第60話思い出作り2
父が毎朝訪ねてくるようになった。8時に朝ごはんと昼ごはんと夕食まで拵えてマンションに来る。まるで娘に仕える母のようだ。父にはかえでのことは話した。
「会社の登記は済ませたけど次は?」
窓際に布団を立て掛けてかえではもたれている。病院に行った日より元気にはなっている。父がかえでに登記を見せている。
「雑誌社の口座の変更を頼みます」
この会社はかえでになっていて取締役に私が入っている。通帳も父が私の銀行で作ったようだ。口座には何と祖母の遺産も入れて5千万ほど入っている。
「あまりパソコンをしないように」
と私が銀行に出かける。父は10時半まで側で手伝いをしているようだ。
夜は父は来ない。私が戻ってくる頃にはかえでは壁に凭れて寝ている。体力がなくなったのだ。私は戻ってくるとかえでの横に座って缶ビールを手に食事をとる。それからパソコンを開く。かえでが昼の間かなりの絵を描いている。ほとんど私の書いていた過去の小説の挿絵が出来上がっている。
「ひろし君」
「目を覚ました?」
「お父さんね、初めて昔の話したよ」
「昔?」
「お父さん、中国にいた話は聞いたことない?」
「聞いたことはないな」
「結婚するまで中国にいたそうよ。親の危篤で戻ってきて家を継がされたそうよ。中国に奥さんと娘がいたって。私が生きている間にお父さんを中国に行かせてあげて。お金は通帳から出して」
「ああ」
答えた時にはもう眠っている。
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