第131話 我が道を行く
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教師が参戦したことによって、無人島内の勢力図も大きく変化していた。
得点上位候補だった明智と火野の脱落に続いて各エリアで教師陣が猛威を振るっている。
2日目こそ得点を重ねておきたいというのが生徒の心理としてあるが、その一方で派手に動き回れば教師の視界に入ってしまう危険性がある。
一部の生徒は早々に得点上位入りを諦め、生存者ボーナスの獲得に焦点を絞っていた。
苦労して獲得した得点を使ってGPSサーチを行い、人が密集していないエリアへ拠点を移す。
逃げることも戦略の1つだが、明日の最終日ともなると生き残っている生徒数はさらに減っていることが予想されるため、結局は自力の差が出てくる。
集団序列戦が終わった後、果たして誰が笑っているのか。
この段階ではまだ誰にもわからない。
時刻は昼前。
保坂と別れた鞘師は無人島を左右に二分する北エリアの山頂に足を運んでいた。
集団序列戦開始前の下見の段階では存在しなかった巨大な城。
材質は土や岩でつくられており、見た目に関してはそれほど美しくはないが即席でつくったにしては十分過ぎるくらい立派だ。
「久しぶりの来客だから歓迎したいところだが、生憎とドリンクを切らしていてねぇー」
城の最上階から鞘師を見下ろす岩渕。
自慢の金髪が風で
「気を遣わなくて結構。どうだ? ここには私とお前しかいない。下に降りて来て少し話でもしないか?」
「話ならばここからでもできる。私もちょうど退屈していたところなんだ」
鞘師の提案には乗るが下には行かないと首を振る。
初日に好き勝手に暴れたため、山頂付近には誰も寄り付かなくなっていたのだ。
「そうか。お前がその気なら無理矢理にでも引きずり出すまでだ」
鞘師が城の1階部分に右腕を触れる。
「
次の瞬間、鞘師が手を触れている1階部分から徐々に城が崩れ始めた。
城に潰されないようにと岩渕も外に飛び出す。
「随分と強引な手を使ってくるじゃないか。無駄な体力を使わせないでくれ」
岩渕が制服の埃を手で払いながら鞘師に視線を向ける。
「仕方がないだろう。あの距離では声が聞き取りにくい。それに私が城の中に入ったとしてもお前が異能力を使わないとも限らないだろ」
岩渕の硬度変化の異能力で生き埋めにされる可能性があった。
無論、そうなった場合は右腕で瓦礫を粉々に破壊するだけの話だが。
「クククッ」
岩渕は笑みを浮かべるだけで否定も肯定もしない。
「岩渕、お前とは1度話をしておきたいと思っていたんだ」
「ほう」
「岩渕、お前は数ある選択肢の中からなぜ学院を選んだんだ? 多くの生徒は明確な目的を持っているように感じられるがどうもお前の腹の中が見えなくてな」
普段の自由な言動や態度が原因で周りから一定の距離を置かれている岩渕だが、当の本人は特に気にしている様子は無い。
何を考えているかわからないと思われても当然だろう。
「私は昔から縛られることが苦手でねぇ。決められた未来にうんざりしていたんだ」
「確か父親が複数の会社を経営しているんだったな」
入学時に学院に提出された書類にそのような内容が書かれていたことを鞘師は記憶していた。
敷かれたレールの上を走るだけの人生。
それに嫌気が差して親に反発するなんて話は別に珍しい話ではない。
「好きでも無い仕事で汗を流すなんて私にはできない。だからこの学院を選んだんだ」
手櫛で髪を掻き上げながら独特な間を作る岩渕。
数秒、沈黙が訪れるが鞘師も岩渕の仕草に目をやるだけで口を開こうとはしなかった。
「鞘師ティーチャー、私からも1つ聞きたいことがあるのだがいいだろうか?」
「ああ、構わない」
「序列7位以内で卒業できた場合、学院はあらゆる願いを叶えてくれると謳っているがそれはどの程度のモノを言っているのかね?」
「過去には有名企業に就職することを希望した生徒や、大手ヒーロギルドへの所属を選んだ生徒もいた。後はそうだな、大金を得た生徒もいたな。基本的には望みは叶うと考えていいだろう」
「では、仮に自分の国が欲しいと言った場合はどうだろうか」
「自分の国だと……」
岩渕の口から飛び出した予想外の願いに鞘師がそう繰り返してしまうのも無理はない。
「それは学院がどうこうできる問題を超えている」
「ソーリー、ジョークだよジョーク。そうだな。学院が所有しているこの無人島の権利を譲って欲しい。これはどうだろう」
「交渉次第だが、恐らく可能だと思う」
「なるほど。それがわかれば私は満足だ」
自分の国が欲しい。
普通の生徒が口にしたのなら冗談と受け取ることもできるが、岩渕が口にしたとなると話は変わってくる。
岩渕は鞘師の横を通り抜け、そのまま数歩進んだところで何かを思い出したかのように足を止めた。
「鞘師ティーチャーが作ってくれたせっかくのチャンスだ。もう1つだけ聞いてもいいだろうか?」
「ああ、なんだ?」
鞘師が振り返る。
「私を慕うとあるガールから耳にしたんだが、大晦日に行われる『ポイント還元システム』は私たち1年生にも適応されるのかい?」
「おかしいな。『ポイント還元システム』については情報の規制を掛けてるはずなんだがな。誰から聞いたんだ?」
「さあ、誰からだったか。急に思い出せなくなってしまった」
岩渕がわざとらしくこめかみを押さえる。
「ったく、都合の良い奴だな。生徒の財布の紐が緩む夏休み明けに情報が解禁される手筈になっている。それまではお前も外に情報を漏らすな」
「ノープロブレム。同学年では親しくしている生徒はいないから心配ない」
「それは自分で言っていて悲しくならないのか」
岩渕が友人を欲しているタイプではないと理解している鞘師だからこそ冷静に突っ込んだ。
岩渕は踵を返して砂浜エリアの方角へ向かって歩き出した。
「鞘師ティーチャー、非常に有意義な時間だった。今回の集団序列戦、私は棄権する」
右手を上げて鞘師に礼をする岩渕。
終始最後まで岩渕という男のことが掴めない鞘師だった。
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