第19話 遺体回収(五)

「野村刑事!どうだ!『弾帯』はあったか?!」


と水野課長はテントの外に声を掛け返事を待っていた。

しばらくすると記録していた遺留品台帳を見ながら野村刑事が


「はい。捜査課長、有りました!おそらくこれでしょう?」

と半分ちぎれかかった皮製の帯のような物を持って来た。


「鬼頭さん、これが君の言う旧日本陸軍の『弾帯』と思うが、これがどうかしたのか?」


「はい、右側の実弾ケースに『印鑑』があるはずです。いんかは象牙製で『佐川』と彫られていると聞き覚えています。すぐに調べて下さい。」


私が答えると警官が腐食している実弾ケースのホックを外し、中から泥で汚れた『印鑑』を取り出した。


「確かにこの中に有りました!」


と皆に聞えるように叫び係官に渡していた。


その出てきた印鑑は正しく佐川と刻印され長い間、土中に埋もれていても手を加えると今も使用しているように「象牙」独特の光を保っていた。


「鬼頭さん、これ以外に証拠の品はありませんか?」


「バンドの『バックル』は有りましたか?富永正治との会話で、模様は聞いていませんが、神戸大学の『校章』があると覚えています。」


「野村刑事!『バックル』はあったか?」


「課長、バックルらしきものは2個回収しています!一個は軍隊の物ですから関係ありません。大学関係のは、多分これでしょう」

と言って「神大」の文字をもじった白銅製のバックルを捜査課長に手渡した。


「ほう!これか?かなり錆びているが確かに『神大』と読めるな・・・」

水野課長は驚きとともにバックルを手に取り、表と裏を確認していた。


このような流れで鬼頭候補が言うような「物的証拠」が逐一出てきたので参加している人たちは声には出さないが、さすがに驚きを隠し得ないようである。


その他の特記事項として髑髏及び遺骨の表面に、多数の切り傷又は刺し傷らしき痕があり、鑑識官が入念に調べたが、何故こんな傷が付いているのかがわからなかった。


首を傾げるばかりの検査官が云える事は、殺害の時、鋭利な刃物で数回も突き刺して出来た傷と思われ、そこまで犯人は被害者を憎んでいたのか、又は単に精神異常者かということであった。


このように不可解な点が多い疑問の残る調査となったようです。


ドロを取り出し野積みにされた井戸の周辺では、溜まっていたヘドロ独特の悪臭が漂い、井戸底ではマスクをした警官が巻尺を持って、池の内部を計測していた。


暫くして捜査課長から


「今、当方の関係者と協議した結果、君の調書は全て非科学的で色々疑問点も多いが、一昨日から明け方迄の短時間に、井戸の中での事前工作をする事は不可能であること、特に髑髏等は蓄積した沈殿物の下にあり、池底に溜まっていた、木の葉等の沈殿物の状況を詳しく調べた結果、今回が初めての発掘だと確信した」

との声明が上がった。

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