◇002◇稽古と言う名の……

 それにしてもどこで稽古をするつもりなのだろう。てっきり広場でするもんだと思っていたのに、村を出て何故か森に向かっている。


 「どこ行くの? 一日ぐらい稽古したって剣士になれないと思うけど……」


 「いいから黙ってついて来いよ」


 はぁ……。

 僕は大きなため息をしつつ、言われた通りついて行く。

 そして、驚く事にエジンは、レッドアイの森の中に入って行こうとする。ここは、モンスターがいる森だ。

 いや、結界が張っていない場所にはモンスターはいるんだけど、森などはモンスターの住処になっている。

 僕達が住んでいる小さな村でも、ちゃんと結界が張ってある。


 「ちょっと! まさかモンスターで実践とか言わないよね?」


 「言わないからついて来い。いい場所があるんだ」


 「えー……」


 やっぱり嫌だな。引き返そうと思ったら、またガシッと腕を掴まれた。

 そして無言で引っ張って行く。


 「ちょっと離してよ!」


 万が一、森の奥で置いていかれたら、生きて帰れないかもしれない。

 エジンが何を考えているのか、僕にはさっぱりわからない。

 どんどん森が深くなり、気味が悪くなった。

 怖い!

 そんな中を平然とエジンは突き進む。


 「ま、眩しい……」


 と、突然開けた場所に出た!

 そこは崖だ!

 森から出たら地面も岩。


 「まさかここで稽古するつもり?」


 「死ぬ気でやらないと、強くならないだろう?」


 「はぁ?! 死ぬ気でやったって、一日で強くなるわけないだろう!」


 僕は、冗談じゃないと森に戻ろうとすると、ドンっと胸を押され尻餅をついた。


 「何するんだよ!」


 「だから稽古だって!」


 そう言って剣を抜いたエジンの目には、何故か憎悪を見てとれた。

 僕何かした? 何で怒ってるの?

 って、これやばくない?


 震えながら立ち上がった僕は、チラッと後ろを振り返った。

 崖が見える。多分、崖の下は川が流れていると思う。ザーと川の音が聞こえるから。それに、向こう岸も見える。近くに橋など見当たらない。

 どうやらエジンの隙をついて、森の中に逃げるしかないみたい……。


 「行くぞ!」


 「え! ちょっと!」


 彼は、剣士としてギルドに登録されている者だ!

 本来なら一般人に剣を向けてはならない。だって、これ絶対稽古じゃないし!


 「うわぁ!!」


 僕は振り下ろされた剣をなんとか交わす。マジ斬られるかと思った!


 「ちょっと! 僕を殺す気?!」


 それには答えず、今度は剣を横に振って来た!

 交わす為、僕は後ろに飛びのいた。だけど、片足が地面につかない!


 「え!? うわぁ……!」


 風景がエジンから空へと変わって行く!

 僕はどうやら背中から崖を落ちたみたい!

 エジンが僕を呼ぶ声すら聞こえない……。どうやら本気で僕を殺すつもりだったようだ。

 何でどうして? わけがわからない!

 こんな死に方ってない!

 僕が今、ここで死んだら母さんはどうなるんだ!

 嫌だ死にたくない!! 誰か助けて――!!

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