追放

 気が付くとキラは檻の中で横たわっていた。街の留置場である。後ろ手に木の手錠が嵌められていた。目の前に黒い鉄格子が鈍く光っている。

 

「目が覚めたか?」

 

保安官が聞いた。

 

「私……」

  

「全く、よりにもよってタジル様の屋敷に盗みに入るとはな。タジル様はこの街の名士だ。要するに権力者だ。まあ、諦めるんだな」

 

名士……。権力者……。キラには理解出来ない概念だった。村では誰もが平等だった。村長ですら、皆を取りまとめる役目が有るだけで、権力などというものとは無縁だ。

 

「私、働いたけどやっていけなくて。私の住んでいた村では、富めるものは貧しいものに分け与えるのが掟だったわ。だから……」

 

「ふん。それはお前の村の話だろう? この街では違う。タジル様から、盗人は砂漠に追放するように申し使っている。残念だったな」

 

「そんな……」

 

キラは俯いた。

 

 キラは砂漠まで護送されることになった。二頭立ての馬車に押し込められる。隣に保安官が座って、キラの手錠に付けられた綱を握っていた。馬車は街の門を抜け、小麦畑を横切り、砂漠へと向かった。木で出来た馬車のワゴンは座り心地が悪く、常に振動でキラをガタガタ突き上げた。

  

 丸一日走って、馬車は広い砂漠で止まった。 

 

「よし、この辺りで良いだろう」

 

保安官は馬車のドアを開けると、キラを外へ引きずり出した。

 

「まあ、一応手錠は外してやる。運が良ければ何処かのオアシスにたどり着けるだろうさ」

 

 キラを残して、馬車は走り去った。キラは呆然と馬車が見えなくなるまで見ていたが、やがてヨロヨロと歩き出した。行く当てなど無かったが、そうするより仕方がなかった。久しぶりに見る砂漠。何処までも続く褐色の砂の大地と点在する岩山。上を見上げると、真っ青な空がキラを嘲笑っているかのようだった。キラはあてどもなく、死ぬほど歩き回った。歩いているうちにどんどん暑くなり、堪らなくなったキラは、日陰を探した。少し離れた所に、香色の岩山が有った。ギラつく太陽の光を受けて、濃い影が出来ている。キラは岩山まで歩き、日陰に入り込んだ。ひんやりと涼しい空気が肌に纏わりつく。岩山を背もたれに、キラは座り込んだ。

 

 不意に涙が一筋キラの頬を伝った。一度流れると、涙は止めどなく流れてきた。今まで堪えてきた思いが一気に溢れだす。キラは誰もいない砂漠で、わあわあ泣いた。

 


 

 

 

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