暗闇に、二つの影があった。

 ジジ、という蝋燭の煙る音と共に、ゆらりと小さな火が動く。


「そろそろ、終わらせる必要が出てきたかもしれん」

「まさか……露見したのですか……?」


 幾分若い――否、幼いといっても過言ではない声が、語尾を持ち上げ訊ねた。


「いや、まだだ。まだ、本来の目的は見えてはいまいよ」


 すっと引き締まった頬が、不愉快そうに歪んだ。眉の間には皺が刻まれ、瞳の奧は苛立ちに満ちた色に染め上がっている。


「だが、途中まで嗅ぎ付けた」

「どなたが?」

「――直鷹なおたかだ。普段から立場も弁えず、乳兄弟の悪童わっぱと一緒にあちらこちらにフラフラと出歩くような粗忽者だが、でも、油断は出来ん」

「直鷹どの……」

「準備はどうなってる?」

「それはすでに進めてはおりますが……。次回は、当初の予定通りここです」


 手持ち用の燭台へと火を灯すと、コツリと音をたてて板間へと置いた。そして、すっと懐から蝙蝠扇かわほりおうぎを取り出し、床に広げていた地図の一点を指し示す。


「……使われてないのか」

「場所が場所ですし。半月ほど前に私も確認のため二、三度足を運びましたが、近隣に住まう者もなく、すでに使われなくなってから数十年と聞きました」

「そうか……」


 言葉少なく問う男の声に、予めわかっていた答え合わせをするかのように幼い声が返された。男は、その返事に漸く落ち着いたのか、溜め息のような吐息と共に言の葉を零す。


「では、来月だな」

「そう、ですね……」


 二人の呟きは、闇の中に溶けていった。

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