第73話:その理由



 ライツの背中を見送った二人が顔を見合わす。

「えっと、俺、何かまずいこと言いましたか?」

 おずおずとモランがそう訊ねたが、ハリアスは真面目な顔で逆に訊ね返す。

「先程の話は本当なのか?」

「先程の?」

「マナ様に好きな相手がいて、その声がライツ様とそっくりだという話だ」

「それは、はい。マナさまが可愛らしく顔を赤くしてそうおっしゃっていましたから」

「・・・・・・そうか。モラン、そのことはもう口に出すな」

「えっ?」

「マナ様は元いた世界に帰れない。帰す術がないんだ。こちらの世界の都合で無理矢理召還しておきながらそれが出来ない。元の世界に好きな相手がいたのならなおさら、慎重に彼女の心に気を配らなければならないだろう」

「は、はい」

(・・・・・・そうか。マナさまが悲しんでいる様子を見せないから深く考えなかった。マナさまは二度とその好きな人とは会えないのか)

「ライツ様はマナ様に、救世主としてのお立場を押しつけるような真似はしないというご意向だ。俺達は余計な口出しせず、静かにお二人を見守ることにしよう」


 愛那とナチェルが移動したのは、昨日愛那が着替えに使用した部屋だった。 

「マナ様、どうかお聞かせ下さい」

 その部屋の椅子に座った愛那の前で、片膝をついたナチェルが愛那の顔を見上げている。

「先程、姿を消したのはどうしてですか?」

「ええっ!?」

(それ! 言わなきゃいけませんか? 私がライツ様のことが好きだってこと? 恥ずかしいんですけど!!)

 口に出していないその言葉を正確に読み取ったのか、ナチェルが「では、質問を変えます」と言った。

「マナ様は、ライツ様の声にそっくりだというその男性と、どういう関係だったのですか?」

「えっ?」

(え、ええっ? どういう関係?)

「ファン?」

「ふぁん?」

 意味がわからないという顔でそう返された愛那が頭を悩ます。

「えっと、何て言ったらいいのかな?」

(彼は声優さんで・・・・・・とか、この世界の人に説明するのは時間がかかりそう)

「マナ様がお付き合いしている相手、または婚約者とかではないのですね?」

 ここで愛那はとんでもない誤解をされていることに気付き、慌てて否定する。

「! ち、違う! 違いますよ! 実際に会ったことない方ですし! それに、桂木様には愛する奥様と二人のお子様がいらっしゃるんです!」

「・・・・・・そうですか。では、マナ様」

「は、はい?」

「私はマナ様の様子を見ていて、マナ様が何故姿を消されたのか、その理由を考えました。・・・・・・そして、おそらくそうではないかという答えを導き出しました」

 跪いたままナチェルが愛那へと手を伸ばし、ギュッとその手を握った。

「マナ様。マナ様はライツ様に恋をしているのではないですか?」

「!」



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