ぬか床

冴えない老人をタクシーに乗せた。大きなかめを大事そうに抱いている。


「なんですか?そのかめ」


「ぬか床ですよ。」


「へえ〜随分育てましたね。なんでぬか床を持ち歩いてるんです?」


老人は悲しげに笑う。


「……妻が、首になりましてね……家を出ていかないと行けなくなったんですが、これだけは手放せなくって……」


「はああ、それは大変でしたね……」


「いえいえ、私が悪いんですよ……妻の言うことも聞かずに……私が悪いんです……」


老人はまた悲しげに笑った。

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