第22話 帰国

紗奈恵たちがニューヨークへ来た翌年の4月に僕は2年半のニューヨーク勤務を終えて帰国することになった。


幸い向こうのベンチャーと共同開発していたものが新規医薬品になる可能性が高いことが分かったので、今度は日本の製薬会社とも共同開発をすることになった。それで帰国後はその調整のために本社の研究開発部に勤務することになった。


僕は帰国すると本社着任の挨拶状をこれまで世話になった会社の関係者などに送った。中学校のクラス同窓会の幹事の石田君にも出しておいた。それから紗奈恵にも出すことを忘れなかった。


今住んでいるところは大岡山の駅前の1LDKの賃貸マンションだ。ここからなら横浜研究所へも新橋の本社へも通勤が可能だ。


◆◆◆

帰国してほぼ1か月が経っていた。丁度中学校の同窓会が5月下旬の土曜日に3年ぶりに開かれるとの案内状が届いた。幹事の石田君が僕が帰国したことを知って出席の締切期限がすでに過ぎていたにもかかわらず案内状を送ってくれた。


せっかくだから、出席することにして、実家へもそれに合わせて帰国後初めて帰省することを知らせておいた。


実家へは智恵と別れて以来ずっと足が遠のいていた。両親からとやかく言われるのがいやだったからだ。ニューヨーク赴任中は1度も帰国しなかった。本社や研究所での打合せを兼ねて一時帰国することもできたが、そういう気持ちにはなれなかった。


◆◆◆

同窓会の前日の夜遅く実家に着くと、母親がすぐにそばに来て、どのようにして暮らしているか聞いてきた。


一人暮らしだけど何不自由なく暮らしていると答えておいた。でも母から、もう智恵と別れてから4年近く経っているし、そろそろ再婚を考えてもいいのではないかと言われた。


それと智恵が再婚したことを教えてくれた。仲人をしてくれた山村さんから聞いたそうだ。半年前に幼馴染の同級生と再婚したという。相手の人は初婚で一旦は断ったそうだが、相手の人がどうしてもいうので承知したそうだ。


彼女が再婚したと聞いて内心ほっとした。心のどこかにいつも残っていた重石が取り除かれたような気がした。今度は幸せになってほしい、心からそう思った。だから、母は僕にも再婚を考えてほしいと言ったのだと思う。


「お前もバツイチだからそう条件のよい人は見つからないかもしれないけど、いつまでもこのままという訳にもいかないだろう」


お見合いを始めるときにも聞いたような話だ。友人にもいい人がいたら紹介してもらえるように頼んでいるとのことだった。


「今はその気になれない。その気になったら、自分で見つけるから余計なお世話はいらないから」


そう言ったのは、智恵との見合い結婚も親の言う通りにしたから、あんなことになってしまったのかもしれないという思いもあった。

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