目覚まし時計の喪失への応援コメント
比喩表現の引き出しの多さに驚かされました。
主人公の見る世界はとても賑やかで、一人暮らしの家の中に極彩色の世界が詰め込まれているようでした。主人公の腰ではロックフェスが開かれており、腹では雨に打たれるバケツの音が響き、血管ではコレステロールが嫌がらせを企てています。台所には小さな南極に汚れ物のサーカス、風呂では支配者ヅラの黒カビども…。
賑やかな分、時折我に返るように射しこまれる暗い描写には辛いものがあります。
主人公が「かつての相棒」と向き合った途端、賑やかだった音が遠ざかって時計の音だけが残る。時計の音がするだけに無音が一層引き立つ気がします。
賑やかな昼と静かな夜との落差が、主人公の孤独と狂気を見事に表していました。内面へと侵食する孤独の形を見せていただきました…。
作者からの返信
ふづき詩織様。
読んでくださり、こんなにも沢山のコメントをありがとうございます!
ずっとテンポ重視の短編を書いており、語彙と描写に難があると指摘を受けておりました。
なんとかしたいと思った矢先に、今回の高難易度企画。
私のイメージする純文学を、比喩表現の嵐を、これでもかとぶつけてみました。
企画主様のしっかりとした設定の上で、参加者それぞれが孤独な男を描く。非常に良い企画ですよね。
昼と夜の落差、時計の音だけが響く空間。
賑やかな場所のすぐ側に空いている闇を、主人公の孤独と狂気を感じて頂き、とても嬉しいです。
どうもありがとうございました。
目覚まし時計の喪失への応援コメント
私は、純文学、というものが分かりませんので、コメントは差し控えるべきかと思ったのですが、「気に入った描写を紹介するくらいいいだろう」と思ったのでそういった形でのコメントをさせて頂きます。
『ちゃぶ台に置かれた辛子タワーの全長を更新する』
タワーの全長を更新ってのがいいですね。積もり積もっていくそれを前向きというか自嘲的に表現している。
『シベリアから流れてきたかのようなシチュー』
シベリア、の一言でここまで伝わるのか。と驚きました。
『喪服はタンスの肥やしになればいい。やがて芽を出し、白い着物にでも生まれ変わるがいい。』
自分が先に死ねたら僥倖というのを、鮮やかに表現。これはぞくっとしました。
『中から漏れ出る光が外にはみ出ていくだけだ。』
光がはみ出るという表現が素敵です。よくある表現なら「零れる」ですが、それを「はみ出る」とすることで、家の中の暖かそうで柔らかな光を表現。また、周りが明るいところにさらに強い日が当たるのではなく、闇の中だから確認できる程度の薄弱な光とも取れますね。素晴らしい。あと「はみ出る」という表現は余分なものが出るという感じにも捉えられるので、自分一人を照らすにはあまりに過剰な光でとても孤独だという表現とも取れます。いやホント素晴らしい。これは秋雨千尋さんの感覚が活きた描写ですね。
『あんこを入れ忘れた饅頭のように。』
ぽんと想像できますね。そしてははっと笑ってしまう。これだけではないですが、比喩に茶目っ気があるんですよね。このおじいさん、きっと奥さんがいらしたときは、奥さんをずっと笑わせていたんじゃあないかな。そう思います。
『のんびり浸かり、腰の機嫌をとる。明日はフェスは休みだ。いいな。オフらしく買い物にでも行ってくるといい。』
腰の機嫌をとるっていう表現も好きですし、「買い物」っていうのもいいですね。だって買い物ってことは、多分夜には帰ってくるでしょうから、またお風呂に浸かってオフしてきた腰をいたわってあげるんでしょうから。それに今日散歩に行けなった分、おじいさんは明日出かけたいはず。その気持ちが「買い物」に表れているのかなあ。なんて思いました。
『空っぽの部分を見つけて、失くしてしまう。気付きさえしなければ永遠に続いていくのに。』
これは描写というか、内面の語りですが、この作品のテーマですよね。
この人は本当にギリギリで不幸な人だったと思います。気付かなければ良かったし、気付いてもそれが修正の効く頃なら空っぽを埋めるために頑張れたわけですから。多分気付くタイミングが最悪だった。空っぽを埋め始めるには遅く、まあいいかと開き直るには早く、もう無理だけどどうしよう、どうすればいいんだという取り留めもない自問自答を延々死ぬまで繰り返す。
果たしてそんな罪なことでしょうか。気付くタイミングが悪いっていうのは。
本来これって罰を与えられるほどの悪じゃあないのにそれなのにどうしてか人ってのはそのタイミングの悪さみたいなもので物凄く悪いことをした人間なんかよりもずーっとずーっと苦しみ藻掻き続けることが運命づけられたりもするんですよね。
なんかこう、「え、俺ってそんなに悪いことした? 凄く苦しいんだけど。助けてほしいけど、誰にも助けてもらえない。今更誰にも言えないし」という内面が、見えてきました。
結局感想言っちゃいました。
作者からの返信
詩一様。
熱きコメントをありがとうございます!
純文学は初挑戦で、かつヨム方もあまり経験が無く、これで良いのか自問しながら書きました。
描写を沢山気に入って頂けて嬉しさ爆発です。
それも、どんな点がいいかを詳しく書いて頂けて、脳内を「僥倖!」コールが鳴り響きました。
辛子タワーの自嘲に気づいて頂けて嬉しいです。亡き奥様が辛党で二つ分食べていてくれた、という描写は省きました。
喪服を白装束にする流れは自分でも気に入っています。奥様の葬儀で着たそれは、もう見たくもないだろうなと。
「はみ出る」に関しては、情景をイメージした際に、はみ出てるなと思ったのでこう書きましたが、詩一さんがとてもステキな解釈をしてくださったので、それでお願いします。
一人分を照らすには強すぎる光。そうですね、だからはみ出てるように感じたのですね。
腰在住のロックバンドに買い物に行かせたいのは、自分が出かけたいから、確かに仰る通りです。さすが名推理ですね。
タイミングが悪かっただけでずっと苦しみ続ける。本当に辛く、理不尽な話だと思います。
この方は元々ひょうきんな性格でしたが、奥様と些細な言い争いをした事により会話が無くなった。
それでも心は繋がっているはず。
自分から話しかけさえすれば元どおりになれると思いこみ、修復不可能な関係に気づかないフリをしていた。そして、そのまま永遠に離れ離れになってしまった。
というイメージでした。
詩一さんの嘆きの台詞が胸にきます。
大罪は犯していないのに、凄く苦しく、救いを求める事も出来ない。
最悪なタイミングを何とか避けて通りたいですね。
沢山の応援メッセージを大変ありがとうございました。