第75話:話



 あれから一人きりの時間を過ごしたライツが部屋から出て来た。

 廊下にはハリアスの姿。

「さっきはすまない。時間をくれたおかげで冷静になれた」

「いえ」

「・・・・・・昨日会ったばかりで、すぐに恋人同士になれるなんて思っていた俺が馬鹿だった。俺はマナについて知らないことばかりだし、同じようにマナは俺のことを知らない。恋人になるにはそれなりの段階を踏まないとな。・・・・・・だろう?」

 自嘲するライツの笑みが、話の途中から徐々に取り除かれ最後には消えていた。

 ハリアスが安心した微笑を浮かべ「ええ」と頷いた。


 ライツは愛那と二人きりで話があると言って、ハリアスに彼女を呼び出してもらった。

 部屋で若い男女が二人きりというのはまずいので、邸を出て庭へと誘う。

「マナ」

「はいっ!」

 隣に並んで歩いているだけなのに、愛那の様子が変だ。

 ライツは顔が赤い愛那を不思議そうに見る。

 ぎくしゃくとした歩きもおかしい。

 だがライツはすぐに(ああ、)と思い出した。

(好きな男と、声がそっくりだからか)

 ライツの淋しげな表情はすぐに真剣なものへと切り替えられた。

「俺は明日、ルザハーツ領へ帰る」

 歩みを止めた二人が向かい合って見つめ合う。

「俺と一緒に来て欲しい」

「・・・・・・はい」

 素直にこくり頷く愛那に(可愛いな)と思いライツが笑みをこぼす。

「ありがとう。・・・・・・明日出発する前に、マナにはたくさん知っていてもらいたいことがあるんだ」

「・・・・・・この世界のことですか?」

「そうだ」

 頷くライツを見て愛那も頷く。

「私も知りたいと思っていました」

「そうか」

 ライツが愛那を促して歩き出す。

「この先に落ち着いて話せる場所がある。そこへ行こう」



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