闘う者たち
音澤 煙管
第1話 『 地球の戦後 』
宇宙の真っ暗な世界に一つだけ、
ここは水もある綺麗な惑星がある。
その美しさとは裏腹に終末の世界の中、ある一人の男が叫んだ。
"やったぁー、お前たち。
これで暗黒人間社会も終わりだぁー!"
男の名は、林 圭吾。
田舎町の獣医師で動物病院を営んでいる。
毎日のように色々な動物を診療する生活をしていたからこそ、その人間の醜さや愚かさ、素晴らしさも考えるようになった一人間だ。
読書として歴史書を愛読していたのがきっかけで一人の人間としてこの地球と人間の歴史を色々調べているうちに、ある事へ辿り着いたのだった。
圭吾は言う、
"首の後ろに埋め込まれた超小型ハードディスクからメモリカードを取り出した後、わたしは声を荒げて叫んだ。噂通り何も起こらない、自爆も無ければ無事に生きて居る。
世界各国の政府や、国連の陰謀だったと実感した時だ。
周りの連中も違和感に気付き、それまでのプログラムされた感情とは別のものを感じ、同士たちと暫し話し合っていた。人間によって汚染されたこの地球を、正しい道へ歩ませようと機械の力で無理矢理管理しようとしていた失敗の時代だったことがわかった瞬間になる。
今、間違った時代が終わろうとしていた。人も人らしく生きられる時がやっと訪れた。
確かに、全て管理されトラブルも支障もなく争い事も無い世の中で生活が出来れば人間本来の幸せというものへ導かれる事だろう。
しかし、このやり方は酷すぎたし我々人間の生まれながら誰でも持てる人権と言う権利が侵害されていた。手を抜いたか面倒なのか、国連へ集まる代表者たちは、撤回する事をなかなか首を縦に振らなかった。それには過去の苦い経験からとは歴史の授業で学んだから承知しているが。
この星の歴史は暗く醜い。
それは、今から200年前の昔にこの地球で、世界的大規模な戦争が起こった。過去にも何度か理由を付け各国で争っていたが、それまでとは違い人類滅亡、地球破壊に通じる凄まじい戦争だったらしい。
ある土地では、国が滅び人種も幾つか絶滅している。国自体の地形すら変わっている場所もある。この戦争のおかげで、世界人口数は戦前の五分の一まで減った。
発端は、先進国による貿易戦争と言われているが実際にはその裏で、黒幕組織が居て内輪揉めをし、それまでの条約外の闇取引や株や為替の闇操作をバラすというケンカだったらしい。ほぼ、半分は解明されているが教材には "〜らしい" とだけ記され明確ではなかった。これには各国首脳らも暗黙していた事だったので誰も硬い口を開く事なく戦争の道を選択していった、収拾のつかない無期限戦争へと進んでいったようだ。
戦争も半ば頃、何度か各国の代表を招集し議会を開き話し合いで終結しようと各国も躍起になっていたが、ある先進国の世界シェアでもある有名なエレクトロテクノロジーを製品化し世に送り出している老舗の大手メーカーの代表が世界的統一計画という論文をこの議会へ提出したのが転機となった。
『人類を管理下に置く』
それは、大規模なプロジェクトだった。
反対の者も多数居たが、世界平和奪還と人々の暮らしを考えると右へ倣えの空気で承認決議で可決された。それに伴い、提案したメーカー以外の必要な企業にも声がかけられ研究チームを発足した。それまでの近代化のテクノロジーを集結し寝る間も惜しんで研究に研究を重ねやっと完成したのだった。
手はじめに、発案メーカーの社員がモルモットとされ順調にいったかと思われたが、少しのストレスでもこの機械に反応し、拒絶反応が起き自滅の道を行き何人か犠牲となって死亡、それまで至る前にプログラムが原因で癌を発症し生き絶えた者も居た。
争わない事を前提としたプログラムは、自己消滅と同じだと立証され、犠牲者たちの死を無駄にせず、その後も研究を続けていった。世界大規模戦争終結の数ヶ月前、ついに完成した。各国では、代表者が法として謳いこの、人間用超小型ハードディスクの埋め込みを人々に命じ逆らう者は監獄行きとなった。暫し対立が続きデモにまで発展するが、平和を祈る宗教団体も協力して全世界の人間を管理下に収める。各国代表者にも同じように機器を埋め込んだ、プログラムの主導権はメーカーの代表者に委ねられた。
研究では、この地球の歴史と人間としての理想の生き方、文明の進化、男女間の違いと差別化しないプログラム、少ない残された自然の中での人間同士の調和、世界各国の宗教を唱えた教典等、極小さなハードディスクを埋め込みメモリカードへ転送したものを挿入していった。基本的な人間思想もプログラムされたので拒絶反応を示す者は誰一人居なかった……プロジェクトは大成功を収め、やがて終戦を迎えた。
それから数年、混乱も争い事もないまま自然再生化と平行して平和の日々が続いたが、人間は一つだけミスを犯してしまった。
ペットして人間に飼われていた動物と自然界の動物たちはそのままの状態だったのだ。
戦争前後も、一部のペットへのマイクロチップの埋め込みを推進していたメーカーは、人間へのハードディスク埋め込み事業ばかり優先して、動物たちは放ったらかし状態だった。そのお陰で、残された動物たちは変わってゆく人間社会を本来の変わらぬ本能で気が付き、目覚め、人間と同様の知能と語学能力を自ら自然と学び得てしまった。
世界的大規模戦争で人間同士の戦争は終結したが、今度は動物たちと人間の戦争が始まってしまった。それまでの自らの繁栄と人間が動物にしてきた行いの歴史も同時に受け継いで生きてきた動物たちの反逆戦争だ。
生きる事と子孫繁栄を主とした本能を持っている動物たちは、頭は柔軟で賢かった。
人間のように、心理的や気分的に犯す過ちも無いし有るのは本能と直感、そして自然と自由に学ぶ事の知能を人間以上に習得した。
人間にはわからない、知ろうとはしない地球を救う規模のありのままの平和だ。
動物たちは、人間とそれなりの知能に達すると外部へ動きやすい者を伝達係として決めた、それは飼い猫たちだ。
季節問わず、夜になると散歩へ出かけるフリをして話し合う場所でリーダーを決めた。伝達のリーダーは野良猫たちだ、本国以外の動物へも話し合いが出来るように全国の動物園へ行く。まだ、このことを知らない思考が途上している動物たちの学習と説得と説明に毎夜何度も出かけた。後に一年も経たないうちに、原野で暮らす残り少ない野生の動物たちへも伝わり計画を進める、対人間への反逆戦争の準備が整った。訓練してきた動物たちは、見かけは四足歩行の者だが人間と同じように二足歩行も可能になってゆく、こうなると人間より素早くとても比では無い。
動物たちは人間とは違い、戦争の目的はあくまでも動物全体の自然社会の見直しと生きる権利を奪回させる事だった。勿論、戦争には兵器や武器も要るが同じ命あるものへ無駄な殺生はしないという自然動物界の約束があったからだった。本能と直感だけとは言うものの、人間が概念として昔から野蛮そうに思えていた動物たちは人間のそれとは違い、生きることと他の命の事全てには人間以上の愛情ある生き物だった。
これには、わたしも気が付いて居た……
獣医をやっていれば、身近に居る動物の動きや異変には直観で理解した。
世界の動物たちが戦争へ動き始める数週間前に、ある野良猫が車と接触して治療のために訪れた。
「あのおー……お話しても良いですか?」
「あ!?……ん、んー……」
初めはわたしも驚いた、猫が人間の言葉を発している。歴史的にも、わたしの獣医師としての経歴を考えても奇跡としか思えなかったが、そこは獣医師の心得で何でも動物の事を受け入れる準備は出来て居たので話の続きをした。
「んー……じゃあ、何からお話しようか?」
「はい。見ての通りの野良猫ですが、動物たちは今人間に反逆戦争を挑もうとしています……驚きましたか?」
「んー……あり得ない話でも無いかな?続けてどうぞ?」
「はい。ぼくは、動物たちの中で選ばれた伝達者です。今、対人間への戦略を伝えて居る途中で事故に遭い幸いにもここへ連れてこられました。動物たちは、あなたたち人間の世界的大規模戦争の最中に目醒め、世界の同じ動物たちとこの地球の平和、それとぼくたち動物の生きる権利を奪った人間から取り戻そうとすべく立ち上がろうとして居ます。たぶん、先生からは反対意見が出そうですが、絶滅危惧種を増やしている人間にはもうたくさんなのです!」
「うん、それは人間であるわたしも思って居た事だ、すまん。でも、わたしがこうして君へ謝ったところで許してもらえることでは無いし、止める事も出来ないだろうな、これもこの地球の歴史の一つと言う事だな。君たち動物たちの心情や性質は理解しているつもりだから、わたしは止めないし、人間に何を言われようが君たちに協力するつもりでいる。だから、手伝う事が有れば何でも言ってくれ。この動物病院は24時間救急用で開けておけるから暫くここで治療して治ったあかつきには、また情報を伝えてくるなり支持してくれないかな、ん?特に取引する必要も無いが、君たちとわたしたち人間との局面を感じているからな。」
わたしは冷静に野良猫と話した。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます