旅立ち

 昨日、おれは十五歳になった。

 十歳になってからの剣の修業は、五歳から十歳までの修業がお遊びに思えるくらいの過酷さだった。


 なんど死にかけたか……。

 母様から光属性の中級魔術治癒ヒールを習っていなかったら本当に死んでいたかもしれない。


 おれの適正である光属性は中級まで覚えた。

 光属性は攻撃魔術が少なく、回復系ばかりだが便利だ。

 体力を消費する魔法じゃ、自分はなかなか癒せないからな。魔術様様だ。


 そして頼み込んだところ、なんだかんだ他の属性の魔術は一通り、初級の基礎であるボール系まで教えてもらえた。

 射出速度が遅く、あまり使い物にはならなそうだが。


 最近はすっかり治癒ヒール以外の魔法や魔術は使っていない。

 といってもこの世界に転生してからは確認の為にしか魔法は使っていなかったが。


 なんだか転生してから若い体に引っ張られたという事もあるだろうが、あまりに過酷な修行で前世と比べて精神が変異している気がする。

 む、気づかないうちにおれも脳筋になってるのかもしれないな。注意しないと。

 まぁ、強い者が偉いというのは確かな理だがな。ハハハ。


 今ではおれも立派な剣士だ。

 いや、この世界では中級以上の攻撃魔術を使用する剣士は魔剣士と呼ばれているから、魔法を使えるおれも魔剣士といっていいだろう。

 もちろん過酷な修行をしてきたかいあって、身体強化はもちろん、魔力を飛ばすスラッシュや、魔術を斬り裂くことだってできる。


 親父殿からも免許皆伝を貰った。

 まぁ、お前は才能がないんだからこれからも毎日欠かさず修行を続けるようにとお小言も貰ったが。


 さて、おれはこれから旅に出る。

 家族にもその事は伝えている。

 貴族家に生まれたが、特にしがらみもない。

 おれは予備の次男で兄貴はもうとっくに成人している。

 兄貴は領地に残って家臣団に入らないかと言ってくれたが、丁重にお断りさせてもらった。

 なぜならそれはおれの目的に反するからだ。

 おれは国を造る。

 魔法や魔術の研究を思う存分やれるような、自分の為の国を造る。


 その為には金と知名度、土地やコネが必要だ。

 それをどうするかと言えば、おれは冒険者になろうと思っている。


 この世界には冒険者ギルドなるものがあるらしく、そこで依頼を受けてランクが上がっていくと貰える金額は大きく、そして知名度があがるらしい。

 だからおれはひとまず冒険者ランクの最上位、一等級冒険者を目指そうと思う。


 冒険者になるには冒険者ギルドで登録する必要があるが、我がフォングラウス男爵領は小さく、冒険者ギルドがない。

 だからひとまず最寄りの都市、ラースに行こうと思っている。

 ラースへは親父殿が馬車と御者を貸してくれるので片道二日で行ける。


 さて、別れの挨拶も済ませたし、金貨三枚と少なくない路銀も貰った。

 ひと月、ふた月はこれでやっていけるだろう。

 さぁ、冒険の始まりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る