第4話 圧倒的力の差
—1—
凄まじい衝撃と共に公園内に爆風が吹き荒れる。
木々が激しく揺れ、鳥が羽音を立てて一斉に飛び立つ。
公園の中央には肩で息をする明智の姿があった。膝に手をつき、ゼーハーと荒くなった呼吸を整えている。額には汗が浮かび、頬を伝って地面に黒いシミを作る。
一方の土浦はというと、明智とは対照的に余裕の笑みを浮かべていた。まだまだ体力が残っているといった様子だ。
さすがは序列24位というべきか。口だけでなく、実力も十分備えているようだ。
明智も決して力が劣っているわけではないが、経験の差なのか土浦には一歩届かない。
さて、バトルも終盤に差し掛かった訳だが、ここまでに至る経緯を説明しよう。
まず、下剋上システムで行われるバトルでは、公平を期すため、第三者に審判をしてもらうよう定められている。
その審判役に
千代田の震える声を合図に始まったバトル。
その直後、土浦の地面を操る異能力で砂の嵐が巻き起こった。そのまま砂嵐は明智を襲う。
一瞬怯んだように見えた明智だったが、光を操る異能力で砂嵐を相殺すると、土浦目掛けて光の球を5つ放った。
先制攻撃を受けたにしてはなかなかの対応力だ。
5つの光球が土浦の元に最短距離で迫る。
土浦は反射的に地面に手をつき、土の壁を作り出して待ち構える態勢を取った。
1発、2発と光球が土壁に命中する度にひび割れていく。
しかし、その厚い壁が完全に砕けることは無い。
最後の1発で土壁が破られるもなんとか全て防ぎきってみせた。
そこからは、お互い距離を保ったまま遠距離攻撃の応酬となった。
明智はレーザーを。
土浦は砂と土の塊を。
お互いがお互いの攻撃を防ぎながら、たった一撃を入れるために高速で攻撃をぶつけ合う。
その衝撃音を聞きつけたのか、いつの間にか公園の周りにギャラリーが集まってきていた。そのほとんどが入学式を終えたばかりの新入生だ。
だが、戦っている2人はそれどころではないようで、向かい合う敵が放つ攻撃から目を逸らさない。
いや、逸らせないと言った方が正しいか。
両者一歩も譲らず、このままバトルが長引くかと思っていたそのとき、土浦が何やら必殺技のような言葉を叫んだ。
「
先端が鋭く尖った土の塊が螺旋回転を描きながら明智に襲いかかる。その大きさ、速度から避けることはほぼ不可能に近いだろう。
明智もそれを理解したのか両手を前に出し、態勢を低く構えた。正面から自身の最大技をぶつけるようだ。
「
明智が繰り出した巨大な光線が、ゴゴゴゴーっと地面を抉りながら、土の塊に向かって一直線に進む。
2人の最大技が正面から衝突し、今日一番の衝撃を見せた。
土煙が上がり、一気に視界が悪くなる。
それがこれまで。
そして、現在。
「もう立ってるのも精一杯って感じだな。さっきまでの威勢はどうした?」
土浦が明智の元に歩みを進める。
勝利を確信したのか動きにスキが見られる。
だが、今の明智にそこをつく余力は残っていない。
最大技を放った反動が想像以上に来ているらしい。
額に汗を浮かべながら土浦の顔を睨む明智。歯を食いしばり、最後の最後まで戦う意思は崩さない。
——しかし。
「これで終わりだ」
右足で勢いよく地面を踏みつける土浦。
「明智さん!」
「
土浦の足元から明智の足元にかけて次々と地面が裂けていく。
その亀裂は審判をしていた千代田の元にも広がる。
「厄介になりそうな存在は早めに摘み取る。それがこの学校で生き残る秘訣だ。何、俺のバトルポイントの足しになるんだ。悪い話じゃないだろ」
明智と千代田が亀裂に飲み込まれるような形で落ちていく。
パッカリ開いた地面の底はここからでは見えない。ただ、即死だということは間違いない。
「さすがに不味いな」
これ以上見ていられないと判断したオレは木の陰から飛び出し、穴の中から審判をしていた千代田の制服を掴んで引き上げると、そのまま左脇に抱えた。
「え、えっ? 誰ですか!?」
「喋らない方が良いぞ。舌を噛む」
すぐさま跳躍し、大きく開いた亀裂を飛び越える。
「わわわわわわわわ」
足場を失い、絶賛暗闇の底に向かって落下中の明智の腕を間一髪のところで掴むと、力尽くで引き上げた。
そして、反対の脇に抱えてそのままこの場を立ち去ることにした。
幸い亀裂ができる際に砂煙が上がったため視界も悪い。
土浦からオレたちの姿は見えていないだろう。
「えっ? あなたは? あっ、
明智がオレの左脇に抱えられている千代田と目が合い、頭に疑問符を浮かべた。
まあ、状況が理解できないのは当然のこと。
「後で説明するから口を閉じてろ。少し飛ばす」
「うわっ!」
風を切り裂き、ギャラリーのいない方へひたすら走った。
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