オーウェンVSサスケ―死闘の果て―
戦いの幕はオーウェンの攻撃で切って落とされた。
鋭い踏みこみから、怒涛の剣戟が繰り出される。
過去の戦いでその実力を垣間見てきたが、彼も優れた戦士であることが分かる。
シモンは脱力した状態から、流れるような攻撃を繰り出すことが特徴的だった。
オーウェンはシモンほどの滑らかさはないものの、一撃ごとに重量感があり、剣圧で相手を押して劣勢に立たせることができそうだ。
サスケを相手にするには速度的に劣勢かと思われたが、その攻撃は彼をじりじりと追い詰めているように見えた。
対するサスケはオーウェンの剣よりも一回り短い刀で攻撃を捌きつつ、反撃の好機を窺っているような戦い方だった。
戦いの成り行きを見つめながら、ふと考えてしまう。
あるいはこれがシモンだったら、すぐに決着は着いていただろうか。
彼はサスケの影縛りに囚われて動けなくなっている。
行動の制限がなければ、おそらくその命を狙うサスケと対峙していただろう。
オーウェンが劣るなどということは全く思わないが、心の中で無双の強さを誇るシモンの影響が大きいようで、知らず知らずのうちに彼と比較してしまう。
オーウェンとサスケは互いに手の内を知っている。
サスケは正気でなさそうだが、普通に戦っているところからそういった記憶が抜け落ちているようには見えない。互角の戦いならば長引くかもしれない。
見ているこちらが手に汗握るような死闘になっている。
両者は一撃で命を奪い取れる武器――剣と刀――を手にしながら、双方が決定的な一撃を与えられずにいた。
「ああっ、見てることしかできないなんて、歯がゆいったらないぜ」
「この忌々しい術を解ければいいのですが」
リュートとエレンはフラストレーションが溜まっているように見えた。
他方でシモンは何も話さないまま、戦いの成り行きを見守っている。
俺は足が動かなくとも魔術で攻撃できるが、オーウェンを誤射する可能性もあるので、無闇に放つことはできない。残念ながらそこまでの精度は持ち合わせていなかった。
ただただ、オーウェンが勝ってくれることを祈るばかりだった。
互いに攻撃パターンを把握しているようで、決定的な一撃にはならない。
目まぐるしく攻守が入れ替わり、わずかな隙さえ命取りになりそうだった。
オーウェンは膠着状態を解こうと考えたのか、飛び退いて間合いを取った。
それなりに装備の重さはありそうだが、軽やかな身のこなしだった。
息詰まるような攻防を後にしていても、呼吸の乱れはないようだ。
一方のサスケは混乱したままのようで、目の動きがどこか不自然に見える。
正気を失っているのならば、影縛りという高度な技術を使えないはずなので、もしかしたら何者かに操られているのかもしれない。
「……いやっ、そんなバカな」
自らその可能性に思い至ったものの、いまいち確信が持てなかった。
それにそうだとして、サスケを正気に戻す方法などあるのだろうか。
オーウェンとサスケを交互に見やりながら、自分にできることを考え続けた。
小休止のような間があったものの、おもむろにサスケが間合いを詰めた。
待ち構えていたオーウェンはサスケの太刀を見切り、反撃を繰り出した。
完璧な一撃だったが、ぎりぎりのところでサスケに回避された。
あれがよけられるようでは、なかなか決着はつかないだろう。
さらなる長丁場を予感したところで、ふいにサスケの様子がおかしくなった。
「うっ、ううっ……ぐわぁっっ!!」
「どうした、サスケ!?」
オーウェンは攻撃態勢を緩めて、サスケの変化に驚いているようだった。
「……あれ、身体が動く」
サスケに焦点が向いていたところで、リュートが気になることを言った。
「おいっみんな、影縛りが解けてるぞ」
「おやっ、リュートの言う通りですね」
彼の呼びかけにエレンが反応した。
俺も試しに足を動かしてみると、普通に動くことができた。
身動きの取れなかった状況が信じられないほどに。
動けるようになった俺たちはオーウェンとサスケのところに駆け寄った。
「……サスケが正気を失って、影縛りが解けたみたいだな」
「オーウェン、サスケは大丈夫なのか?」
「いや、さっきから不自然なままだ」
皆の視線はサスケに集中していた。
呻くような声を上げながら頭を抱えている。
「……オーウェン殿、おられますか……」
「……ああっ、ここにいる」
サスケが消え入りそうな声でオーウェンの名を呼んだ。
半狂乱状態だったにもかかわらず、何が起きているのだろう。
「……ワタシは魔王のところへ潜入しましたが、幻術で操られてしまいました」
「なんだと、そんなことが」
「……これ以上、正気を保つことは難しいでしょう」
サスケの言葉はまるで、別れを告げるような声音だった。
「――サ、サスケ!」
彼の一番近くにいたオーウェンが慌てた様子で駆け寄ろうとした。
オーウェンに遅れながら他の仲間と近づくと、サスケがばたりと倒れこんだ。
「……窮地に陥った時、打つ手がなくなったら毒を口に含むと」
「……そんな、まさか」
その最後は物語に登場する忍者のようだった。
そして、サスケの死は揺るぎない現実として目の前に横たわっている。
オーウェンは唇を噛みしめて涙を流していた。
それは初めて見る彼の表情だった。
サスケという男がオーウェンにとってどのような存在だったのかを思い知った。
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