光と闇──ボードレール讃

 紅き空の虹は言う。

「私に血は流れていない」

 ちょいと目配せをして、それから霧の洞窟を私は歩く。すると、出逢った蛇がするすると言う。

「私に嘘は書かれていない」

 そこで私はその紫煙の蛇を潰して奥へ奥へと進み入る。何時いつにも増して奥の闇は悲劇のように眩しい。全く何も見えぬ。──光と同じである。

 洞窟を抜けると、たにの口にはツァラトゥストラ。傍らにはクレオパトラがかりの翼をもぎて空を仰ぐ。

「天国は何処いずこにありや」等云々。


 (束の間の休息。珈琲店コーヒーショップには『永遠』の看板あり。やがて沈黙)


 ああ、虹よ、虹よ!

 私は今、何処どこにいる?

 蛇よ! 私は今、何を語る?

 闇よ、我が愛しき闇よ! 超人よ、麗しき女王よ!

 私の天国は、何処にある?

 ああ、休息よ! 私の永遠よ! 沈黙よ!

 ──私の死は、一体何処で何を知る?


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