44

体を離すと、雄大がいつになく真剣な声色で言う。


「鍵が空いてるなんて不用心だ。危ない。」


「閉め忘れちゃってました。ごめんなさい。」


素直にペコリと頭を下げる琴葉に、雄大はすぐに優しい眼差しになる。


「でもそのおかげで入れたよ。よく考えたら俺の行動は完全に不審者だったな。」


「ほんと、驚きましたよ。」


雄大が照れくさそうに頭を掻くので、琴葉はクスリと笑う。

お互い顔を見合わせてなぜだか可笑しくなってクスクスと笑い合った。


「そうだ、これお土産。」


雄大はポケットから小さな包みを出すと、それを琴葉に手渡す。

首を傾げながら包みを開けると、すずらんがモチーフのベネチアングラスのペンダントだった。


「うわあ、可愛い。」


「お姫様な琴葉にぴったりだろ。」


そう言って優しく笑う雄大に、琴葉は胸が締め付けられる思いがする。

優しくされればされるほど、雄大にとって琴葉は遊びなのではという思いが渦巻いて仕方がない。


「受け取れないです。」


「どうして?」


恐る恐る突き返す琴葉に、雄大は首を傾げる。

またお金の心配でもしているのだろうかと呑気なことを考えていた雄大だが、それはまったく違った。


「こういうものはちゃんと彼女さんにあげてください。私なんかに買ってきちゃダメですよ。」


震えそうになるのを抑えながら琴葉が紡ぐ言葉に、雄大は何事かと身構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る