◆115◆上手くいかないもんだ

 「凄い感動だよ!」


 「えっと……」


 「やっぱりこれだよね?」


 何やら言いながら被っていた帽子を取った。それをジッと見て、こっちを嬉しそうに見ている。

 一体何が起きたんだろう?

 僕がここに始めて来た時は、こんなに感動しただろうか?

 空から来たから地上に降りれて安堵した記憶はあるけど……。


 「あ、あのこんにちは」


 突然そう言ってイラーノは、こっちの反応を伺っている様子なんだけど?


 「こんにちは。だって」


 一応、キュイ達に伝えた。


 『こんにちはギャウこの森の獣人達を束ねるキュイと申すギャウギャウギャウギャウ


 僕の時と同じ挨拶をキュイは返した。


 「やっぱり!」


 僕が、通訳をしようとしたらイラーノがそう言った。

 やっぱりって……え!? 言葉がわかった!?


 「言葉がわからない!」


 「は?」


 一体どうしたんだろう。今更何を言ってるの?


 「あのイラーノ……」


 「あ、ごめんごめん。悪いですが今の台詞もう一度お願いします」


 イラーノは、帽子を被るとそう言った。


 「………? え? キュイが言った台詞って事?」


 そうだとイラーノが言うので、キュイに伝える。

 キュイは、頷いて文句も言わずもう一度言う。


 『こんにちは。この森の獣人達を束ねるキュイと申す』


 「ありがとう。森の獣人達を束ねるキュイさん」


 うん? え? もしかして今度こそ聞こえている?


 「この帽子凄いよ! これ被ると、モンスターの言葉がわかるよ!」


 「え~!!」


 え? もしかしてまたレアもの作ちゃったって事?

 あ、だからさっきからイラーノ変だったのか。

 しかし何というか、そういう効果の物も作れちゃうもんなの?

 加護って凄いな。


 「クテュール、ありがとう! まさか、モンスターとお話しできるようになるなんて!」


 「う、嬉しいの?」


 エジンは、モンスターと会話していると嫌そうにしていたけど。


 「だって、いっつも楽しそうに話してるからさ。会話聞きたいと思うでしょう?」


 「怖くないの?」


 「……いや、怖くないわけではないけど。わからないよりはいい」


 「そうなんだ。それならよかったよ。何か知らないけど僕が作ると、レアものになるみたいなんだよね」


 「うーん。レアね。でもこの効果は普通ないと思うけど? 独特だよ。普通は、ステータスを上げるものとかだと思うけど」


 そうなのか。でもこれならジーン達と一緒に居てもイラーノが仲間はずれって事もなくなるね!


 「よかった。ジーン達と話せるなら旅している間、楽しく過ごせるね!」


 「え!? 連れて行く気なの? 無理でしょ?」


 「え……」


 「リリンはまだ、服みたいの着せて誤魔化せてもジーンは無理じゃない? ねぇ、そう思うよね?」


 イラーノは、最後はジーン達に問いかける様に言った。

 言われればそうだ。モンスターを連れて歩く事なんて出来ない。

 一緒に旅が出来ると思ったのに!


 『どうした? 何を言われた?』


 「嘘! 俺の言葉はわからないの!?」


 僕がショックを受けていると、イラーノもなんかショックを受けている。

 どうやら帽子の効力は、モンスターとの会話じゃなくて話を理解出来るようになるだけだったみたい。

 はあ……。うまくいかないもんだね。


 『どうした? クテュール何かあったのか?』


 たぶん僕もイラーノも落ち込んだからだと思うけど、キュイが心配そうに話しかけてくれた。


 「僕、色々あって今いる街をイラーノと一緒に出なくてはいけなくなって。それで、ジーン達と一緒に行こうと思ったんだけど、モンスターを連れて歩けないって気がついて……」


 言っていて悲しくなってきた。

 テイマーになったらここに住もうとか最初思っていたのに。

 イラーノの父親を探すって言っちゃったし、モンスターと一緒に居たいからってずっとここに入れないよね。

 まず食べ物が無い!

 これが一番問題だ。街に行くわけにいかないから……。

 仕方ない。一年後、ここに来よう。そうしよう。

 だからお礼をしてから旅立とう。


 「ジーン。リリン。君達にも何か作るよ。お友達の印!」


 『本当か!?』


 『可愛いのお願いね!』


 「うん! 布と裁縫道具あるから何か作るね!」


 僕は、リュックを下ろした。

 何がいいかな? そうだ。キュイと同じで首に付ける物がいいよね。

 それが一番邪魔にならないし、落とさない。


 「じゃ、俺はその間、ダイドさんからもらった本でも読んでるよ」


 「あ、ごめんね」


 「いやいいよ。俺もあそこ出る予定なかったから全然冒険者の事知らないし。読んで情報仕入れておくよ」


 「うん。宜しく!」


 イラーノもリュックを下ろし、鞄から本を取り出した。

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