第540話 アカネvs

 《ステージ 鬼石坊主地獄》


 岩の下にドロドロとした灰色のマグマが流れている中、私はステージを駆け巡る。


 「ほらほら!逃げるだけか?奴隷なら奴隷らしく死ねと言ったらすぐ死ね!」


 白い天使の羽をつけ黒い嘴、足と手には鋭い爪を生やした化物……奴隷商『女神の翼』の大マスターが私の相手だ。


 「はぁぁ!」


 攻撃を避けてジャンプし、《稲妻ハンマー》で大マスターを下に叩き落とす。


 「ぐっ!」


 咄嗟に受け身を取られたのか私の一撃は岩を破壊するまでは至らなかった。


 「やりますねぇ、34番……メソメソしていたあの時とは大違いだ」


 「アナタこそ、上から私たちを見て楽しんでる鬼畜野郎じゃなかったんですね」


 もう他でも戦闘が始まってる。

 相手をしていてそんなに強くはないから早く倒してみんなの所に行かないと!


 「鬼畜?そう思いますか?」


 「私はリュウトさんに拾われて他の奴隷商を見てきました、その中にも奴隷との間に信頼関係がある所があります、その方法もあったはずです」


 「それで?」


 「どうしてあんな事をしたんです!あんな……ひどい方法」


 「お前は何を見てきたんだ?34番」


 「だから__」


 「その奴隷はお前みたいに親が居なかったか?世の中に絶望していたか?頭が悪かったか?」


 「それは……」


 「お前が見てきたのは仕事として奴隷になった者たちだ、貴様達みたいに後は飢餓して死ぬだけの奴とは違うんですよ世界が!」


 「人攫いを使ったアナタが言う事ですか!」


 私は怒り、ハンマーを振るう。


 「人攫いを使うのもちゃんと注文している!お前は世の中から捨てられた存在なんだよ!」


 「くっ!」


 違う!私は!


 「親に捨てられ!世界に捨てられた!後は死ぬしかない自殺するしかない命を使って何が悪いと言うのです!甘えすぎなんですよ!」


 「なに、がっ!」


 「自殺するしかないのにその勇気もなく生きて!焼印を入れられる時は一丁前に痛がって泣いている、その時思いませんでしたか?悪いのは私たちをこんな目に合わせている人達だと!」


 「!」


 「思いましたよね!甘いんですよお前達は!その僅かな生きる気力さえ無くすのがあのカリキュラム!」


 「アナタは!人の命を何だと思ってるんですか!」


 「その言葉を言って良いのはお前みたいに一度命を自ら放棄した者ではない!」


 「私は!」


 言うことは正しい。

 親に捨てられ、商品になり、新しい育て親にひどい事をされ、結局捕まり奴隷になった頃には命などいらないと思っていた。


 だけど!生きていたら!


 「リュウトさんに会えた!!!!」


 「っ!」


 「生きていたら良いことがあるって、私が証明したんです!」


 「それは偶然だ!そもそもお前がアオイ様と同じ部屋でなければ!」


 「偶然でも結果です!そうです!元を辿れば私は妹ちゃんに人生を変えてもらった!そのお返しに今の妹ちゃんの中にいる女神を倒します!」


 私と大マスターの激しい攻防が続き周りの岩は破壊され、灰色のマグマがそこら中から吹き出す。


 「お前如きがあの方の前に行けると思っているのか!」


 「行くんです!私は!妹ちゃんのお姉ちゃんだから!」


 「理屈になってませんね、死になさい!34番!『ブラックヴォルケーノ』!」


 「死にません!もう!私の……アカネという獣人の命は!1人のものじゃないから!【紫電稲槌】!」


 大マスターの魔法と私の魔法がぶつかり合い大きな爆発を起こす……今だ!


 「はぁぁぁぁ!」


 「なに!?」


 私はダメージを気にせず爆発の中に突っ込み大マスターを捉えた!


 「これで終わりです!【ハンマーダウン】!」


 雷を帯びたハンマーを振り下ろし大マスターを下のマグマに落とす。


 「…………」


 先程までの戦闘音は無くなりポコポコとマグマが鳴るだけだ。

 

 やったか?____そう思ったが


 「がぁぁぁあ!」


 「っ!」


 全身が溶け出している大マスターが出てきた!


 「しつこいですよ!もう一度……っ!」


 もう一度叩きつけようとしたがハンマーが持ち上がらない!?

 どうして!


 「っ!これは!」


 ハンマーが重いんじゃない、私は腕の上がらない様に“ツボを針で突かれた”のだ!


 そして____この攻撃は私はよく知っている。




 「まさか!」




 「ごめんねっ、アカネっ……」


 


 気がついた瞬間私は仲間____家族の『みや』さんに蹴飛ばされていた……







 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る