第17話
そうだ。
仁の住むマンションへ行ってみよう
多分、会社は違っても住んでいる場所は変わっていない筈。
悲嘆にくれながらも、一筋の希望を見つけ出した。
今はただ、逢いたい思いだけが強かった。
逢って、自分の事がわからなくても、仁の存在を確かめたかった。
それにもしかしたら、逢えた時には元の世界に戻って、いつもの仁が戻って来てくれるかもしれない。
こんな不思議な事が起こる世界なら、そんな奇跡だってあるかもしれない。
次の日
葵は休日だと言うのに早起きして仁の所へ行く準備をしていた。
仁は、いつも休日は1日中部屋にいる事が少なく、気晴らしにフラッと何処かへ出かけると言っていた。
出かける前に、逢わなければ、いつ帰って来るかわからない。
葵は緊張、不安、もうすぐ逢える期待の気持ちと、次々沸き起こってくる様々な感情を抱きながら、仁の住むマンションへ向かった。
どうか道が変わっていませんように、マンションがちゃんとありますように。
その事だけを強く心に念じていた。
マンションは、変わりなく、そこに存在していた。
良かった。
仁に逢える。
仁の部屋へ一目散に向かう。
黒崎仁。
そこには見慣れた表札があった。
葵は思いきってチャイムを鳴らした。
少しすると、ドアに人が近づく気配がして、ゆっくりとドアが開けられた。
そこに立っていた仁は、パジャマ姿ではないものの、休日の朝のくつろいだラフな格好で、まだ眠たげな様子だった。
髪型がいつもより短くなっているせいか、見慣れた仁とは少し違って見えた。
少しの間。二人は見つめ合った。
それはほんの数十秒の出来事なのに、葵にとってはその何倍もの長い時間に感じられた。
「あの。。どなたですか?」
しかし数十秒後に仁から出た言葉は、期待していたものとは正反対のものだった。
「あ。。あの。。実は知人に会いに来たんですが部屋がわからなくて。。佐々木なんですが、わかりますか?」
葵は咄嗟に嘘をついた。
「どうかな。実はあまり他の部屋の方の名前を記憶してなくて、申し訳ないです。表札出てない所が多いですよね。あっ、でも下の郵便受けを見たらわかるんじゃないかな。一緒に行きましょうか」
「いえ、大丈夫です。行って見てみますから。ありがとうございます」
最後の方は涙が出そうになるのをこらえながら、
仁の顔も見られずに下を向いたままそうお礼を告げてドアを閉めた。
仁のバカ、仁のバカ、仁のバカ。。
守ってくれるって言ったのに。。。
私の事忘れてしまうなんて。。。
仁が悪い訳ではない事はわかっていても、そう思わずにはいられなかった。
今まで過ごして来た時間は何だったのか。。
私は全部覚えてるのに。。
忘れたいと思っても忘れられないのに。
仁はやっぱり優しくて、困ってる人を放っておけないお人好しで、そんなとこは全然変わってないから、余計に切なくなってしまう。
いつもその優しさを惜しみ無く注いでくれていたのに。。。
もう逢えないなんて。。
今まで職場でも一緒で、そばにいるのが当たり前だったのに、当たり前すぎて気付かなかったよ
こんなに大切な存在だったんだって。。
仁に逢う前の私には、もう戻れない
仁がいないと生きていけないよ
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