〇特待生と一般生

第6話 授業初日

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 高校生活2日目。授業初日。

 異能力者育成学院には、クラスという概念が存在しないため、選択科目でない限り生徒全員で同じ授業を受けることになる。


 事前に配布された資料によると、午前中は大教室にて国語、数学、英語の順番で行われるらしい。

 異能力が専門の学校とはいっても異能力のことばかり勉強するという訳ではないようだ。


 社会に出てから必要とされる最低限の基礎知識は身につけておくべきだという学校側の方針らしい。オレもその考えには賛成だ。

 高校を卒業してから全員が全員異能力関係の職に就くという訳ではないからな。異能力を含めて幅広い知識を身につけるという意味でも良いことだ。


「おお、これはなかなか広いな」


 新入生154人という大人数が同じ教室に集まるということもあり、教室も驚くほど広い。

 教室のつくりとしては、後方になるにつれて高くなるよう設計されている。確か階段教室とか言ってたような気がする。


 席の指定は無い。

 教師の話を熱心に聞きたければ前の方に。授業にあまり積極的に参加したくないのであれば後ろの方に陣取ればいい。


 すでに席は半分近く埋まっている。早めに家を出たつもりだったのだが、皆初日だから気合いが入っているのだろう。

 オレは、一通り教室を見回した後、真ん中辺りの1番窓側の席に腰を下ろした。


 顔見知りになった数人で固まって座っている者、まだ周りとコミュニケーションが取れていないのか孤立している者、自ら1人を選ぶ者。

 教室内だけでも様々なパターンが見て取れた。


 そういうオレも知り合いになったのは、3人だけなのだが。


「おはようございます、神楽坂かぐらざかくん。周りが気になりますか?」


 前の席に座っていた暗空玲於奈あんくうれおながオレの顔をチラッと見て訊いてきた。


「そういう暗空おまえも興味津々って顔に見えるけどな」


「あら、私としたことが顔に出てましたか。恥ずかしいですね」


 全然恥ずかしく無さそうに見えるのは気のせいだろうか。


「いえ、同学年に面白い人がいないかなと思いまして。それと、おまえということは神楽坂くん周りを気にしていたと認めることになりますけど」


 暗空が薄っすら笑みを浮かべる。


「まあ否定はしない」


 誰がどんな性格なのか。

 どんな異能力を使うのか。

 序列上位に食い込むポテンシャルはあるのか。


 興味は尽きないがぶっちゃけどうでもいい。

 矛盾しているように思えるが、それがオレの今の率直な気持ちだ。


「それで、暗空が思う面白い人ってのは見つかったのか?」


「ええ、3人ほど。あっ、神楽坂くんを入れれば4人になりますね」


「そうか。でも暗空が思ってるほど、オレは面白い人間じゃないぞ」


 そう言って何気なく視線を暗空から入り口のドアの方に移した。

 昨日のバスでの一件から、暗空はオレのことを実力者だと信じて疑わないようだ。

 現段階ではこれっぽっちも動く気のないオレからすると少々厄介な状況になりつつある。


「あっ、おーい! 神楽坂かぐらざかくーんっ」


 視線をドアに向けたタイミングでちょうど教室に入ってきた茶髪の美少女に声を掛けられた。昨日、寮のロビーで自主練同盟を結んだ明智あけちひかりだ。

 これだけ大勢の人がいるというのにオレに向かって手を振っている。そんなことをしたら目立ってしまう。


 しかし、無視することもできないので軽く手を上げてそれに応えた。


 改めて明智あけちを正面から見たが、本当に天使みたいで可愛いな。スカートはやや短めだが気になるほどではない。清楚なイメージを保っている。

 すでに同学年で知り合いを多く作ったのか、教室に入るなり男子からも女子からも声を掛けられている。

 容姿も性格もよくてこれだけ明るければ人気になるのも必然、か。


 一通り教室内に可愛いを振りまいた明智は、オレの隣に腰を下ろした。

 周囲の男子からの嫉妬の視線が痛い。大丈夫。オレは何も悪くない。


暗空あんくうさんもおはよっ」


「おはようございます明智さん、学校生活2日目にしてもう揺らぐことの無い絶対的な人気を獲得したようね」


「やだな暗空さん。ただ私は皆と早く仲良くなりたいだけだよ。人気とか人気じゃないとかそういうのは正直どうでもいいかなっ」


 暗空の毒気のある言葉に対しても笑顔でスラッと返す明智。

 この2人、まだ出会って2日目だよな?

 女子は2日でこれだけの会話ができるようになるものなのか? 女子って怖い。


「お、おはようございます……と、隣に座ってもいいですか?」


「おはよう風花ふうかちゃんっ。もちろんいいよ!」


 重い空気になりかけていたところに救世主が現れた。ピンクの眼鏡がトレードマークの千代田ちよだだ。

 おそらく勇気を振り絞って訊いたのだろう。声が少しばかり震えていた。

 それを感じ取ったのか明智が快く受け入れた。


 何はともあれオレの数少ない知り合いが全員揃った瞬間だった。

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