◆123◆モイクナチ街の街並み

 アベガルさんは、スタスタと歩きながら街の中を案内してくれた。


 「街の入り口には、宿屋が多い。値段やサービスはピンキリだ。客はほとんど冒険者。西口で一番安いのがここ、青い鳥。カプセル部屋があって、一人じゃなくて一部屋いくらだから、お金が無い時には大抵お世話になっている者が多い」


 その建物は、五階建ての様で沢山小さな窓がある。


 「ライトを使えるなら更に格安で泊まれる」


 「え? 何で?」


 「窓も照明もない部屋もあるからさ」


 僕が質問をするとそう返って来た。

 なるほど。昼間でも部屋の中は真っ暗なのか。


 「まあ、お前達は、最初ここだろうな」


 後で確認してみよう。


 「街の中心にギルドの建物がある。その途中に武器屋、防具屋、アイテム屋、薬屋などがある。偶然手に入れたアイテムや薬草は、ギルドで引き取っているがお金にしかならないからな」


 「お金にしかとは?」


 イラーノが聞く。


 「経験値にはならないって事だ」


 なるほど。依頼を受けないと経験値は入らないという事か。


 街の入り口から三十分程で街の中心に建てられた冒険者ギルドに辿り着いた。

 たぶん、街の中で一番大きい建物かもしれない。


 って、アベガルさんが言う通りイラーノは凄く目立っていた。皆、振り返る感じ。

 まあ冒険者しかいない様だし、そうなると必然的に男ばかりになる。女に見えるイラーノは、本当に目立つ。


 「はぁ……」


 イラーノのため息が聞こえた。

 一番本人がうんざりだろうね。


 「ここがギルド。入り口はそれぞれ別になっていて、討伐ハンター護衛ガードの間には、解放スペースがあって待ち合わせに使われている。そこは、討伐と護衛と中で繋がっている。騎士団の事務所の入り口は、解放スペース以外の部屋に階段があって、どこからでも上の階に行ける様になっている」


 アベガルさんの話の通りだとするとこの建物は、八角形かも。扉は一面の右端にありちょっとカクンとなっていて、ここから見える壁の四面は同じような感じ。それぞれの扉の上にプレートがあって、討伐とか書いてある。


 道もギルドを中心に太い道があって、ギルドに行くなら迷わないだろう。

 街を囲う塀はどうやら四角になっているようで、住宅街に面した塀の入り口には馬小屋はないらしい。


 「ありがとうございました」


 「えっと、大変助かりました」


 イラーノがお礼を言ったので、僕もお礼を言うと、いいって言ってアベガルさんはニカッと笑った。


 「そうだ。どうせだから救援アイテムをやろう。着いてきな」


 僕達の返事を聞く前にアベガルさんは、一番近い討伐の部屋の扉から中に入って行く。

 タダでくれるようだし、僕達はアベガルさんの後ろについて行った。

 部屋の中は、入ってすぐ左側に上に続く階段があり正面にカウンター、左手の壁や衝立に依頼書が張っていや、ぶら下げてある?

 右側は壁になっていて、カウンター近くに解放スペースに続く扉があった。


 中に入ると冒険者達の注目を浴び、ジロジロとみられた。

 トントントンと軽やかにアベガルさんは、階段を上がる。僕達もそれに続いた。


 「ビギナー連れて来たぞ」


 着くなりアベガルさんが言った。

 事務所は思ったより広かった。たぶん、解放スペースの上の部分だけ部屋として区切られていて、他の場所は椅子とテーブルが置いてあった。

 まあ、中心に柱はあるけどね。


 「おぉ、女の子なのか! 珍しいな!」


 区切られた部屋から出て来た赤髪の騎士団の人が言うと、イラーノは溜息を一つついた。


 「あのさ、後で外套買いに行こう」


 僕が言うと、イラーノは頷く。


 「女に見えるけど男だってさ。取りあえず登録」


 「登録って?」


 「救援アイテムを渡したって登録さ。まあ依頼受けるのと変わらないから。ほらあれに手を通して」


 僕が聞くと、筒の装置を指差してアベガルさんは答えた。

 ノラノラシチ街に置いてあった装置と変わらないのが、部屋の奥に見えた。

 僕達は、部屋に通され左腕を入れる。


 ――クテュール レベル2 ジョブ:剣士 男 備考:裁縫の加護


 「おいおい。レベル2って。よく来たな……」


 赤髪の男が言った。

 しかもなりたてです。


 ――イラーノ レベル3 ジョブ:ヒーラー 男 備考:ライト


 「ほう。ヒーラーだったか」


 感心してアベガルさんが言うも――


 「本当に男だったのか」


 赤髪の男は、性別に驚いていた。


 「あ、悪い。俺は、マドニード。大抵ここにいる。宜しくな。で、これが救援アイテム」


 ムッとしているイラーノを見て謝ると、救援アイテムを僕達にくれた。それは、握れる程小さい玉でオレンジっぽい色をしていて、首から下げるのかチェーンがついている。


 「それは君達に危険が迫った時に知らせるアイテムだ。と言っても体に何かあった時だけどな。毒を受けたとか怪我をして動けないぐらいとか。後は、一分間握ると救援を呼ぶ事が出来る」


 「へえ。凄い」


 イラーノはそう言って、ジッとアイテムを見つめる。

 僕は、さっそく首からさげた。

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