奴隷

「さぁ、大いにご期待のお客様もおられますようなので、さっそく商品紹介に参りたいと思います!」


 司会者がこちらの方を見ながら声を張り上げる。

 あーあ、どうすんだよユースケ。

 あんだけ騒いでおいて、落札に参加出来ないんだから相当恥ずかしいぞこりゃ。


「商品ナンバー二十九! なんと、南の辺境都市ドリトン付近で捕獲された獣人族の女奴隷です!! 歳は十七歳! このとおり目下美しい娘です! しかも、獣人族なので訓練を施せば護衛にも最適です! 猫の獣人なので夜目も効きます! さぁ、そんな獣人奴隷ですが、最低落札単位は大金貨一枚で、まずは三枚からスタートです!!」


「五枚!」


「七枚!」


「十枚!!」


「十五枚!!」


 オークションがスタートして、次々に客から落札額更新の声があがる。

 まぁ、珍しい獣人の、それも美しい女奴隷だから当然だろう。


 獣人族はこの国、ラストア王国の南の未開地に住んでいる。

 未開の地は南の辺境都市ドリトンと接しており、そこには獣人族だけではなく、森人族と呼ばれる長寿の種族もいるそうだ。


 そういった、人間ではない知性ある人型の種族は、亜人と呼ばれている。

 そして、亜人はこの国では人間扱いされない。


 だから亜人たちは、人間に見つからないように隠れ住むが、年に数人、まぬけな亜人が辺境都市ドリトン辺りで捕獲される。

 捕獲された亜人はこうして奴隷として売りに出される訳だ。


 人間の奴隷に飽きている金持ち連中は、是が非でも亜人の奴隷を手に入れようとする。

 それが一種のステータスだからだ。


 そうして金額は跳ね上がる。

 今の落札価格は大金貨三十枚のようだ。

 まだまだ吊り上がっていくだろう。


「なぁ、アル……」


「ん? なんだユースケ?」


「おれ、さっきあの娘と目があってさ……」


「あぁ、さっき大声上げてた時だな」


「うん。それで思っちゃったんだ……」


「なにを……?」


「この娘はおれに助けを求めてるって……」


「そうか……」


 実際のとこどうなのかは分からない。

 だがまぁ、人がどう感じようがその人の自由だ。

 ユースケがそう感じたんなら、そうだったのだろう。


「それでさ、アル……」


 ん?

 なんだか嫌な予感がするぞ。


「悪いんだけど、金貸してくんない……?」


「は……?」


「いや、ほんと申し訳ないんだけど、全然金が足りなくてさ。アルはアイテムバック出品したから大金入ってくるだろ? それを貸してくれないかなーなんて……。」


 なにを言ってるんだこいつは。

 あの奴隷がいくらすると思っている。

 いくらアイテムバッグが高値で売れたとしても、あの獣人だって安くはないんだぞ?

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