第113話 無人島サバイバル

—1—


 7月4日。午前7時15分。

 船内放送で砂浜エリアへの集合を掛けられたオレと千炎寺はスマホを片手に部屋を出た。


 集団序列戦は午前8時から。

 それまでの間は物資の購入や集中力を高めたり、体を動かしたりと最終調整の時間になる。

 1度船から降りたら次に戻れるのは敗北したとき。もしくは集団序列戦を戦い抜いたときだけだ。


「おはよう神楽坂、千炎寺」


「おはようございます」


 タラップに鞘師先生が待ち構えていた。

 鞘師先生は、異能力者育成学院の校章である鳩の羽が描かれたバッジが大量に入った袋を持っており、通り掛かる生徒に配っていた。


「事前説明で陣内校長が話していたバッジだ。序列戦が始まるまでに左胸に取り付けるように」


「わかりました」


 鞘師先生からバッジを受け取り、その場で取り付ける。

 2日目から序列戦に参加する鞘師先生もすでに左胸に付けている。

 お互いのバッジを砕き合うというシンプルなルールだが、狙われる場所がわかっている以上防御もしやすい。


 そうなると、奇襲攻撃やグループを組んだ者同士の連携で押し切る形が有効になりそうだ。


 その点、オレも千炎寺もソロで臨むことになるから注意しなくてはならない。

 タラップを抜け、千炎寺と雑談を交えながら砂浜エリアへと足を進める。


「神楽坂は物資は買ったのか?」


「いや、まだ買ってない」


「そうか。俺はもう一通り買い揃えたぜ」


 千炎寺が背負っていたリュックサックのチャックを開いた。

 中を覗くと500mlの水が3本、モバイルバッテリー、簡易トイレなどが入っていた。


「荷物を背負いながらとなると戦いづらくなりそうだな」


「そのときは荷物を下ろせばいいだろ」


「あ、それもそうだな」


「なんだ神楽坂って意外と天然なのか?」


 千炎寺が笑いながら肩を叩いてきた。

 昨日の暗い、重い雰囲気とは一変。1日経ったことで少しは気持ちを切り替えることができたみたいだ。


「時間までオレも物資を覗いて来ようと思うが千炎寺も来るか?」


「俺は砂浜で体を動かしてるわ」


「そうか」


 千炎寺と別れ、物資が売っているテントへ。

 購入するのは必要最低限の物だけでいい。


 500mlの水2本とモバイルバッテリー。これだけあれば十分だろう。

 無人島内には砂浜エリアを除き、物資補給エリアが東西南北に一箇所ずつ設けられている。


 集団序列戦が始まったらまず周囲の地形を把握しつつ、各補給エリアを目指そうと思う。

 暗空や明智、千代田の件もあるから状況を見ながら動いていくことになるだろう。


 オレはスマホで3100ライフポイントを支払うと、物資が入ったリュックサックを背負った。

 序列戦が始まるまでは砂浜で大人しく待機だ。


—2—


 序列戦開始時刻の15分前。

 砂浜に集まった154人の生徒はグループ毎に固まってはいるものの綺麗に整列し、前方の鞘師先生に視線を向けていた。


 いよいよ序列戦前最後の説明が行われる。


「お前たちにとって2回目の序列戦だ。心の準備はいいか?」


 鞘師先生の問い掛けにゴクリと生唾を飲む生徒。

 一方で口の端を上げている生徒もいる。


「無人島という特殊な環境下で2泊3日という期間を戦い抜かなければならない。肉体、精神共にかなりの負荷がかかるだろう。体調を崩した生徒は最寄りの物資補給エリアか集団序列戦アプリ内のSOSボタンで助けを求めるように」


 仮に体調を崩したり、怪我の状況が酷く、教師陣の判断で序列戦の続行が不可能と判断された場合、その時点で棄権扱いとなる。

 自己管理も含めた序列戦ということだ。


「集団序列戦に関するルールはアプリから確認することができるが、状況に応じてルールが追加されることもある。その場合は通知が流れる仕組みになっているから各自で確認すること。何か質問がある生徒はいるか?」


 事前に陣内校長がルールを説明し、今回鞘師先生が補足したため疑問点はほとんど解消された。

 オレが見た限り、手を挙げようとする生徒はいない。


「今は7時49分か」


 鞘師先生が腕時計に目を落とす。


「それでは、7時50分から8時までの10分間を移動の時間とする。8時になったら保坂先生がピストルを鳴らすからそれを合図に序列戦開始だ」


 保坂先生が手にしていたピストルをちょこんと頭上に掲げて見せた。

 恐らく陸上部のスターターピストルか何かだろう。


「移動開始!」


 鞘師先生の掛け声を合図に生徒が一斉に走り出した。

 それを横目にオレは目的地を決めるべくアプリでマップを展開する。

 現在地の砂浜エリアは無人島の最も南に位置している。


 物資補給エリアはここを含めて5箇所。

 東西南北に設けられているポイントには、マップ上に目印として赤いピンが刺さっている。


 ここからだと1番近いのは東のエリアだ。

 暗空と連絡を取りながらになるが、東→北→西→南の反時計回りで進んでみるのが良さそうだ。


 とりあえず8時までもう時間がない。

 森の中に入って人目を避けつつ様子を見るとしよう。


 序盤で焦って動く必要はない。

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