肆
暗闇に、二つの影があった。
ジジ、という蝋燭の煙る音と共に、ゆらりと小さな火が動く。
「そろそろ、終わらせる必要が出てきたかもしれん」
「まさか……露見したのですか……?」
幾分若い――否、幼いといっても過言ではない声が、語尾を持ち上げ訊ねた。
「いや、まだだ。まだ、本来の目的は見えてはいまいよ」
すっと引き締まった頬が、不愉快そうに歪んだ。眉の間には皺が刻まれ、瞳の奧は苛立ちに満ちた色に染め上がっている。
「だが、途中まで嗅ぎ付けた」
「どなたが?」
「――
「直鷹どの……」
「準備はどうなってる?」
「それはすでに進めてはおりますが……。次回は、当初の予定通りここです」
手持ち用の燭台へと火を灯すと、コツリと音をたてて板間へと置いた。そして、すっと懐から
「……使われてないのか」
「場所が場所ですし。半月ほど前に私も確認のため二、三度足を運びましたが、近隣に住まう者もなく、すでに使われなくなってから数十年と聞きました」
「そうか……」
言葉少なく問う男の声に、予めわかっていた答え合わせをするかのように幼い声が返された。男は、その返事に漸く落ち着いたのか、溜め息のような吐息と共に言の葉を零す。
「では、来月だな」
「そう、ですね……」
二人の呟きは、闇の中に溶けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます