第二章 ―迷宮都市編―

王都へ

「あぁー、暇だなぁー」


「またそれか。いい加減聞き飽きたぞ」


 ユースケが暇だとぼやく。

 この台詞を聞くのも、もう何度目か。


「ご主人様、一緒に走る?」


「そうだぞ。ユースケもたまには走ったらどうだ? 体力をつけるのは大事だぞ?」


 おれとユースケとフェミリアは、西方都市ラースを旅立って、王都を目指して商人の馬車に揺られていた。


「走らねーよ! なんで馬車があるのにわざわざ走らないといけねーんだよ」


「おれは先日のゴブリンキングとの戦いで、己の未熟さを知ったからな。鍛えられる時には鍛えるようにしているんだ」


「体動かすの、好き」


 おれとフェミリアはこの旅の間、たまに馬車から降りて、馬車と並走している。

 おれは修行のつもりだったんだが、フェミリアは単に体を動かすのが好きだったようだ。

 さすが獣人族だな。


「おれは魔術師だから体力は必要ないし、運動も好きじゃないからいいの」


「魔術師でも体力はあった方がいいだろう? いざという時動けないんじゃ困るぞ」


「ご主人様、不健康」


「だあああぁーーー!!! いいったらいいの!! おれは馬車から降りないからな!!」


 おれ達がちょっとした言い争いをしていると、不意に御者をしている商人が声をかけてきた。


「皆さん、見えてきましたよ! あれが王都ラストアラーゼです!」


 商人の言葉におれは目を凝らしてみる。

 すると、遠目から見ても分かるような大きな城を中心に街が広がっていた。


 街を囲う外壁も、三つあるのが分かる。

 王都と呼ばれるだけあって、相当な規模の街のようだ。


「へぇー、ラストアラーゼっていうのか」


「なんだユースケ、知らなかったのか? 王都にいたんだろ?」


「王都にいたって言っても、すぐ飛び出してきたからなぁ」


「そういえばそうだったな。ラストアラーゼってのは、古い言葉でラストアの都って意味らしいぞ」


 幼い頃読んだ、親父殿の書斎にある本にそう書いてあった。


「アル、頭いい。ご主人様、お馬鹿」


「おいおいフェミリア馬鹿はないだろ馬鹿は!」


「無知……」


「ぐっ、言い返せない……」


 ユースケがフェミリアに言い負かされている。

 まぁ、だが、ユースケは最近この世界に召喚されたんだし仕方ないだろう。


 そう。

 ユースケはこの世界の人間ではない。


 地球という別の世界から、王家が使用した勇者召喚魔術に巻き込まれて転移してきた転生者だ。


 そんなユースケとパーティを組むおれも転生者なのだが。

 おれの場合、別の名の別の人生を送った、別の世界の人物の記憶と意識を引き継いで生まれた、正真正銘の転生者だ。

 今世では剣士も兼ねているが、前世では生粋の魔法使いで、不死になろうとして魔法を発動させたらこの世界に転生していた。


 そんなおれとユースケだが、共に冒険者として活動している時に出会い、ひょんな事から臨時のパーティを組んだのだが、そこから紆余曲折うよきょくせつあって、今でもパーティを組み続けている。

 協力して格上の敵と戦った事もあり、今ではお互い信頼し合う仲だ。


 まぁ、そんな親しき仲だが、他にも、おれはユースケに大金を貸しているので行動を共にしているという裏事情もあるのだが。


 さて、最後にユースケの奴隷のフェミリアを紹介しよう。


 褐色の肌を持つ猫の獣人の美少女、フェミリア。

 彼女こそユースケがおれから金を借りる事になった理由だ。


 オークションに出品されていたのをユースケが落札し、一度は奴隷から解放して自由になったのだが、人間の社会の中で獣人が生きていく事は難しい。

 そんな訳で、いつか故郷の近くで解放する事を条件に、ユースケの奴隷を演じているというのが実情だ。


 建前上ユースケの奴隷という事で、おれらと行動を共にしている。


 そんなおれ達だが、王都に向かう理由は、王都を経由して北の迷宮都市コサイムに行くためだ。


 今までは西の都ラースで冒険者として活動してきたが、ランクも上がり、ラースでは物足りなくなってしまった。

 そこで、迷宮があるコサイムを目指しているという訳だ。


「そろそろ着くな」


 ユースケの声に、顔を上げてみると、王都は目前まで迫っていた。


 さぁ、新しい街だ。

 それもこの国で一番栄えた街だ。


 おれは、柄にもなく少し興奮していた。

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