第16話 勇者ヒロユキ!

 《数時間後》


 「……迷った」


 人混みを避けながら宿の場所を探し回ったが結局それっぽいのが解らずフラフラとクインズタウン内を歩いている。


 こう言うとき、兄さんなら……


 昔、一緒に兄さんと旅行行ったときに予約したホテルの場所が分からず、俺は動揺してスマホとかで調べたが複雑でどう行けばいいか迷っていた。


 しかし、兄さんは歩いてる人に声をかけてヒントを得て、どうにか目的地にたどり着いたのだ……人に話しかけるのは苦手だがスマホなど無い今、その方法を使うしかない。


 「……すいません」 


 「あら?なにかねぇ?」


 此方を向かれた時、その女性の異様な空気を感じ取ったが、ここで引くのも失礼だと思うのでそのまま話を続ける。


 「……宿を探してるのですが、無くて」


 「つまり迷子かねぇ?」


 そう言うと彼女はまるで俺を値打ちする様に下から上まで見てきた……いや、実際に俺がそう見えてるだけで違うのだろうか……自分から他人に話しかけた事など無いので解らない。


 「……はい」


 「素直なのは良いことだねぇ、宿ならそこの角を曲がって真っ直ぐ行くと魔法学校が見えて来るからその正門の近くだねぇ」


 「……ありがとうございます」


 「いえいえ、それと……今夜は気をつけるんだねぇ」


 「……?」


 それだけ言うと彼女は此方に背を向けて人混みに消えていった。


 とりあえず、言われた通りの道を辿ると


 「……ここか」


 ベッドのマークが書いてある看板を見つけた。

 どうやらさっきの人はちゃんと教えてくれてたみたいだ……変な空気を感じたのは気のせいだろう。


 「いらっしゃーい」


 中にはシワがでてきたくらいの太ってるおばさんがいた。

 

 「……これで」


 先程貰ったばかりのカードを出すとおばさんは目を見開いてカードの裏を確認したり本物かどうか確かめる様に何か機械に通したりした。


 「本物……みたいだね、初めてみたよ、どの部屋にする?解らないならこっちで適当に決めるけど」


 「……どこでもいい、任せる」

 

 「あいよ、じゃ、これを持ってそこのエレベーターに乗りな、期間はとりあえず2ヶ月とったが出る時はいつでも出てていいからね」


 おばさんは顔を少しニヤケさせながら何かの紙を渡して来る。


 「……これは?」


 「おや?あんた【フローラ花】の魔皮紙を使った事ないのかい?」


 「……フローラ花?」


 魔皮紙というのは城を出る時に説明を受けている。

 魔物素材を特殊な技術で加工して布みたいな紙にした後、そこに魔力を通すと様々な物に変わったり能力を使えるらしい。


 フローラ花と言うのはおそらく魔物だろうがそれから作り出された魔皮紙がどうなるかは知らない。

 

 「……ない」


 「あそこのドアの前に立ちな」


 そう言われ指さされた場所まで行くと木のドアは緑になって数々の蔦に形を変えてカーテンのように開いた。


 「……擬態か」


 しかし、開かれた中には何も無く、ただ天井がみえないくらい高いだけの小さな部屋だ。


 「それを部屋の真ん中に置いて魔力を通しな、そしたら分かるさ」


 おばさんはそれだけ言うと後ろを振り向き元のカウンターに戻っていき、先程までのカーテンも閉められた。


 「……」


 言われた通りに部屋の真ん中に置き魔力を通した……すると____


 「……おぉ」


 魔皮紙は形を変えていき足元にはピンクの大きな平べったい花が現れ俺を乗せて上へ移動を開始した。


 「……なるほど」


 恐らく階数ごとによって魔皮紙を別けているのだろう。

 俺を乗せた花はどんどん上へ上へ行き____


 「……着いたか」


 花が止まって蔦のカーテンのドアが開いた。


 「……広すぎる」


 部屋は広く、1人で使うと言うより団体で使うような作りになっている……でかいキッチンやカウンターもあり、その奥には長いソファとテーブル……ガラスばりの壁の向こうには大きなプールも見えた。

 

 「……今度は狭い部屋にしよう」


 これだけ広くても落ち着かないだけだ。


 「……喉が渇いたな」


 とりあえず宿が決まった事で安心感からか、今まで無視していた食欲や喉が渇いた感覚が来る。


 「……」


 キッチンにあるハンドルのない蛇口に魔力を通してコップに水を注いで飲み干し、冷蔵庫の中を見るが……


 「……なんだこれ……」


 入ってたのは数々の生肉の塊。

 …………料理するのだるいな。


 「……」


 だがよくよく考えると普通のビジネスホテルでも食べ物を冷蔵庫に入れてる方がかなりレアなケースだ。

 後で下のお店で何か食べに行くか……


 「……」


 寝室を見つけ4個ある大きなベッドの一つに横になる。


 「……さて、これからどうするか……」



 腹ごしらえをした後、やる事は山積みだ。

 城の知識も最低限の生きていく知識しか教えてくれてない気がする……


 「……とりあえず、図書館とかあればいいが……」


 何をするにもこの世界の常識などを知るために情報が必要だ……


 「……眠い」


 よくよく考えたら馬車の中でも寝ていなかったし、眠気が考えてる途中で一気に襲って来た……


 まぁ…………お金の心配はしなくていいから……急ぐ事……ない……な__






 ______ジリリリリ!


 





 「……!?」


 ウトウトしてたら大きなベルの音が鳴って身体が起きる。


 「……これか」


 音の正体は壁にかけられた黒い顔の様な電話機だった。


 「……確かデルビル電話機って名前だったはず」


 前に兄さんがアニメを見て言ってたな……あぁ、兄さん、会いたい。


 使い方が解らなかったが電話機の横に付いていたベルみたいなものを取ると顔がしゃべりだした。


 「もしもし?あんたの仲間って人が来てるけど?」


 「……仲間?」


 そんな奴居な____


 「……いや、1人居たな、そう言ってここに来そうな奴が」


 リュウト……やっぱり来たか。


 どうやって知ったんだ?


 まぁ良い、俺よりこの町を探索していたリュウトの話も少し聞こう、幸い部屋は2人居ても持て余すくらい広いしな。


 「どうすんだい?」


 「……呼んでくれ」


 「あいよ、ちなみに一人分追加でアンタのカードから料金とっとくよ」


 「……抜け目がない」





 


 ____だが、エレベーターから来たのはリュウトでは無く。






 「は、初めましてヒロユキさん」






 ボロボロでみすぼらしい布の服を着て木の杖を持った……

 中学生くらいの黒髪の女の子だった。


 「……誰?」






 「私の名前はユキって言います!グリード城の使いで来ました!これからお世話しま……お世話になります!」





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