第二部 未だ幸福だった日々

第22話 一か月後



 あれから、一か月がたった。

 印象的な出来事が起こったけれど、俺達の日常は変わらない。

 変わる事なんて、どこにもない。

 朝起きて、町の皆を守るためにやるべき事をやるだけだ。


 いつものようにキャロに叩き起こされた俺は、見回りの為に外に出る。

 そういえば、壁にはえたニンジンそろそろ収穫しないとな。

 この間根元を見たら、かなり深く刺さっているのが分かった。

 量がありそうだったから、近所の人達におすそ分けしてもいいかもしれない。


 町を出ると、ただでさえ静かだった朝の時間が一層静かになる。

 野鳥なんかは、ちょうど目が覚めた頃合いみたいで、鳥のさえずりが控えめに聞こえて来た。


「皆さんは、もっとこういう穏やかな時間を大事にすればいいのに」


 いつもの待ち合わせ場所に行くと、淡いスカイブルーの髪が特徴的な少女が出迎えた。


「よう、朝早くからずいぶんと景気が悪そうな顔してるな」

「眠気を引きずっている貴方ほどではありません」


 半目になってこちらを睨むのは、クオン・ライトリューザー。

 彼女は今は、利害の一致で見回りの時に力を貸してもらっている関係だ。


 一応仲間とも言えなくないが、あまり好印象は持たれていないようなので、扱いづらいのが特徴だった。


 であった頃よりは打ち解けたキャロが、クオンに向けて挨拶をする。


「クオン、おはよう。いつも早いわね」

「当然です。自分の居場所は自分の努力で掴みとるが信条ですから。そこの怠けもののように、信じられない命令違反を繰り返して正規組織から追い出されかける様な、頓珍漢な事はしません」


 あんまりな言いざまに少しむっとしてしまう。


「その、信じられないような命令違反の一つで助けたのがお前だろ。感謝してほしいとまでは言わないけど、もうちょっとその敵意引っ込められないのか?」


 同僚達には言っていないが、あれからひと悶着あったのだ。

 上の人間を説得するために、かなり無茶をした。


 しかしクオンは、そんな事は気にしていないと言う顔だ。


「敵意をひっこめる? 無理です。オルタライズがオルタライズであるかぎり」


 俺の存在を、全否定だった。


 ………キャロとは仲良くなれてるのに、なんで俺にはなれてくれないんだよ。


 とげとげしすぎるいつものやりとりを終えた後、三人で町の外を歩いていく。


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