第101話 ジュンパクVS黒騎士!


 漆黒のドラゴンをモチーフにしたフルフェイスの装備は、まるで深淵から生まれたかのような黒い鎧に身を包んでいて、その頭部はドラゴンの顔を模したヘルメットで覆われており、赤い炎のような目が光り輝き、頭頂部には、全身には漆黒の鱗が装甲として配置されていて、立っているだけで周囲に恐怖と畏敬の念を与えている。


 「誰だ!」


 「……」


 漆黒の騎士は答えずに周りを見渡しアオイの檻を確認した。


 「こんなヒョロヒョロな奴、やっちま__」


 無謀にも下っ端の1人が斬りかかろうとするが、行動を起こす前に喉に黒い短剣が刺さり、彼の命は断たれた。


 「よくも仲間をやりやがったな!ゴラァ!」


 それを皮切りに全員が襲いかかる。


 ジュンパク1人を除いて……


 「な……なんだ、あれ」


 ジュンパクには見えていた、下っぱが喉元を突き刺さった瞬間、黒い剣の刀身が赤く光り身体から“何か”を吸収していたのを。


 「武器の能力?でも……」


 ジュンパクは黒騎士の短剣を見て一般的な魔物の素材を使った武器とは根本的に何かが違ってるように見えていた。



 まるで、自分の武器の様な____



 黒騎士は1人、また1人と仲間を殺していく。



 「(今は見ろ、仲間の命を犠牲にしてでも、あいつの癖を……弱点を考えないと!)」


 数の多さなら圧倒的……だが!


 一人が攻撃しようとすると、その前に倒されてしまい、複数が一斉に襲いかかると、一人を突き刺し絶命させ、その死体を盾にして次の攻撃を受け、そのまま飛び宙を舞っている間に、敵の頭を突き刺し、着地点を予測してそこに動いていた敵はうまく踏み台にされ、また一人一人確実に殺されていく……


 華麗。


 ジュンパクの頭にはその言葉が出てきた、だが見惚れている場合じゃない、次に殺されるのは自分だ、そう思い、意地でも頭のなかで分析した。


………………………………………………………



…………………………………



…………………


 ものの数十分__たったそれだけの時間で何年も共にした仲間が全員、横たわっている。


 この船で一緒に過ごし喧嘩もしたが仲直りもし、自分を船長と慕ってくれた奴ら……最後にミーの所に助けを求めて来ようとした仲間も此方に来る前に目の前で殺された。


 「すごいね、お兄ちゃん?お姉ちゃん?解らないけど、ミーの所に来なかったのはなんでかな?」


 「……」


 「答えないんだ?それとも喋れないのかな?」


 武器を構えるとあちらも構えてくる……


 「あの魔皮紙……これだったんだね、ババア」


 檻を見なくても解る、きっと今、自分はかなり馬鹿にされた笑みで見られてるだろう。


 くそっ、人に任せっぱなしの女神め……自分の力で檻を出ようとしないのか能無し!


 「……」


 やめておこう、ミーが気付けなかったのが敗因だ。


 「とりあえず、来ないなら、ミーから行くね!【限界突破】!」


 出し惜しみは出来ない!相手は自分より格上____ここだ!


 鎌を持ち一瞬で踏み込む、そして手始めに首に鎌を__


 「……」


 「っ!!」


 届かなかった……黒騎士は一瞬で屈んで避けミーを下から斬り裂こうとしたので慌てて鎌を衝突させ、その反動で後ろへ飛ぶ。


 「残念当たらな__っ!」


 

 黒騎士はすぐにその場から飛んで空中で回し蹴りを入れてきた!

 


 「っく、あぁ!ゲホッ」



 凄まじい力に吹き飛ばされ背中から強い衝撃が何度も何度もくる。

 きっと自分が起点となって木を何本も折りながら飛ばされてるのが想像できる。

 


 「はぁ……ひゅ……はぁ……ゲホゲホ」



 吐血し自分の飛んで来た一直線上に黒騎士は悠々と立っている。


 だけどね!


 「足元がお留守だよ!」


 そう、ミーの武器は“鎖鎌”!


 鎖が黒騎士の足を絡みとる!


 「!」


 「こんなに飛ばしてくれてありがとう!さぁこっちへ来い!」


 鎖の魔法を発動させると黒騎士はさっきとは違い無様に足をとられながら鎖に引っ張られてくるのが見えた!


 「拘束してやる!」


 周りの木、石、そこら中にクモの巣の様に鎖を張り巡らせる。


 「く、あぁ!これだからグリードの魔法は使い勝手が悪い!」


 身体の内部がひび割れる感触……【限界突破】のリミットが近いのだろう。


 だけど!


 「捕えた!ミーの勝利だ!」


 黒騎士は身体中に鎖が絡み、拘束に成功した。


 「......」


 「君の敗因はその慢心だね、よほど腕とその武器に自信があるんだろうけどミーの武器も特別性でね、そんじょそこらに売ってる様な武器じゃ無いんだよ」


 「……」


 「それに伊達にミーはキャプテンじゃない……キャプテンなら船員全員かかってきても勝てるくらい強く無くちゃ行けないからね!君の殺した船員達より何十倍も強かったのがびっくりしたでしょ?」


 「……」


 「最後くらい声聞きたかったなぁ」


 動けない黒騎士に鎌を降り下ろ__




 ザクッ__





 ……え?





 「ぬ、な!?!?!」


 振り上げられた右手には黒騎士の持っていた黒い短剣が刺さっていた!


 黒い短剣が赤く光りミーの魔力と____


 「く、これは!」


 吸われて解る……これは……“魂”が抜かれている!!


 「くっそ!この!」


 とっさに短剣を引き抜いたが、握力がなくなり鎖鎌を落としてしまった。


 「しま__」


 「弱点が、何といった?」


 「!?」


 鎖鎌を手離した事で拘束が解けたのを黒騎士は見逃さず一瞬で抜けてきた。


 「う、うれしいね、話してくれるんだ」


 「今のは見事だった、俺に攻撃を当てるなんて対したものだ」


 「そりゃぁ、ありがとう……それにその声、お兄ちゃんなんだね」


 “男”……それが解れば充分だ!


 ミーの最後の魔力を絞りだし__


 「『チャーム』!」


 「…………」


 これでコイツはミーを攻撃する事が出来ない!卑怯と言われようが此方は海賊なんでね!!


 「それが最後の足掻きか?」


 「!?」


 そんな!『チャーム』が効かない?


 「俺を『魅了』したければ、もっと自分を磨くんだな」


 「あ、ぁ……」


 「ふん、限界突破が切れたか」


 全身の力が抜け前のめりに倒れる。

 頭の上で黒騎士が剣を振り上げた気配を感じる。


 う、うそだ!ミーが……ミーが殺される!


 怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!


 こうならない様に今まで考えに考えて生きてきた!生き抜いてきた!だけど全力を尽くしても目の前の敵に勝てなかった!殺される!



 



 今まで何人も殺してきた身で言うのはおかしいのは解ってるが最後の最後に出てきた言葉は__



 「誰か……誰か助けて……」




 精一杯の助けを呼ぶ声、きっとそんなに大きな声では無いだろう。


 だが残されたのはこれしか無かった。






 ブンッと剣が振り下ろされる音が聞こえ____










 __ガキンッ!






 と鈍い音が頭上で聞こえた!



 ま、まだ……生きている?という事は!

 




 「だ、だれ!」































 「……通りすがり」
























 


 ミーの問いに応えたのは静かな男の人の声だった。









 そして、続けて聴こえてくる小さな女の子の声。






 「ヒロユキさん!大丈夫ですか!」









 あぁ……助かっ……た。




 

 

 

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