◆037◆襲い襲われ――

 バラバラではなく、見える範囲で摘む事になった。

 もう少し、ジーンと一緒に居たかったな。


 《こいつ、どうしたらいい?》


 え? ジーンの声?

 僕は立ち上がり、ジーンを探すが辺りにはいない。って、エジンもいない!


 「ねえ、エジンは?」


 「あれ? どこ行ったんだろう?」


 リゼタも今気が付いたようで辺りを見渡す。

 まさかまた、襲っているんじゃ!?

 僕は、森の奥へ走り出した。


 「ちょっと! クテュール!」


 少し奥に入って行くと、二人が見えた!


 「ジーン!」


 ジーンは、僕の方へ駆け寄った。怪我はしていないみたい。ホッとする。


 「もう、何で襲うのさ!」


 「言ったろ? 眷属だって印つけてないとわからないって!」


 「もうクテュールったらどこへ……。エジン! あなたも……」


 そこまで言って僕の横にいるジーンを見て、リゼタが息をのむ。酷いなぁ。こんなにかわいいのに!


 「ジーン。もう戻って! 嫌な目に遭わせてごめんね」


 大丈夫だと言うように、僕に体を擦りつけると森の奥へ走って行った。

 リゼタは、ホッとした様子だ。リリンの時は、怖がってなかったのに。


 「ぐわぁ!!」


 なんだ?

 突然エジンが叫び、右足をダンダンと踏む。何をしているんだろうと思ったら今度は自分の剣で足を突いた!

 いや正確には、足についた何かを刺していた!


 「何あれ?」


 「小動物?」


 リゼタの問いに僕は首を傾げ答えた。

 エジンの足に何かがくっついていた。たぶんかぶりつているんだと思う。


 「リゼタ助けて……ぐわぁ」


 青ざめた顔でエジンは、リゼタに救いを求める。

 そして、転がり始めた!


 「助けたくてもそんなに暴れたら無理よ!」


 どうやら魔法で助けてとお願いしたみたい。


 ビュー!

 何か風を切る音が聞こえたと思ったら、エジンの右足にかぶりついていた小動物が切り刻まれた!


 「キャー!」


 リゼタが悲鳴を上げる。僕は目を背け、口を押えた。

 気持ち悪い! って、誰が?


 「大丈夫か、エジン」


 見ればナットスさんだ。剣を鞘に納めつつ近づいて来る。

 もしかして彼は、魔剣士なのか?

 今のは風か何かの魔法だ。たぶん。ただの魔法なら普通は、剣は必要ないはず。


 「ナットスさん……」


 リゼタも安堵した。

 イラーノさんが、伝えてくれたんだ。


 「イラーノ。手当てを頼む」


 「はい」


 ぐったりしているエジンに近づき、イラーノさんは癒しを行う。ほんのり足に添えた手が青白く光る。

 攻撃魔法も回復魔法も初めて見た。すごい!


 そういえば、あの小動物はなんだろう? モンスターじゃないよね?

 あ、小動物! そう言えば、トゲムシもどきが好物な小動物がいたはず! 敵だと思えばかぶりつく、見た目と違い狂暴な小動物!

 という事は!?

 僕はエジンの近くの草むらをかき分けると、トゲムシもどきが這っていた!


 「あった!」


 あ、でもどうやって切ろう?


 「何どうしたの?」


 「いやこれが、トゲムシもどきなんだけど、僕ナイフ持ってなくて……」


 「持ってないって……」


 呆れたようにリゼタが言う。

 仕方がないじゃないか! 唯一のナイフをエジンのせいで無くしたんだから!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る