第4話:王太子は御立腹です



 サージェルタ王国の王太子、レディル・フォル・サージェルタは、金髪碧眼の18歳である。

 彼は約一年前に、アレンジア公爵家の令嬢、銀髪碧眼の19歳、ルーシェ・アレンジアと婚約していた。

 彼女は幼き頃から王太子妃候補として教育されてきた淑女であり、レディルの長年の思い人であった。

(ライツとの決闘で勝利し、ようやく彼女と婚約することが出来たというのに!)

 レディルが奥歯を噛みしめる。

「この国一番の【強き者】確かにそれは私であろう!」

 高らかなレディルの声が神殿に響き渡る。

「だが! 何だ! そのふざけた【運命の恋人】というのは! 冗談じゃない! 私にはルーシェが、愛する婚約者がいるのだぞ!? 婚約破棄など、絶対にしないからな!」

 そんな王太子へと神官長が声を高らかに主張する。

「神託でございます! 神のお言葉にございます。レディル様、どうか召喚されし御方と共に力を合わせ、この国をお救い下さい!!」

 それをきっかけに、この場にいる神官達全員が神官長の後方に集まり、王太子へと跪いた。

「レディル殿下! どうか国をお救い下さい!」

「お願いでございます! どうか!」

「王太子殿下!」

「くっ・・・・・・」

 神官達の懇願に怯みながら、負けじと王太子が「嫌だ!」と言い放つ。

「王太子である私自らが魔物討伐にだと!? ふざけるのも大概にしろ! 第一! 見てみろ! あんな女、顔も容姿も何もかも! 私の婚約者であるルーシェの足下にも及ばないではないか! あれが将来の王妃だと!? あり得ないだろう! 絶対に認めない! 私は絶対にルーシェと結婚するんだ! 神に逆らってもこれだけは絶対に譲らないからな!」

「王太子殿下! 何ということを!? 神のご意向! ご神託でございますぞ!」

「何と罰当たりな!」

「レディル様! 我が儘も大概になさいませ!」

「黙れ! 絶対に嫌だ!」

「レディル、ご神託だ。諦めろ」

「父上!? 絶対に嫌です!」


 とんだ騒動になった中、一人一言も言葉を発することなく、その場にいたはずの少女が姿をそっと消したことに、誰も気づくことはなかった。



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