこらへんでしょうか?』
「どこら辺と言われてもなぁ。いつもジーンに連れて行ってもらっていたし……」
わからないんだよね。
「あ、そうだ。寝床の周りには木がなかったよ」
高い場所で、そういう所を探せばって暗くて見えないか。
『あそこのようですね』
そうルイユが呟いた。
ルイユは、僕よりずっと夜目が利くらしい。
暫くすると、キュイの寝床についた。
僕達は、キュイの側に降り立つ。
『よかった。無事だったんだな』
『もう、こないかと思ったわ』
僕が下りると、キュイが嬉しそうに言う。リリンも嬉しそうだ。
「ごめん。見張りがついていて、やっと巻いて来たんだ」
『そうか。ルイユと言ったな。クテュールが世話になった』
『それは、こちらの台詞です。クテュールは、私の主様なので。今回は、ご協力ありがとうございました』
「そうだった! ごめんね。人間と仲良くしたいのに、敵対させる役目をさせちゃって……」
『大丈夫だ。しかし、あの人数の人間に会ったのは久しぶりだった』
昔に、あの人数の人間の相手をしたって事だろうか?
もしそうなら凄いかも。
「あのさ、僕達、エルフがいる場所を回る事になったんだ。だからまた暫くここにはこれないんだ」
『ジーン達を連れて行くか?』
「うーん。その事なんだけど、やっぱり目立つんだよね。行くとしても常時一緒にいるって事は難しいと思うんだ」
『あら私は、あの中でも構わないわよ』
リリンが言っているのは、リュックの事だろう。
「行くところはまた、あの結界がある所だと思うけど……」
『え! そう……。では、ここで待っているわ。戻って来るのでしょ?』
僕は頷く。
あの結界が余程嫌みたいだな。
気を失っていたもんね。やっぱり、ルイユが桁違いって事か。
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