◇004◇キュイとの出会い

 漆黒の鳥は、エジンがいなくなるとまた、羽ばたき始めた。


 『しかし、背中に人間が落ちてくるとはな。さてどうしたものか』


 そっか! 僕は崖から落ちた時、このモンスターの背中の上に落ちて助かったんだ!

 って、まさか本当に運命を与えられたの?


 「あの。ありがとう」


 『目が覚めたか……って、何!? 我々の言葉が話せるのか!』


 「うん? あれ?」


 このモンスターが、僕達人間の言葉を話しているんじゃないの?


 「えーと。僕は普通に人間の言葉を話していると思うんだけど……」


 『……そうか。取りあえず、根城に案内しよう』


 え!? 根城!? な、なんで?

 もしかして仲間だと思ったとか? それともみんなでボコる為とか……。

 どっちにしても、僕は素直に行くしかないけど。

 今すぐに殺す気がないのだけはわかる。あるなら落とせばいいだけだから。


 森の頂上まで漆黒の鳥は飛んでいく。

 レッドアイの森は、僕が住んでいる村から一番近い街まである大きな森だ!

 その森のど真ん中は木があまりなく、代わりに地面には大きな鳥の巣のように枝がいっぱい敷き詰めてあった。


 その上に漆黒の鳥は降り、僕が地面に降りやすいようにべたっとお腹を地面につけてくれる。

 僕は掴まりながら、地面に降りた。


 「ありがとう」


 ふう。やっぱり地面の上が一番かも。

 僕は辺りを見渡した。

 この鳥のモンスター以外はいない様子だ。

 ここ一面だけ木がなく、枝だと思っていたものは、枝だけじゃなく大木もあった!


 『私は、この森の獣人達モンスターを束ねるキュイと申す』


 「あ、ご丁寧にどうも。えっと、僕はクテュール。レッド村出身です」


 モンスターと自己紹介をしあうなんて、何とも不思議な感じだ。

 でもこのモンスター、悪いモンスターではないみたい。たぶん……。


 『で? 何故あんな崖から飛び降りた?』


 「………」


 飛び降りたというか、落とされたと言う方が正解。


 『まあ、よかろう。誰かに送らせるから村に帰るがよい。もう森に来るなよ』


 「え?! 何もしないで帰してくれるの?」


 『何もとは?』


 「いや、だって。その、モンスターですよね? 何故僕を助けるんですか?」


 そう質問をすると、キュイは赤い瞳を大きく開いた!


 『やはりそう思っているのか。我々は、襲われない限り襲いはしない。少なくともこの森の獣人ものはな。命の危険がある時にだけと言ってある』


 驚く回答をキュイはした!

 僕は、モンスターは恐ろしいもので、人間を惨殺すると聞いていた。父さんもその餌食になったと思っていた。

 でも目の前にいるキュイからは、全くそんな感じはない。僕よりずっと大きいと言うのに。


 僕を殺そうとしたのはエジンだ。人間だ!

 このまま帰って、僕は大丈夫だろうか?

 そう思うと帰りたくなかった……。

 戻るよりここに居る方が、安全だと思ってしまった!


 「僕をここに置いてくれない?」


 だから僕は、そう聞いた。

 キュイの瞳は、また大きく見開かれた。

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